古本屋の少年 【月夜譚No.323】
古本屋の一角に落ち着く場所がある。背の高い本棚が並ぶ店内の最奥、南側の隅に置かれた小さな椅子に腰かけて、選び取った本を読むのが彼女にとっての日課だった。
その店は彼女の祖父母が営んでおり、小さな頃からよく遊びに来ては色々な本を読ませて貰っていた。高校生になった今も、学校帰りに寄っては気になった本を順番に読んでいる。
今日も膝の上に本を広げて物語の世界に浸っていると、不意に視界が翳った。目を上げた先に、綺麗な顔が本を覗き込んでいる。
「何読んでるの?」
彼女が本を読んでいるとよく話しかけにくる少年だ。歳は同じくらいだが、シャツと黒いズボンの制服は見たことがない。
いつものように少しだけ会話をし、彼も自分で選んだ本を手に近くで読書をする。それは穏やかで、静かで、心が安らぐ時間だった。
小一時間ほど経ってから辺りを見回すと、彼はいつの間にかいなくなっている。先ほどまで彼が読んでいた本が近くの本棚の上に置かれており、彼女はそれを手に取った。
(明日はこれを読んでみようかな)
彼女が幼い頃から姿が変わらない彼は、彼女の好みそうな本を選ぶのが得意だった。