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2話 水

 とぼとぼ歩いている間、変わった柄のきのこや私の身長に届くだろう大きな花など見たことのない植物たちが生えていた。やはりここは私の知っている世界じゃないんだな、としみじみ思う。


 体感2時間ほど経った頃、乱雑だが道になってきた。この方角で合っているみたい。ほっと安心し、歩みを早める。さらに30分経ち、木々が減っていくのがわかる。

 それにしても雲一つない快晴のお陰でギラギラした日差しが痛い。できる限り日陰が多いところを無意識に進んでいるが...


「喉乾いたな」

 歩き詰めで体の水分が奪われていく。


「水ぅ、水が飲みたい」

 もう頭は水を水分を欲して止まない。

水、水、水と呪いを唱えるようになっていた。


 すると、いきなり体の中心部からすーっと何かが血液と一緒に体の末端まで流れ抜けていく感覚がした。


 立ち止まって手をグー、パーと何度か開く動作をするがさっきの感覚はもうない。

ふぅ、なんとも無いみたいだ。


チャプ


 否、目の前に水の塊が浮いていた。

......


 ササ、咄嗟に後退りするが、それは私が離れるとそれだけ近づいてきた。


「...君は私を襲わないよね?だねよ、じゃないと困るよー」

 埒が開かないので指でツンと触れてみる。


......何も起こらない。


 触った感じ確かに水だった。なんで浮いているのかはこの際置いといて。

水が!飲める!このまま干からびるんだったら飲めるかどうかは今は関係ない。


 しかし、どうやって飲もう

直接吸う?いや手に乗せて...うーん


えい!水の塊に顔を軽く突っ込んで吸い込む。

ゴクゴク。


「ぷはっ、お、美味しい!!生き返るぅ」


 今までの水より何倍も何十倍も美味しく感じた。

全部の水を残さず飲み込む。


 水が浮かぶなんてなんだか魔法みた..い?

一瞬だけど直前に感じた体の違和感はもしかして。


いやいやそんなわけはと否定する自分と、念じたことで魔法を使っちゃったのかもとドキドキする自分。


もう一度、同じようにやってみたら分かるはず。

確か、さっきは喉が渇いて水を飲みたくて仕方がなかった。それで水ー!と何度も念じていた。


「水、水、水...」

先ほどの水の塊を思う出して同じものが出るよう頭で念じる。

すると、あの体を流れる感覚がした。


チャプ


「やったー!できたできたできた」

 水は最初は少量だったのが一気に先ほどと同じ大きさまでになった。


 歓喜で飛び跳ねてしまったが誰もいないので気にしない。


「これでいつでも飲み放題ね」


 魔法はなんて便利なこと。

水以外も出せるかな、と呑気に考えていたら


 ガラガラと台を引くような音が聞こえてきた。思わず硬直する。


 歩いてきた道とは違う方向から聞こえてくる。

音は段々大きくなっていく。


 人?もし盗賊だったらどうしよう。こんな無防備な格好で逃げ切れる自信が全く無い!戦うなんて以ての外。警戒心が増していく。

 どうか善良な一般市民でありますように...!

 


 音の正体は荷車だった。馬に引かれた荷車の前方に座っている40代ぐらいの男性と目が合った。

まず相手が一人だけだった事に警戒が薄らぐ。


「お嬢ちゃん、何してんだい」


「はっ、あの、私近くの街に行きたいのですが迷ってしまって」


 事実絶賛迷子中なので、そう話すと、おじさんは不思議そうにこちらを眺める。


「もしかしてそっちから来たのか?」


 私の来た方向を指差して聞いてきた。


「...はいそうです」


「それはまあ...なんというかよく無事でいられたな。偶におっかねえ魔物が襲ってくるんだよ。そんなところでその格好だといい餌食だぜ」


 おじさんの話にもしかしたら、襲われて最悪死んでいたかもしれないと想像してゾッとした。転生したばかりで死んだらたまったもんじゃない。



 荷台には果物等が乗せられていて、それを運んでいる途中と推測する。悪い人ではなさそうなのでダメ元で聞いてみる。


「もし街に向かってるのなら同行させて貰えないでしょうか」


「今日の荷物は少ねえから場所が空いてるはずだ。乗りな!」


 幸運なことにおじさんはガハハと笑って許してくれた。おじさんの後ろから後光が差している気がした。

わあ!聞いてみるものだね。


「ありがとうございます!」


 警戒心は何処へ、早速荷車の後ろに回って空いているところに座った。


「乗ったか?出発するぞ!」


ガタガタ荷車が動き出した。



座っている間、視界に入る様々な果物に目が惹かれていた。

黄色い斑点がある赤い果実に青いバナナといった鮮やかな色のものが多い。形は知っているけど色が違ったり、もしかしたら味も違うかもしてない。これは街に着いたら買ってみよう...!



 「もう少しでヘイリンバーグに着くぞ」


 ヘイリンバーグとは街の名前だそうだ。

着くまでの間、おじさんに色々話をした。


何でもかんでも質問すると、勘繰られそうで考えていた設定で通す。

それは、記憶喪失だ。遠い国から旅をしてきたが事故で記憶が曖昧という設定。


 おそらくこの世界の幼児並の知識しかない状況で下手に嘘を重ねたら墓穴を掘りそうだからだ。

記憶喪失で「わからなーい」で通し事にした。


 おじさんは大層同情してくれた。


 持っている硬貨のことも勿論聞いた。

3種類の色の硬貨はそれぞれ銅貨、銀貨、金貨とのこと。ちなみにここにあるりんごのような果実一個で銅貨一枚ほどらしい。


 とりあえず、手持ちは銅貨と銀貨20枚ずつ、金貨は10枚と。



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