15.メモ魔の幼馴染が昼休みに質問攻めしてくる
まさかあの鈴菜に電話で塩対応されるとは思ってもみなかった……。何となく気落ちしながら朝を迎え、登校していると――
「――そこの黒山く~ん~!! こっちに気づけ~!」
……などと、どこからともなく幻聴が聞こえる。朝から俺に声をかけてくる女子は基本的に、事務室で眠って俺に起こされるSしかいないはず。
それ以外はいないという認識だから、まぁ気にしなくていいだろう。
「おい、黒山! おいったら、おいっ~!」
「……ん?」
声がすぐそこまできてるな。後ろから失礼な女子の声が聞こえてきたのでチラッと後ろを見るも、俺の真後ろを歩いていたのは音川だった。
「さっきからずっと呼んでたんだけど? シカトか、黒山~?」
……というか、呼び捨てかよ。もう俺に対する猫かぶりはやめたんだな。
「誰かと思えば音川か。爽やかな朝の登校時間を簡単に奪うとか、俺に何の用だよ? 言っとくが、鈴菜ならいないぞ」
「そんなの見ればわかるし。鈴菜は今、あんたを越えていく準備の真っただ中だからいるわけないんだよね」
こいつ、大丈夫か?
もはや鈴菜がいなくても俺を煽ってくるようになっているのは分かっていたが、ちょっと何を言い出してるのかまるで理解が出来ないぞ。
「峠でも越えていくのか? 井澄峠は川向こうだから気をつけろよ」
「……もしかして、鈴菜の努力に全然気づいてないの? ま、教えるつもりなんてないんだけど~」
「興味ないな。そういうのは本人から聞くし、あいつから勝手に教えてくるからお前から教えられても嬉しくはないな」
相変わらず面倒くさい女子だ。ちょっとは話しやすくなったのかと思っていても、鈴菜推しがエスカレートして俺に煽るようになるから正直相手するのも面倒なんだが。
「あっ、えっと……黒山くんに言っておきたいことがあって声をかけたんだった。ごめん、怒ってないなら話を聞いてくれる?」
感情があちこちに飛び過ぎてるぞ。何で音川の奴は朝からこんなに情緒不安定なんだ?
俺を煽るのが普通だなと思えば急に気弱な感じになるし、何がしたいんだこいつ。
もしかしてこいつの近くにSがいるのか?
焦る表情で俺を見てくる音川の後ろを見ると、そこには駐禁してる車があってその近くに隠れている女子を見つける。何やらこっちをちらちらと見ながら必死にメモを取っているようだが、あれは紛れもなく幼馴染の姿。
……何やってんだ、あいつ。
俺の前に来るとどうしても煽りたくなるんだろうが、多分それだと鈴菜に怒られるから大人しくなってるんだな音川は。
「俺に話って?」
なぜ俺に近づかずに音川を使ってるのか不明だが、とりあえず目の前の音川と話をしておくか。
「えっと、黒山くんの好きな食べ物は?」
「肉」
「……好きな飲み物は?」
「水」
何かのインタビュー調査でもしているかのような質問をしてくるが、もちろんこんなことに真面目に答える義理はない。
「最後の質問。好きな女子のタイプは?」
もう最後なのか。案外根性がないな。
「俺が好きになった人。目を奪われるくらい魅力のある女子」
「……ちっ」
「ん?」
分かりやすい舌打ちだな。
「はいはい、ありがとうございました~。じゃあさっさと教室へ行ってどうぞ」
「言われんでもすぐ着く」
あれだけメモを取ってるのに音川にやらせてるとか、鈴菜もそういう手を使うようになったのか。ああ、でも基本面倒くさがり女子だから自分からすすんで動かないかも。
何かを企んでいるなと思いながらも俺だけ先に教室に着いた。
「貴俊、おっす~」
「うす。河神」
「……何か音川と揉めてた?」
「いや? 特には。何か視えたか?」
鋭すぎる勘でさっきあったことが見えたのかと思ったものの、河神は笑うだけで何も言ってこない。
「ま、自分で気づけたらいいけど、それを相手は望んでないから気にするな!」
河神はそう言うと、俺の肩をポンと軽く叩いて自分の席に戻っていった。音川はともかく、河神は色々鋭い奴だから何かの警告だと思うしかなさそう。
音川のせいで朝から無駄に疲れたので、午前の授業はほとんど寝て過ごした。
「貴俊く~ん、起きて起きて~!」
「……んん」
「お昼休みは一緒に食べようよ~。ねえってば~」
まさか鈴菜に俺が起こされる日がくるなんて。
もちろん完全熟睡ではなく狸寝入りというやつだけど、鈴菜は俺の体をゆさゆさと揺らしながら俺に覆いかぶさって必死に起こしにかかってきている。
音川の声が聞こえないということは鈴菜だけか?
それなら起きるか。
「起きる、起きるから抱きついてくるのは勘弁して」
「よく寝てたよね~? 珍しいね、どうしたの~?」
……朝から無駄に神経削って疲れたんだよ――なんて言えない。
「昨日の電話は何で切った?」
「あっ、……えっとね、昨日は勉強してたの。ごめんね~」
助けを求める視線の先に音川がいるのがバレバレなんだが。
「とりあえず食べよ~! ど~れ~に~し~よ~う~?」
鈴菜は購買で買ってきたらしきパンを二、三個並べてどれから食べるか悩んでいる。
「俺、今日は食欲なくて何も買ってない。だから寝てたんだけど……」
「そうだったんだ~。じゃがバターあんぱん食べる?」
甘いのか何なのか不明なパンをくれるのか?
「じゃあもらう」
「その前に~! 貴俊くんに質問タ~イム!」
「……んあ?」
「これからお昼休みは貴俊くんにいくつか質問するよ~! それに答えたら、もれなく鈴菜さんお手製のパンを食べさせてあげちゃうのだ~!」
購買じゃなくてお手製?
自分で作ってきたのか。どうりで怪しい形のするパンがあるわけだ。
「いいよ、何でも答えるよ」
「第一も~ん! 貴俊くんは甘えたいですか~? 甘えられたいですか~?」
これってクイズ?
……というか、今さらそれを俺に訊くのか。
「甘えられたい方だな。どっちかというと」
「ふむふむ……」
出たよ、メモ魔。鈴菜の中ではメモを取るのが流行りなの?
「第二も~ん! ズバリ、腕ですか~? 足ですか~? それともおっぱいですか~?」
「……は?」
「違う違う、歯じゃないよ貴俊くん。さぁ、選べ~!」
「う、腕……」
教室の昼休みにおっぱいと答えるのは嫌な予感しかしない。
「ふむふむふむ……腕か~確かに!」
……何がだよ!
「本日最後のしつも~ん! 貴俊くんは柔らかいのが好きですか~? それともかたいのが~?」
何だかどうしてもそっち寄りの質問にしか思えないぞ。
「か、かたい方で……」
「うんうん、了解でありま~す! じゃあ、本日のご褒美は――カラもーちょ入りパンで決定~! はい、あげる~」
じゃがバターあんぱんの方じゃないのかよ!
「貴俊くん」
「……どうした? やっぱり別のパンか?」
俺をジッと見つめてくるかと思えば、鈴菜は唇をかみしめながら――
「――わたし、絶対射止めてみせるからね~!」
そう言って、俺を標的するようなポーズをとってやる気を見せていた。もしや祭りの射的でも狙ってる?




