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1.幼馴染の部屋のベッドで寝るやつ

「……んん~…………ん」


 参ったな。


 もうすぐ登校時間ギリギリなのに全然起きる気配がないぞ。


 いくら至近距離に学校があるからって遅刻させるわけにもいかないし、どうしたものだろうか。


 肩を揺らして起こす――いやいや、直接触れるとか間違いが起こったらシャレにならない。そもそも俺がエロいことをしない男子だということに安心して鈴菜は俺の部屋を眠りの場所に選んでいる。


 ……鈴菜から事前に「我慢できなくなったらおっぱいを揺らしていいよ」などとお許しを頂いたが、だとしても下手な行動は慎まねばならない。


 そうなると最終手段というか、いつもの手段を使って起こすだけになる。その手段は、スマホに録音した俺の音痴な歌声アラームを聴かせることだ。


 不本意だがこれが一番有効だ。


 大音量でアラームを数秒後にセットして――オン、と。


「ふぇっ!? わあぁ〜……下手くそだぁ~」


 お、起きた。やっぱり俺の音痴な歌声で目覚めてしまうのか。


「鈴菜さん。遅刻ギリギリなんですが?」


 アラームを止め、そのままスマホ時計を見せてあげた。


「ふわぁぁ〜」


 画面を見るも、あまり慌てる様子がないのもいつも通り。


「急がないと!」

「貴俊くん〜わたしはだるいです~……ところで~」

「う?」


 寝起きはいつも気だるそうである。


「へたっぴな歌声このままキープきぼ~。ヒトカラ禁止~」


 ああ、歌声の話か。


 上手くなりたいのに音痴のままがいいとか、中々に酷なお願いだ。一応幼馴染かつ、学園第二位にランクインしている浅木鈴菜にお願いされたらどうしようもないぞ。


「一人でカラオケなんて滅多にしないから大丈夫ですよ?」


 ぼっちなら可能性があったかもしれないが、残念ながらそこそこ友達がいる俺にとって、ぼっちになる状況はほとんどない。


「そっかぁ~」


 彼女は分かりやすく安心した表情を見せる――のもつかの間。


「ところで~……どうしてそんなに他人行儀~?」


 幼馴染で同学年なのは確実なのだが、学園第二位に君臨してる人に対し、とてもじゃないがタメ口なぞ恐れ多い。


 初めの頃はタメ口だったが、今は敬語で話すことにしている。そうじゃないと学園のランキング実行委員会に睨まれてしまうからな。


「あ、ところで今日も俺の部屋に来る感じですか?」

「ん~……?」


 いや、今する質問じゃないな。


「と、とにかくそろそろ出ましょう!」

「せっかち~」


 俺の幼馴染である浅木あさぎ鈴菜すずなは脱力系女子だ。いつもだるそうにしているうえ、常に眠たそうにしている。


 ところが俺と鈴菜が通学している井澄いずみ学園が、いつから始めたのか不明だが、学園内勝手にランキングと称して守ってあげたい女子ランキングを始めてしまった。


 そんなよく分からないランキングに鈴菜は見事にランクインを果たし、一位こそ逃しているが、学園の二位に君臨し続けるというおかしな現象が起きた。


 中身は脱力系女子だということを知るのは俺と俺の家族くらいで、学園の連中は鈴菜のことをか弱くてか細くて大人しい女子にしか見えていない。

 

 何せ教室でいつも寝ているからな。


 よく眠るようになった一番の原因は、俺が甘やかしているからだ。その原因となった一つに、俺の家というか駄菓子屋倉庫のお店が関係している。通学路の途中に支店があるのだがこれこそが諸悪の根源――いや、原因でもある。


 通学路の支店は小さなお店だ。ここではついで買いのお客さんや、学園の生徒が訪れるのでそれなりに人気が高い。


 自宅は本店がある隣町にあって通学するにはやや遠く、朝早く起きるのは正直しんどかった。そこで俺が思いついたのが、通学路にある支店の事務室で寝泊まりして、週末に帰るという手段。これなら時短なうえよほどのことがない限り遅刻しない。


 ……上手いことを考えたものだと思っていたのに、まさかそこに同じクラスにして幼馴染である鈴菜が眠りにくることになろうとは予想出来るはずもなく。


 ここには当然だが何人かの従業員さんが出勤しにきている。それこそ出勤時間になると、事務所に頻繁に出入りする。そんな場所なのに鈴菜を遅刻ギリギリまで寝かせてしまうと、出入りする従業員と鉢合わせする恐れがあるのでその前に何とか起こさなければならない。


 ――で、今に至る。


「んん~~~っ!」


 相変わらず豪快な欠伸だ。それでもスタイル抜群なだけに欠伸すらもサマになる。そんな鈴菜と俺は幼馴染であるという以外、特別な何かがあるという関係でもなく、ただ単に寝床を提供しているだけの関係である。


「ほら、そろそろ時間がヤバいですよ?」

「う~~」


 幼馴染だけど恐れ多い学園二位の鈴菜を起こすという、俺にとって当たり前の一週間がまた今日から始まる。

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