9.マリアーナは夢を見ていた-どうして二人を追いかける脚がないのですの!?-
全43話予定です
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マリアーナは夢を見ていた。
そこには姉と妹がいた。
――これは、現実なのですの?
そう思えるほど夢と現実の境がない。なのでマリアーナは本当に[これが現実なのでは?]と感じている。
三人は少し間隔を開けて暗闇を歩ている。暗いので顔を見ることが出来ないでいた。
ここで、よくよく考えれば暗闇を子供たち三人で、しかも手を繋がずに相手の顔が見えないくらいの距離をとって歩いているというシチュエーションを考えれば、これが夢である事くらいは分かるはずだ。しかしながら夢というのは体験している時は大抵の場合は夢と気が付かない方が多い。夢から覚めて[ああ、夢か]という流れが多数を占めるであろう。
現にマリアーナはこれが夢であると認識できないでいた。
二人とも互いに話そうとしないので、マリアーナが何か喋ろうとしたとき、
「私たちとはここでお別れだよ、マリアーナ。でも忘れないで、私たちはいつでもあなたの傍にいるから」
姉と思われる人間がマリアーナにそう語り掛ける。
――えっ、それはどういう意味なんですの?
「……お姉ちゃん、……ちゃん」
名前が出てこない。だが、確かにその名前を、姉と妹の名前を呼んだ、はずだ。だが二人は足早に去っていく。当然追いかけようとする、が、脚が動かない。
そして自分の身体をふと見れば手足がなくなって、まさに[ダルマ状態]でそこから動けないでいた。
「……お姉ちゃん! ……ちゃん!」
どんなに叫んでみても二人は歩みを止めはしない。またマリアーナも一歩も踏み出すことが出来ないでいた。
――どうしてですの? どうして二人を追いかける脚がないのですの!?
自問するが自答は無い。すると完全に二人は去って行ってしまった。
暗闇に一人、手足がない状態で立っている、いや座っていると呼ぶべきか。顔を掻こうにも手がない。歩みを踏み出そうにも脚がない。
「だれか、誰かいませんの? わたくしに手を貸してくださる方は誰か!」
マリアーナは必死に叫んでいた。すると暗闇の中からふと現れた一人の男の姿。その顔を見ようとして、
――マスター!!
そこで目が覚めた。
「呼んだ? どうもうなされていたから少し手を握ってみたんだけど」
隣にはカズがいる。どうやら個室のようだが見覚えがない。マリアーナは上体を起こそうとしてバランスを崩した。
「えっ?」
当然だろう、今までちゃんと四肢があった人間が片腕と片脚を失ったのだから。辛うじてカズが右手で支えになってとっさにもう片方の腕でマリアーナの肩を支える。
「その様子だと、大丈夫みたいだね。麻酔が切れてもなかなか目を覚まさなかったから心配したよ。でも無事でよかった」
マリアーナは手術着のままだ。もちろんパジャマのようなものを着せるという選択肢もあったが、まだ術後間もない身体だ、そのままの恰好で移送されてきた、という訳だ。
「ここ、は?」
まだ状況が呑み込めていないマリアーナに、
「ここはエルミダス基地の病室だ。手術をしてそのまま輸送されてきたんだよ」
そう喋りだすと外で待機していたのか、看護師が病室に入って来た。
「多分、左半身が疼くと思うけどちょっと我慢してね。鎮痛剤は打ってるからそんなにひどくはないと思うけど。あと、しばらくベットから動くの禁止ね。皮膚が定着しなくなっちゃうから」
そう言ってカズはマリアーナをベットに戻して、
「とりあえず順を追って説明しようか」
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