18話 異世界情勢
夕陽に照らされた森を、保管庫へ行くために歩く。
気温は高くも低くもなく、丁度良い。こんな温度だと、また眠くなりそうだ。
保管庫までの距離がかなり縮まった時、ふと自分を襲い鏡をも奪った兵隊の存在が気になり、奴らの正体をレベッカに尋ねてみた。
動きを静止させ、馬を一旦下りるレベッカ。何やら複雑そうな顔をしている。
「あの兵隊の事ですか……」
「何か、いけなかったか?」
不都合な事を訊いてしまったのではと、勢いが引き下がる。
「あ、いえ、そういう訳ではなくて、連中の存在がとても憎いのです」
「憎い? まあ確かに残忍だけど」
「……実は私の国は、独立戦争の真っ只中でして……」
言いづらそうにしていた理由はそれだったのか。それにしても独立戦争とは、タイムリーな話題だ。
レベッカが言うには、カッシーノベルク帝国は古来より隣国の大国『大ウッラール共和国』に強制的に併合されていたらしく、その影響もあってか近年は独立運動の動きが強くなってきているようだ。だが共和国側はその勝手な独立に猛反対していて、カッシーノベルク領内に暴徒鎮圧部隊を派遣し、駐留の際に村の住民を虐殺した事がきっかけで独立戦争が勃発、今も勢いが衰える事なく続いているそうだ。
そして例の兵隊はカッシーノベルク人でありながら独立に反対しており、なおかつ共和国の立場に寄り添っている集団で、組織名は『親ウッラール派武装勢力』だ。自分の居た世界でいうところの、親ロシア派みたいなものだろう。
武装勢力の隊員はほとんどが不良や元犯罪者らしく、凶暴な輩が多いのだとか。ともかく、不用意に近寄るなと言われた。まあ今からはこっちがその根城に行くのだが。
カッシーノベルクと祖国であるボスホートルーシの姿が重なった。ここは縁もゆかりもない地だが、そんな話を聞いてしまっては親近感と同情が湧いてしまう。
国際法違反という事は承知しているが、似た同志のために戦闘員としてもう一度立ち上がるのもアリだ。
「実は俺も、独立戦争に参加してたんだよ、ゲリラ兵でな」
「独立戦争とは?」
「まあ、お前の国と似たような感じだ。ただ違うのは、今も言ったけど戦闘員ってところだな」
「それは何ですか?」
「正規軍に属さない、非正規の兵士だ。法的に色々問題があるんだけどな」
「法律に触れているのに何故そのような事を?」
「自己防衛だ」
戦争が始まった時、毎日ニュースを見ていたが「今日は40人の兵士が死んだのか」と、自国で問題が起こっているのに他人事のような感情しか抱かなかった。しかし砲撃で友人や両親が亡くなってから、迫る死に危機感を持ち出し、自主的に武装して戦闘に参加するようになった。これが、便衣兵になるまでの大雑把な経緯だ。
「国際法と命、どっちが大切だと思う?」
「命です……」
「だろ? 犯罪を正当化する訳じゃないけど、ああでもしないと自分の命を守れないんだ」
あの戦争を通して、綺麗事だけでは戦時下を生き延びられないと痛感した。
「確かにセルゲイ君の言う通りです。犯罪者になるのも必要かもしれませんね」
真面目に発言するレベッカにこんな事を思うのは失礼だが、やはり君呼びは全く慣れない。
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