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40話 お金稼ぎ

 暴行事件から数日が過ぎた頃の公民館。俺とダグラスは椅子に座って雑談を楽しんでいる。


 「物騒だなぁ。まあ俺が言えた事じゃないが」


 レベッカが集団リンチされた話をし、ダグラスは恐怖に顔を歪ませていた。


 「米軍は空爆しまくってたんだっけ?」

 「ああ、ジャップの国を破壊するためにな。でもよ――――」


 ダグラスがお気に入りのサングラスを外す。

 青の透き通った瞳を、こちらに向けて来る。


 「民間人を殺しまくるのはどうかと思うんだ。ジャップは憎いし嫌いでたまらない。でも、罪のない国民は別なんじゃないのか? それに捕虜に虐待をやる奴だって居る」


 失礼ながら都市を焼き払った米軍は極悪非道な集まりだとずっと思っていたが、彼のような心優しい人物もちゃんと居るんだなと実感した。


 「まあそんな暗いお話は置いといて――――」


 ダグラスが再びサングラスを掛け直し、椅子を立ち上がった。背筋は一直線に伸びている。


 「セルゲイ、金に興味はないか?」


 笑顔でそう問われた。


 「金? まああるにはあるけど……稼ぎ方なんて分からないよ」


 ネガティブな態度の俺に、彼が明るく言う。


 「ズバリ、狩りをやるんだよ。上手くいけば一晩で2000万稼げるぞ」


 2000万。

 その数字を耳にして、勢いよく飛び跳ねる。


 「そ、そんな大金を稼げるのか! ……あ」


 感情が高ぶって大声を出してしまう。

 周りの人間から視線を刺されている事に気付くと、気まずい気持ちで静かに席へ戻った。


 「まあまあそうすぐに喜ぶなって。言っておくが、2000万のやつはかなり危険だぞ? それで死んでいった奴も大勢居る」

 「じゃあ何からやれば?」

 「最初は魔物の退治とかからだな。さあ行こうか!」

 「え、ど、どこにだよ?」


 腕を掴まれて引きずられるかのように玄関へと向かう。


 「ギルドさ! 事務所とも言うがな」


 活発なダグラスはそう言いながら、俺の体を引っ張って行った。

 転生人街を出てしばらく歩いた所に、そのギルドとやらがあった。木造建築で大きな三角の屋根が特徴的だ。


 引かれるがままギルドへ足を踏み入れると、レベッカのように甲冑を身に纏った騎士も居れば、テロ組織の戦闘員みたいな怪しい見た目の奴までもが滞在していた。


 「これまた凄い所に来たな……」


 端っこのテーブルで仲間と楽しそうに会話している帝国人達は柔らかな雰囲気だが、反対側で武器の手入れを行っているバラクラバを身に着けた人達には殺伐としたオーラが張り付いている。


 異世界の人間と現実の人間が合わさった空間を目の当たりにし、何だか小説の世界に迷い込んだ気がした。まあ実際、ここは小説の世界以上に摩訶不思議で、奇天烈な所だ。おかげで退屈はしない。

 ダグラスに受付員が待つカウンターへ案内される。


 「コイツ新人の冒険者なんだが、いい仕事はないか?」


 受付に立っている初老の男性へ訊ねるダグラス。


 「新人の冒険者は、この方ですか……そうですね、帝都の外れにある村に盗賊のアジトがあるので、そこへ行ってみてはいかがでしょうか」


 提案されたダグラスがこっちを振り向く。


 「アジトの壊滅だとよ、どうだ? 行ってみるか?」

 「うん、そうするよ。でも最初から1人なのはちょっと……」


 並大抵の兵士は撃退できるので盗賊如きに負ける筈ないだろうが、初めての仕事を1人でこなすのは少々不安だ。特に油断は絶対禁止だ。


 「その事なら大丈夫さ、頼りになる先輩がやって来るから……ん? どうやらもう来たみたいだな」


 ギルドの玄関へ目を向けると、緑の野戦服と真っ黒な覆面に身を包んだ男が堂々とした様子でこちらへ進んで来ていた。

 その姿を見た瞬間――――コイツ、絶対ヤバい奴だと確信した。

 野戦服と覆面。これだけ見ればもはやただのテロリストだろう。おまけに肩に掛けている銃もゲリラが好んで使うAK74だ。


 男が歩く姿を自分含め、この場に居る全員が映画を鑑賞するかのように沈黙の態度で眺める。

 彼が俺とダグラスの目前に迫ると、歩みを止めた。


 「やあダグラス。調子はどうだい?」


 覆面を被っているので全体としての表情は分からないが、少なくとも目は笑っている。


 「いつも通り良好さ。この子のサポートを頼みたいんだが、できそうか?」


 ダグラスが肩に鍛えられた腕を回してくる。相当な太さだ。


 「ああ、別に構わんぞ」


 テロリスト風の男は笑い声を含みながら快諾する。

 ダグラスが彼の簡単な紹介を始めた。


 「いいかセルゲイ、よく聞いておけよ。この人はセルビア出身のステファン・スタンコヴィッチだ。故郷のセルビアで長年戦っていて、戦闘に関する技術は最高峰と言っても過言ではない」


 出身国がセルビアでなおかつ戦争に参加していたという事は、彼はユーゴスラビア内戦を戦い抜いた猛者と推測する。


 「坊や、名前は?」


 ステファンさんは腰を少し下げ、自分の視点と同じ位置に顔を合わせる。


 「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコです。よろしくお願いします」

 「ほほう、スラブ人か。年齢はいくつだ?」

 「16歳です」

 「若造だな。着いて来られるか?」

 「安心してください、こう見えても戦いには慣れていますので」

 「それは嬉しいな! 頼りにするぞ!」


 ステファンさんは明るく無垢な笑い声をギルド内に響かせ、頭を乱雑に撫でる。

 風貌は完全にヤバい奴だが、こうして見ると兄貴みたいだ。


 「じゃあ早速行くか、セルゲイ」

 「はい、そうしま……ちょっと待ってください。ダグラス、そっちは来ないのか?」


 彼はカウンターにもたれたままで、動じようとしていない。


 「こっちは別の仕事があるからな。終わり次第、また公民館で飲み合おう」

 「楽しみにしてるぞ」


 飲み会の約束を交わすと、ステファンさんと共に玄関に歩いて行った。

 この世界に来て初めての仕事で不安を覚えるが、それと同じくらい楽しみでもある。

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