王都で焼き鳥を売るおっさん2
焼き鳥を売って2時間で4万円くらい稼いだ翌日。
その日も焼き鳥を売るため屋台の準備していた。
しかし、周りから何やら視線を感じる。お隣さんによると俺の屋台の焼き鳥が美味すぎてある噂が広まっているらしい。
「アンタの焼き鳥が話題になってついに王宮の人間が動くらしい」
はは、笑える冗談だ。
屋台で繁盛したぐらいで王宮の人間が来るわけない。
準備が済むとその日も屋台で焼き鳥を売りまくった。今日は焼き鳥を大量に仕入れたし、長時間売ればかなりの儲けになるだろう。
そんな事を考えていると周りが騒がしくなった。何だろうと首を傾げると屋台に並んでいた人混みが左右に分かれた。
奥から兵士たちに囲まれて金髪縦ロールの少女が歩いてくる。
立ち振る舞いの上品さからしてどこかの貴族だろうか。
「屋台で面白い食べ物を売っていると聞いたのですが、おひとつくださる?」
いきなり割り込んで注文してきたこの少女は一体何者なのだろう。
「どちら様だ?割り込みは良くないぞ」
そう言うと近くの眼鏡をかけた側近が声を荒げる。
「無礼者。こちらの方はアナスタシア王女殿下だぞ」
「こらベルトラン。そんな声を張り上げなくてもよろしくてよ」
もしかしてこの国の王女?王家の人間がわざわざ俺の焼き鳥を食べに来たっていうのか?
俺は国王にあまりよく思われていないはずだし王家の人物とは関わりたくない。
大事になる前に帰ってくれないだろうか。そう願いながら王女に食べさせる焼き鳥を焼いた。
俺は帽子を深く被り直し、焼き鳥を王女に渡した。王女は焼き鳥を珍しそうにしげしげと眺めている。
「何、これっ・・・!」
そのまま一口食べるとカッと目を見開き、驚きの表情。
「確かな食べ応えの中にほのかに感じられる肉汁!まろやかにまわりをコーティングされたそれはまるで天使の衣を羽織っているよう!食べる手が止まりませんわ!」
ひとしきり焼き鳥の感想をまくしたてると王女は俺の肩を掴んで鋭い視線を飛ばしてくる。
「この値段でこの美味しさ。なぜこんなものが提供できますの?これをどこで手に入れたか早く教えなさい!」
アナスタシアが騒いでいるので観衆の視線も集まる。
これはまずい。あまりにも目立っている。
言い訳を考えて悩んでいると王女は俺が被っていた帽子を取り上げた。
「はっ!?貴方もしや父上に追放されたダイスケ様ですか?ここで何をしてらっしゃるの?」
どうやら王女は俺の事を知っているようだ。
俺は慌てて言い訳を並べた。
「いや、珍しい肉を仕入れて、ええと、それを焼いてみたら美味くてですね。屋台をやって売ろうかなと」
それでもアナスタシアは疑う姿勢は変えずに身を乗り出して次から次へと質問をしてくる。
その火が出る魔道具はどこから買ったのか、なぜここで屋台をしようと思ったのかなど。
ええい、めんどくさい。ここは撤収させてもらおう。
「いずれまたどこかで会ったらお答えしますよ。それでは」
「ちょっと、話は終わってませんよ!」
これ以上目立つわけにはいかないのでその場から急いで逃げてきた。
◇
「やれやれ、厄介な人間に目を付けられたな」
騒動のあと逃げるように馬車に乗り込み屋敷に向かっていた。
あれ以上騒がれたら困るし、最悪スキルの事がバレるかもしれない。あの場はさっさと去るのが正解だと判断した。
そして王女の反応から学んだことがあった。
どうやら俺はこの国の現状を知らずに商売をしていたらしい。
そもそもこの国の食べ物の選択肢は少ないのだ。普段食ってる食べ物はジャガイモか固いパンかたまに小さな果物、野菜。
そしてそれら全ての値段が高い。
さらに手の込んだ料理をするという発想が無く、肉を提供している屋台が異常に少ない、
その状況下で俺はあの焼き鳥を銅貨10枚で売ってしまった。
価格破壊×貴重な肉×異国風の濃い味付け。
それらすべてを満たす食べ物を何も考えずに屋台で出してしまった。これはかなり目立つ行動だったのだろう。
しまったな。もうちょっと考えてから屋台を出すべきだったか。
【業務用スーパー】で焼き鳥を購入するとこれくらい安く美味しい物が提供できるのだから気づけなかった。
あれ以上商売をしてとっておきのスキルが知られてしまったら困る。
そもそもこんなに大事になると平穏なスローライフが遠のいてしまう。
屋台で商売をすれば金は稼げることは発見したが、今度からは何かしらの対策をしなければいけない。
色々と考えた結果、とりあえず屋台を一旦閉じて屋敷に帰ることにした。
またどうしても金が足りなくなったら何かしら対策をして屋台をやればいいか。
屋敷に着くとイリスが出迎えてくれた。
再会するなり俺は宣言した。
「これからは屋敷に一生引きこもって美味い飯だけ作って生きていこうと思うんだ」
「元勇者候補とは思えない発言ですが何かあったんですか?」
今回の件で俺は気づいた。
この屋敷で目立たないように美味しい飯を自分たちの為だけに作る。
それが至高のスローライフであることに。
この国ではちょっと焼き鳥を売っただけで民衆に騒がれて、王女が街中にわざわざ現れる始末だ。そんなことをしていたら悪目立ちしてしまう。
これからは目立つことはせず、細々と生きていこう。金儲けやスキルを見せびらかすのはやめよう。うん、それが良い。
そう心に決めた矢先、さっそくそんなスローライフ計画をぶっ壊す人物が屋敷を訪れた。