21話 チェイスダウン
敵に見つからないように動きつつ、急いで外へ出て行くと兜を被り臨戦態勢のレベッカが馬に跨って崖から下りて来た。
「さあ、早く乗ってください」
「はいよ」
馬の鍛え上げられた固い背中へと乗り上がる。
合図も無しで走り出した。
「こんなに急いでどうしたんだよ?」
「鏡は見つけたのですが、馬車に……」
短く纏めるとこうだ。
レベッカは鏡を発見しそのまま持ち帰ろうとしたが、そこへ運悪く敵が来てしまい、その敵が鏡を外に停車してあった馬車に積んで移動を開始したというのだ。だからこんなに慌てているらしい。
「見えてきました!」
「あれか」
数百メートル先に草木でカモフラージュされた馬車が見えた。馬車の周りには護衛の馬とそれを操る兵士が2人。遠目で分かりづらいが、手には矢を装填した状態のクロスボウを持っていた。
「かなりの距離があるぞ」
コメートでもあれば一瞬で追い付くが、原始的な馬だ。これでは距離がどんどん開いてしまう。
「くっ、困りましたね……」
レベッカは誰もが認める最強の戦士だが、それは白兵戦に限る。遠距離の戦いには対応していない。
だが、ここに遠距離戦が得意な奴が居るではないか。
そう、俺だ。
「レベッカ、少し速度を落とせ!」
「な、何故!?」
「いいから早くしろ!」
「わ、分かりました……」
速度を下げるように指示した理由は、馬車の操縦者をここから撃破するためだ。高速で走ると揺れのせいでまともに狙うのが不可能だ。
ブースターを展開し、開眼しきった右目に力を入れる。
走る速度を落としてくれたおかげで、とても安定して狙える。
照準が操縦者の胴体と重なった時、この瞬間を逃さまいとトリガーを引き倒した。
肩へ反動の衝撃が加わり、それとほぼ同じタイミングで操縦者が馬から転倒していった。馬は飼い主が居なくなった事で移動を停止し、ついに奪還できるチャンスが到来。やるなら今しかない。
ところが、一筋縄ではいかないのが世の中の道理だ。
追跡者である俺達の存在に気付いた護衛兵らが下馬し、クロスボウの鋭利な矢を飛ばしてきた。
「頭引っ込めろ!」
眼前のレベッカの頭を強制的に下へ押さえ込むと、ガバメントを2人の敵兵に発砲した。
「……よし、大丈夫そうだな」
次弾を装填していた所を狙ったので、敵は歪な体勢で息絶えている。
「あ、ありがとうございます……」
「どうも、怪我はないか?」
「大丈夫です。では早速……え」
レベッカの表情が固まる。
「どうした?」
「その、腕に矢が……」
言われた通り腕を見ると、確かに矢が突き刺さっていた。アドレナリンが分泌していたおかげで命中した事に気が付かなかったのだろう。今でも痛覚は襲ってこない。
矢を引き抜くと地面へ投げた。出血しているが、止血するのは後でいい。
「とっとと奪い返そうぜ」
馬を降りながら語り掛ける。
「ちょ、ちょっと待ってください! 先に手当てを……」
「今はその時じゃない。こんな傷で痛がってたらボスホートルーシでは生き残れないぞ」
ハンドガン片手に停止した馬車へ歩いて行き、
「はあー……途中で泣いても知りませんからね」
呆れ気味のレベッカがゆっくりと追って来た。
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