食パンを初めて食べるイリス
屋敷に来てから初めての朝。
意外と屋敷での睡眠は心地よく、ぐっすりと眠っていた。あくびをしながらリビングに向かうとイリスがキッチンで朝食を作っていた。
「朝食を作ってくれてたんだな」
「私はメイドなので身の回りのことは全て任せてください」
「ありがとう、本当に助かる」
思えば元の世界ではずっと一人暮らしで食事は自分で用意していた。こうやって朝起きると誰かが朝食の準備をしてくれているのはありがたい。
ただ、気になるのはこちらの世界の食事だ。
めちゃくちゃまずい食べ物が出てきたらどうしよう。
一瞬そんな心配をしたが、目の前に出されたパンと目玉焼きは何の変哲もなく普通の見た目をしていた。
それぞれ一口ずつ食べてみた。
うーん。感想に困る味だ。
普段食べていた食事と比べて何か物足りなさを感じてしまう。味が薄いのが原因だろうか。
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、そんなことない。美味しいよ」
イリスが心配そうに声をかけてきたので安心させるように返事をした。
この少女が特別料理が下手なわけではないだろうし、これがこの国の食事の基準なんだろう。そう思って朝食を完食した。
ここからは特に予定もないので自由に使える時間になる。とにかく今日は固有スキルの確認したい。
このスキルは何が起こるか分からない。
安全の為に一旦家屋敷の外に出る。
周りに人がいないことを確認して【業務用スーパー】のスキルを発動させた。
すると目の前に表示されたのは通販のようなサイト。
本当に異世界系でよくある通販スキルみたいなんだな。目の前に表示される画面に驚きつつも試しに色々と触ってみる。
サイトを触っていると分かったことがあった。
それはただの通販サイトではなく業務用スーパーの商品だけが置かれているサイトのようだ。
つまり何でも買えるわけではなく業務用スーパーに置いてあるものだけ取り寄せることが出来るらしい。サイトには前世で自分が業務用スーパーで買っていたお馴染みの商品がずらりと並んでいる。
試しに何か買ってみよう。
少し悩んでから酵母食パンを買ってみることにする。
酵母食パンとは業務用スーパーで人気のふわふわで美味しいと評判の食パンである。
酵母食パンを選ぶと決済画面に切り替わり、画面には2000GPという数字が見える。なるほど。このポイントを使って決済するのか。
大体の商品の値段を見ていると1GP=1円くらいだということが推測できた。
だから2000GPは日本円で言うと2000円くらいだろう。
業務用スーパーは全体的に商品価格が安いので2000GPだけでも結構な量の買い物が出来るはずだ。とりあえず酵母食パンだけを決済する。
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酵母食パン:290GP
購入合計:290GP
残金:1710GP
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決済画面が表示されると目の前にいきなり食パンが現れた。
手に取って見てみると前世でよく食べていた酵母食パンとまったく一緒のパッケージだ。
恐る恐るそのパンをちぎって食べてみる。
おお、これは紛れもない前の世界でよく食べていたあの味だ。
ほんのり甘い香りと柔らかい感触が口の中に広がる。こういうのが飽きなくて一番美味い。
「あっ、ダイスケ様が隠れてパンを食べてる!」
驚きの声をあげてイリスが屋敷の玄関前からこちらを見ていた。
こっそりとスキルを使ったつもりなのに見つかってしまった。なかなか目ざといメイドのようだ。
イリスは俺の行動に大騒ぎだったが、手元にある食パンはスキルで出したものだと伝えると落ち着きを取り戻した。
興味深そうに見てくるので一口食べてもらおう。
異世界の人間に業務用スーパーの商品はどのように感じられるのか興味があった。
「これは最初からバターが塗られてるのですか?でも表面は真っ白で何も塗られていないですよね?というかパン自体が柔らかすぎる!口の中がまるで天国です!」
イリスは食パンを食べるとその美味しさに驚いたようだ。
この食パンは業務用スーパーの最高傑作と言っても過言ではないからな。その気持ちも分かるぞ。
しかし、よほど美味かったのか目の前ではイリスが一斤の半分ぐらい食べてしまっていた。このままだと全て食べられてしまうのでさすがに止めに入った。
あ、そうだ。そのとき俺は閃いた。
こんなに美味しそうに食べてくれるのだったらこのスキルを使って料理を作ればいいじゃないか。
スキルで業務用スーパーの食材を取り寄せることが出来るということは、この世界でも自宅で作っていた料理が再現できるはずなのだ。そうすれば前世で自炊をしていた経験も活かせる。
「イリス、夕飯は俺に任せて欲しい」
「ダイスケ様は料理もできるのですか?」
イリスに夕飯を作る許可を取ってさっそく【業務用スーパー】のサイトを操作しながら使えそうな食材を探す。
自分の生活を振り返って昔よく食べていた料理を思い出し、夕飯のメニューはアレに決めた。