8.という訳でした-現在は麻酔で眠っています-
全43話予定です
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「という訳でした」
とカズは執刀した医師から事情を聞いていた。
カズは所長だ、それに現場で指揮を執ってもいる。まぁ、不在の時は副所長であったクリスチャン・ガルシアに任せていたのだが。現在ではアイザック・ウォーカーという、クリスチャンの元側近がその職を務めている。
「しかし、本当にそんな話ってあるんだね、初めて聞いたよ」
「私も初めてです。こんな事があるんですね」
――千歳の場合は、[部品]になり得る人間なんて誰もいなかったからな……。
先の皮膚移植の件である。前述したが、他人の皮膚の移植はそれほどに難しいものなのである。逆を言えば、それだけマッチングしていれば他の臓器も拒絶反応なしに移植が可能、という推察が出来る。現に、それは行われたのだ。
「容体は?」
とカズが聞くと、
「現在は麻酔で眠っています。それでですね、義肢の所有権の話ですが」
と話を振られる。
「うん、レイリアみたいにオレが持ってもいいけど、マリアーナは派兵される可能性が高い存在だ。なので、所有権はオレが持つけど、電波の範囲外でも活動が出来るようにしてくれるかい?」
マリアーナには酷な話だが、これからも[小間使い]に使用される可能性が高い。それはカズは派兵の対象にならないからである。
カズが出て行ってしまっては誰が留守を守るのか、研究所の指揮は誰が執るのか、万一カズが亡くなったら? それ程にカズという存在は同盟連合の、このレイドライバーという存在にとって無くてはならないものになっているし、なってしまったのだ。
執刀医は[分かりました、では設定をそのようにしておきます]と言ってから、
「ご覧になりますか?」
とカズに質問する。
「そうだね、今は彼女は何処に?」
「まだ中央室にいますが」
「じゃあ、行こうか」
――ここが、この部屋が最先端なんだ。
とマリアーナが手術を受けたその部屋に、レイリアやトリシャ、クリスたちが手術を受けたその部屋に入っていく。
そこには麻酔で眠っているマリアーナの姿があった。
カズは執刀医から実際に現在になっても拒絶反応が出ていない事を、専用のモニターで確認して、
「本当だ、これはすごい。[部品]の残りは保存しておいて。いざとなったらそこからまた取れるだろうから」
そう執刀医に指示を出す。彼の[わかりました]という言葉を聞いてから、カズは、
「ちょっと失礼」
そんな言葉を発しながら、マリアーナに掛けられていた薄手のシーツを剥す。まだ義肢がついていないから左腕と左脚は欠損したままだか、それ以外は本当に綺麗になっている。カズが左わきに目を遣ると皮膚の色も全く同じなものが出来上がっている。処置の際に焦げた皮膚もすべて綺麗になっている。
「これで安定するまでどのくらいかかる?」
それは原隊復帰の可能性について聞いているのである。
もちろん、リハビリの期間は必要だろうが、それは基地でもできる。それにゼロフォーをどうするか、という問題にも繋がって来る。予想以上に速いスピードで回復した場合、補充で運ばれた三体のうちの一体のパイロットに充てるというのも考えられる。そうすればゼロフォーを呼び戻す、等というのも選択肢に入って来るようになる。
――まぁ、でもしばらくはカレルヴォ大尉と一緒にさせておこう。あとでサンド大尉も呼んで彼女たちにレクチャーしてもらわないとな。
一度に話が終わらないのがもどかしい。だが、アルカテイル基地から一気に二機分の三五FDIを持ち出すわけにはいかない。いつ帝国が、共和国が襲ってくるとも限らない。アルカテイル基地という場所は地理的に三国が接する[ホットスポット]なのだから。
カズの質問に、
「激しい運動等の想定がなければ、大体一か月で歩けるようになると思います」
それほど今回の受けた傷が重傷である事を示している。これだって、本来の病院であれば、最低でも三か月、下手をすれば半年はベットの上というのだってあり得る。
しかし、マリアーナはレイドライバーのパイロットなのだ。いつまでもベットの上、という訳にはいかない。
「それじゃあ、その間はエルミダス基地に置く事にしたいんだけど、移動は大丈夫?」
とカズが聞くと、
「短距離でしたら、問題ないかと」
そうしてマリアーナはエルミダス基地へと送られる運びとなった。
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