7話 異世界転移ってやつか?
川の近くにある洞窟付近に移動したあと、俺は馬から下りた。
「ありがとよ、おかげで助かったぜ」
礼を言い渡すと、騎士も下馬した。重々しい兜を脱ごうとしている。
「それ、暑そう―――」
首に負担が掛かりそうな兜にツッコミを入れようとした時、騎士が兜を脱ぎ終えた。だが、驚くのはその行動ではない。
「あれ……?」
騎士と言えば強面でワイルドな男を想像していたが、目の前に立つ人は自身の思い描いていたイメージとはまるで大違いだった。
ニキビや傷は一匹も潜んでおらず雪原の如く真っ白な肌の顔と、肩まで伸ばし普段から手入れがなされていると一目で分かる黄金の髪。
救世主である騎士の性別はまさかの、女性だった。年は自分より少し上の18ぐらいだろうか。顔はかなり整っている。モデルみたいだ。
女の兵士なんて変わり者だと思ったが、昨今はジェンダー平等の時代だ。ボスホートルーシの軍にも何人かの女性兵士が勤務していたのを見た事がある。今の情勢を考えればそこまでおかしくもないか。
「どうかしましたか?」
ずっと凝視していたせいか、向こうから声を掛けられた。声も女性らしくしっかり高いものだ。
「別に。にしても時代の流れは怖いなぁ」
人類はたったの数百年前まで徒歩や馬車で移動していたが、今では車両が主流だ。10年後、20年後の世界は現在よりもさらに進歩しているだろう。
「そうですか……それより、怪我はありませんか?」
「問題ねえよ。そんな事よりも助けてくれて悪いな」
「いえ、それが私の仕事ですので」
礼も相手にきちんと伝えられたし、そろそろ探索の続きでも始めるか。
背を向けて手を騎士に振りながら離れていくと、腕を強い力で掴まれ引き止められた。
「馬鹿者―――」
突如の罵倒に続き、
「何を考えているのですか。夜や夕方になると先程の兵隊や魔物に狙われますよ」
死にたいのかと警告。
兵隊は理解できるが、魔物は意味不明だ。もしやこの騎士は変な薬でも吸ったのかもしれない。戦場でも戦闘にトラウマを持った兵士が薬物に手を染める事が多々ある。
まあ、少し話を聞いてみるか。薬物中毒者と話せる機会なんて早々ない。
「あー、えっと、ここはボスホートルーシか? ロシア兵は見当たらないけど」
「ぼすほーとるーし? それとろしあとは……」
前の騎士は首を傾げながら、拙い口調でそう呟いた。
「おいおい、ロシアを知らないのか? とてもヤバくて世界の迷惑野郎だぞ」
「そ、そうなんですね……しかし、私にはあまり分かりません」
喋り方は安定しているし、薬物中毒ではなさそうだ。となれば、この女性騎士は単純に不登校だったのかもしれない。不登校ならば実質的に義務教育を受けていないので、ロシアの存在を知らない可能性もなくはない。それでもニュースを見ていれば一度は聞くと思うが。
何だか、面白くなってきたぞ。もう少し喋ってみるか。
「じゃあ、ここはどこなんだよ」
「カッシーノベルク帝国です。帝暦は221年ですね」
「はあ?」
理解不能な単語が口から飛び出てきて、思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「ですから、ここはカッシーノベルクです」
強い口調で、はっきりと言い渡す騎士。
俺は自他共に認めるお調子者だが、こういう風にあまりにふざけている奴には怒りを覚える。
「おい、いい加減真面目に答えろ。こっちはさっさと拠点へ戻らないといけないんだ」
「戻るもなにも、ここはカッシーノベルクですから」
「嘘つけ、ボスホートルーシだ」
「違います、カッシーノベルクです」
「じゃあ証明しろ」
「そう言うのでしたら、そっちも証拠を出してください」
子供じみた口喧嘩を繰り広げている間にも太陽は沈んでいく。これ以上の争いは不毛と判断し、敗北を自ら宣言した。
それに落ち着いて考えてみれば、目前の騎士が嘘を言っているようには思えなかった。虚偽の発言をする人間は大抵目が淀んでいるが、彼女の目はずっとそのままだった。
「悪かったよ」
「いえ、こちらも少し言い過ぎました」
互いに反省する。どちらかと言えば、感情的になって一方的に喧嘩腰な態度で詰め寄った俺が全面的に悪いと思う。あと、薬物中毒者と勝手に決め付けた事も心の中で反省した。
「まあとにかく、俺はそこらで野宿を―――」
再び背を向けて野宿できそうな場所を探しに行こうとすると、
「さっきの言葉を忘れたのですか?」
騎士に両腕を強力に掴まれ、無理やり彼女の方へと振り向かされた。何とも強引な女だ。
「もう鬱陶しいな。じゃあどうすればいいんだよ」
半ば怒り心頭で言い返すと、眼前に立つ騎士がとんでもない爆弾発言を投下した。
「今日は洞窟で寝泊まりしましょう、私と一緒に」
きっと聞き間違いだと思い、再度質問を投げ掛ける。
「すまん、もう一回言ってくれ」
「聞こえませんでしたか? 私と一緒に―――」
「ああ、もう言わなくて結構だ」
どうやら、聞き間違いではなく、最初に聞いた通りだったようだ。
相手の方が少し年上とはいっても知り合ったばかりの異性同士が2人で、閉鎖的な洞窟で一夜を過ごすのは色々と問題がありすぎるだろう。それも相手は美貌の持ち主だ。問題が起これば警察へ突き出されてしまう。
しかしこの騎士は頑固な人だ。提案を断るとまたさっきみたいに止められるだろう。だから俺は、その案を受け入れた。
それともう一つ、重要な誓いを心に刻んだ。
俺は、目の前の女の人に一目惚れしてしまった。性格もまだ分からないが、何と言ってもその純粋で澄んだ瞳に自身の全てを支配されてしまったのだ。
うん、本当に決めた。
俺、この女性をお嫁さんにしよう!
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