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10話 不快な夢

 故郷の懐かしい森に、一人で佇んでいた。

 空は真っ暗だ。何万もの星が自分を見つめている。

 あの異世界から脱出できたと心の中で静かに歓喜したが、何かがおかしい事に気が付いた。

 嫌な予感がし、後ろへ振り向くと、夥しい数のロシア兵(亡霊)がこちらを恨めしそうに睨み付けている。ある者は涙を津波の如く流し、またある者は顔面から火が噴き出そうな程赤い。


 「な、何だよお前ら――――」


 異様な光景に後ろへ一歩下がると、背中にコツンと何かが当たった。


 「え――――」


 振り返るとそこには穴の開いたヘルメットを被った血だらけの兵士が立っていた。1人だけではなく、その兵士の後ろにも何百人もの人間が動きを止めて直立している。


 「おいおい、どうしたんだよ」


 自分を囲むロシア兵に怯えつつそう問い掛けるが、誰も口を開こうとはしない。


 「何か話せばどうだ!」


 恐怖を紛らすために大声を響かせると、列の中からウシャンカ帽を着けた中年の兵士がせり出て来て、低く悲しそうな声でこう言った。


 「本当に分かっていないのか?」

 「何を言って……」


 その兵士が喋ったのを皮切りに、今までだんまりを決め込んでいた兵士達も続々と声を上げる。


 「お前は軍人だけではなく、罪のない一般人まで殺した」

 「罪の重さを理解しているのか?」


 兵士達に浴びせられる言葉は段々と増えていき、仕舞いには耳を手で塞ぎ込んだ。

 声が少し収まった時、言い返した。


 「確かに俺は沢山の人を殺した。でも、生きるためには仕方ないんだ」


 体を震わせながらそう言うと、最初に語り掛けてきた兵士が呆れた様子で発言した。


 「そんな事は皆分かっている。そうではなく、お前は捕虜や民間人などの無抵抗な者達を意図的に、そして必要以上の苦痛を与えたんだ」


 こいつは何を言っているんだ? 俺は拷問になんて加担した事はないぞ。


 「…………」


 理解が追い付かず、沈黙。


 「とぼけているのか?」

 「だから知らない――――」

 「これを見ろ」


 ウシャンカ帽を脱ぐ兵士。毛髪の抜けた頭部には数え切れない程の切り傷が刻まれている。


 「お前がやったものだ」

 「っ――――!」


 明確な意思を持って他人を故意に傷付けた覚えなんてないが、彼の言葉には妙な説得力があった。その過ちを認めそうになったものの、理想の自分に何とか縋り付き、否定の命令を脳へ送り続けた。


 「俺はそんなのやってないぞ!」

 「……ボスホートルーシもロシアも、加害者はいつも自分勝手だな。例えお前が覚えていなくても、こっちは死んでも覚えているんだぞ」


 傷だらけの兵士がそんな冷徹な言葉を放った瞬間、周りを囲んでいた兵士達がヘルメットや衣服を脱ぎ始めた。

 肌が露出した兵士達の姿を目の当たりにして、声にならない程の驚愕が心を襲った。


 皮膚が剥がされ、理科室の人体模型のように赤く変色した胴体。

 頭部の皮が剥ぎ取られて脳が露出した頭。

 爪を全て取り除かれ、指先から赤黒い血を滴らす兵士。

 腹部に生じた裂傷から腸がはみ出ている者。


 どの兵士も、明らかに拷問された形であった。

 敵とはいえこんな醜い行為、一体どこの誰がやったんだ。


 「思い出したか? ここに居る全ての兵士は死んだが、未だに深い傷を負っている。なのに、お前は悪かったの一言すら言わないんだな」


 目の前の兵士は俺から謝罪を汲み取ろうとする極悪な詐欺師だ。

 何度誓ってもいい。俺は虐げるなんて事は絶対にしないし、やっていない。例え上官から命令されても断る。


 沈黙を続ける自分に、周囲の死んだ兵士達が残念そうな顔をしながら各自の持っていたものを身に着け始めた。

 そして、ウシャンカ帽を被った兵士が険しい表情で諭すようにこう伝えてきた。


 「今は許していないが、お前が心から謝罪すれば全員が許してくれる。時間は沢山ある。自分の犯した罪とじっくり向き合うんだな」


 常人には到底理解不能な言葉を突き放たれると悩む合間もなく、頭を鈍い痛みが刺激し、視界が狭まっていった。

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― 新着の感想 ―
被害を受けた方は死んでも忘れない。 残酷な現実で胸が締め付けられました。 双方にとって悲劇しか生まれない状況がもどかしいです。
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