4話 逃げるのも戦いの内さ
地面はさっきとは打って変わって歩きやすい土ではなく、登山家が好みそうな岩の地面だった。少し前まで雨が降っていたのか、表面が滑る。
足裏に力を注ぎながら、慎重に、ゆっくりと歩く。
滑らないように心掛けて丁寧に歩いていると、どこからか人の声が聞こえた。
立ち止まり、聴覚の神経を最大限に引き上げる。
音の発生場所は西側。
西の方角に向くと、Hk416の上部レールに装着したブースターと呼ばれるホロサイトの倍率を上げるためのスコープを起こし、レンズに目を密着させた。
木々の隙間を縫ってレンズに野営地のような場所が映る。しかし、先程の悍ましい野営地とは違い、先にある野営地には人が何人か居た。顔や肌の色も自分と同じだし、仲間のキャンプ地だろう。
銃を下げると、あちらへ向かうためにジャングルのように入り組んだ森へ飛び込んだ。
枝が進撃を阻み、革製の鞘からサバイバルナイフを引き抜いて薙ぎ払う。
「自然は大好きだけど、ここまでくるとイライラするな」
そんな文句も、枝が断ち切られる音にもみ消されていく。
腕時計を見るとここに入ってから既に20分以上が経過していた。早く出ないと日が暮れて、今度こそはロシア軍に拉致されるかもしれない。
邪魔な枝を払いながら前進する事しばらく、ようやく深い森から抜け、野営地の前に辿り着いた。
到着したので早速そこらに立っていた兵士に話し掛けるが、妙な違和感に身を包まれた。
その違和感の正体は、目の前の兵士にあった。
歩哨の兵士は何時代なんだよという甲冑を身に着けていて、傷だらけの手には本でしか見た事のないような槍を持っていた。
どんなに貧乏な戦闘員でも、こんな時代遅れ過ぎる身なりはあり得ない。
敵の策略に落ちたのかと考えつつも疲れがだいぶ蓄積していたので、相手からの返答を待った。しかし眼前の兵士は目を鋭くしており、場違いな格好の自分を警戒していた。
兵士の警戒心を緩和しようとHk416の弾倉を引き抜き、敵ではない事を自分なりに証明した。これで柔らかくなってくれると助かるが、すぐにその考えは甘かったと思い知らされる。
槍の鋭い先端を顔の前に持って来られる。金属の尖った部分は錆だらけで、一部が欠けていた。かなりの数の生物を殺しているのだろう。もしかすると、コイツがあの野営地で虐殺を働いたのかもしれないと思う程だ。
「まあまあ、落ち着いて」
左手で槍を下げるように促す仕草をしつつ、右手はホルスターに収めているガバメントに伸ばす。
その行動が彼の怒りに火を点けたのか、槍を突っ込んできた。
間一髪のタイミングで下へ回避し、転がり回った後ガバメントを勢いよく引き抜いて立ち上がった。
この男は危険だと、射殺しようと思ったが―――気が付けば大勢の兵士に包囲されていた。襲って来た兵士はもちろんの事、かなりの刃渡りがある剣や手作り感満載のクロスボウを携えた兵士が立っている。テントからも続々と新たな兵士が出現していた。
数十人をたったの数発しか入らないガバメントで仕留めるのは不可能だ。
逃げるが勝ち、というやつだな。
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