10.放課後に幼馴染が告白されている件
駄菓子好きメンバーに鈴菜が加わった昼休み後の休み時間。
「なぁ黒山。お前、知ってる?」
前の席に座る木下が久しぶりに声をかけてきた。
「知らない」
「ちょぉっ!! お前、話をぶった切るなよぉ!」
「それしか言いようがないだろ」
「お前、本当に不愛想な奴だな~」
俺の前の席に座る木下弘は基本的に付き合いが悪い。そのせいもあって、塩対応をすることにしている。
あくまで俺と木下のふざけ合いに過ぎず、本気で怒ってるわけじゃない。それが出来るくらい気楽な相手でもある。
「塩が嫌なら甘々対応していいんだな?」
「やめろ、キショい! というか、放課後ちょっと付き合え」
「……いや、俺にそんな趣味は」
「その意味じゃないんだわ。とにかく、幼馴染に塩対応するお前に少しは危機感を持ってもらうぞ?」
幼馴染に塩対応?
店の事務室で自由に寝かせるくらい甘対応してる俺が塩対応なら、それ以上どうにも出来ないと思うが。
「放課後にどこに行くんだ?」
「ついてくれば分かる。ただし、隠密行動でよろしくな!」
隠密するほど地味でもないだろ、お前は。
俺の友人枠にいる木下は女子人気が密かに高く、休み時間になると女子の誰かが話しかけているのを見かけることが割と多い。
「弘。今日ヒマ~?」
「悪い、今日は無理だわ。また今度な」
「残念~。オッケー、またよろ~」
……などと、俺と話してる時でもお構いなしに近づいてくるのだから何ともやるせなくなる。
「……モテ男め」
「ん? 話しかけてきてるだけだぞ。お前の方こそ自覚しろ」
「何がだよ」
「とにかく、放課後はオレについてこい!」
なんか偉そうにしてるが、最近の付き合いの悪さを考えればマシかもしれない。
……それにしても鈴菜と音川って、本当にいつも一緒に話してるな。ふと前の席にいる鈴菜を気にするも音川以外に女子を見かけず、何とも近づけない雰囲気を感じてしまった。
そして授業が終わった放課後。
前の席にいる鈴菜を見ようとするもすでにいなく、教室で話しかける機会が本当にないなとつくづく実感する。
「黒山~行くぞ! ……ん? どした? 何を見て――……」
「普段あんまり気にしたことなかったけど、鈴菜って放課後は別人のように動くんだなと。席からいなくなるのが早すぎ……」
昼休みの団子シリーズ買い忘れの時も素早く動いてたけど。
「いや、脱力系女子なのは変わってないと思うぞ。今まではお前が気にしてなかっただけで、浅木は本当は放課後になると……」
「鈴菜がいるところにでも連れて行くんだろ? 早く連れて行ってくれ!」
「ん~まぁ……それはそうなんだけど、黒山がどう思うかは正直分からんからそこは覚悟しとけよ?」
教室では答えを教えてくれないみたいなので、とにかく木下について行くことに。
「……ん、ここは?」
「静かにな……」
木下と一緒に着いた場所は、学園の中で一番静寂な空間とされる図書館だった。
井澄の図書館はだだっ広い部屋の中に無数の書棚があって、端の方に行くと自販機とちょっとしたくつろぎスペースがあるせいか、昼寝する生徒には人気の場所なのだとか。
もっとも基本的には、本を読みにくる生徒や勉強をする生徒がほとんどなので、奥のくつろぎスペースを利用する生徒はほとんどいない。
――のだが、木下と一緒に気配を殺しながらそこへ近づくと、誰かの声が聞こえてくる。木下と無言で頷きながらそこに近づくと、そこにいたのは――。
「え~? わたし、ですか~? どこが~いいんですかぁ~?」
鈴菜だった。
しかも鈴菜の対面には見知らぬ男子がいて、鈴菜に対し頭を何度も下げながら何かをお願いしているように見える。
鈴菜の声は聞こえるのに対し、男子の声はか細いのかほとんど聞こえてこない。
「木下。あれって……告白か?」
「それ以外ないだろ。ここはそういう場所なんだよ」
「前から?」
「いや、最近。でも春は多いらしいぞ。ちなみに今日で三人目だ」
……知らなかった。
鈴菜と話していても告白されたとか、誰かに何か言われたとかを聞いたことがないから分からないしな。それにしたってランキング二位の鈴菜に告白とか、恐れを知らない男子がいるとは驚きだ。
「でも~……わたしは~好きな人が~だから無理~です~」
好きな人か。まぁ、いるよな。いなくても断る為の常套句なわけだし。
「断るのも大変だと思わん?」
「まぁな」
モテない俺には無縁の悩みだ。
「……幼馴染の女子が大変な場面を見て何か思うことは?」
あぁ、なんだ。木下は告白場面を俺に見せたかったのか。
「好きな人がいるなら、そいつとくっつけば告白も減るっていうか、来なくなるとは思う」
幼馴染が好きな人が誰なのかって話になるけど。
「…………何とも思わんの?」
「大変だな、と」
「……はぁ。音川がお前にブチ切れする理由が分かるわ~」
俺の言葉に呆れたのか、木下は静かにその場を離れて俺を置いていなくなってしまった。
俺をここに連れて来ておいてなんて奴だ。とはいえ、俺も何があるのか分からずに来てしまっただけなので、音を立てずに立ち上がり図書室を出ることにする。
「貴俊くん。何でここに~?」
「うぇっ!?」
しゃがみながら告白場面を見ていたせいで、立ち上がりの声かけに対する反応が出来ず、しかもそれが鈴菜だったから腰を抜かして間抜けな姿勢になってしまった。
「しーしー……駄目だよぉ~うるさくしたら~」
そう言うと、鈴菜は俺の口を手で押さえながら顔を近づけてくる。
「……むご、ごめんなさい」
「立てる~?」
間近に鈴菜の顔があるせいか、少し照れくさいものの鈴菜の手に引っぱられて何とか立ち上がった。
「……貴俊くん。そこのソファで話そう~?」
鈴菜にはとっくにバレていた――そういうことか?




