7.麻酔深度は良好です-これほどまでに拒絶反応が出ないのは凄いな-
全43話予定です
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意識を無くしたのを確認して、
「麻酔深度は良好です」
と返って来る。
「さてと、これは本当に半身を機械化するくらいの勢いだな」
「ああ、これは酷い。よく生きて戻って来られたな」
そんな声が交差する。
まず行われたのは正確な知見、である。どの部位が損傷を受けていて、どの部位が残せそうか、どの部位は破棄するのか。更には切り取られた箇所の肉片はサンプルとして冷凍保存される運びになっている。それを使えばいつでもマッチングテストが出来る、そこまで考えての事である。
結果、腕は上腕部の根元を少し残してあとは切除、同時に足については大腿四頭筋の途中まで残して先は切除となった。だが、これはオペにあたっている医師にしてみれは[ラッキー]であった。義手、義足が使える。
この時代の義手義足、つまり義肢の技術は相当進化している。それこそ、帝国にも負けないくらいの技術水準を維持している。帝国はそれほどに義肢の技術は発展しているのだ。理由は言うまでもない、人体実験である。それを言い出したら同盟連合だって義肢の技術を向上させるのに被検体を何体も使った。一部技術は同盟連合国内に提供されているが、義肢の分野でもこの研究所は最先端なのである。
医師たちはテキパキとこなしていく。義肢を繋げる部位の手術が終わるかどうかのところで医師が、
「現在のバイタルは?」
と確認する。それに対する回答は[良好、そのまま手術続行]というものだ。
「皮膚はどうしましょう?」
縫合に当って足りない皮膚が問題になったが、
「事前に打ち合わせた通り[部品]から合うものを探して付けよう。用意は?」
と返って来る。
「マッチングが取れるものが一体保管されていました。これって……」
職員が資料に目を通す。その資料には、その[部品]は皮膚移植に必要な拒絶反応がほぼ無い事を意味していた。
「ああ、それな。何と言ってもこのパイロットの姉だからな、拒絶反応も少ないだろう。しかし、これほどまでに拒絶反応が出ないのは凄いな。これなら人工臓器、要らないんじゃあないか? 保存時の年齢は?」
との問いに、
「十八歳とあります」
つまり、ほとんど年齢差がないのでそのまま使える、というのを示している。
「ではここからとれるものは取っていきましょうか?」
「そうしよう。まぁ、パイロット本人にはとてもじゃあないが言えないがな」
そんな会話が響く。そうして人工臓器を使用するはずだった肺や腸管の一部、それに腎臓や膵臓といった臓器はすべて[部品]から取り出されて移植されていった。
「輸血量に注意して、バイタルもな」
と、こちらもテキパキと進んでいく。今まで散々と被検体を[バラして]きた職員だ、その直し方にも迷いがない。
このあたりはもちろんリェルヴァルテ市の病院でも行われていたものだが、ここでのやり方に合わせて再縫合していく。これは、リェルヴァルテ市の病院のレベルが低いと言っている訳ではない。ここの研究所が異常なのだ。それほどの数の被検体を[こなして]来た証拠ともいえる。
「皮膚の移植を行う」
臓器がすべて移植されたのを確認して左側の皮膚の移植が行われた。
他人の皮膚の移植は、一卵性双生児を除いて成功例が基本的にはない。それが、年齢差があるにもかかわらず拒絶反応を示さなかったのは、これも何かの縁なのかもしれない。
偶然、と呼ぶべきその事例に職員たちも驚愕した。年齢差があるという事は一卵性双生児ではない、という話になる。それが、拒絶反応もなくすんなりと受け入れられたのだ。
これは、そんな訳はないのだが、まるでマリアーナの姉がこうなるのを知っていたかのように、言ってしまえば[マリアというその名の通り、神のご加護があった]かのようにその偶然は起きたのだ。
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