6.準備整いました-よし、じゃあよろしく-
全43話予定です
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カズはその足でマリアーナと看護師を連れ立って研究所に向かっていた。
彼女には[ちょっとこれをしてて]と目隠しをしてである。流石に寝たきりの身体だ、途中で車を変えることはせず直接研究所に向かう。それでも大回りしたり寄り道したりはしたのだが。
ちょうど救急車のような車、と言ったら分かるだろうか、それに乗せられてマリアーナは研究所まで来た。
ストレッチャーに乗せられたままのマリアーナが中に入ると、カズ自身が目隠しを取りながら、
「着いたよ。ここが[例の場所]、つまりは研究所と呼ばれているところだ。ざっと流れを説明しておくね。このあときみは麻酔で眠る。その間に大掛かりな、本当に大掛かりな手術を受けるんだ。これには当然命の危険性が伴うんだ、だから[これはマズい]となったらこの身体からおさらば、という可能性も無い訳ではない。成功するか危篤に陥るか、どちらにしてもきみはパイロットを続けるんだ。そしてきみの命は失わせたりはしない」
そう言うカズの口調はとてもしっかりしたものだ。
だから、
――この身、マスターに捧げます。
マリアーナは心底からそう思うのだ。
「準備整いました」
隣の部屋から職員がカズを呼びに来る。
「よし、じゃあよろしく」
そう言って看護師に付き添われて隣の部屋に入る。
その部屋はクリスやトリシャ、それにレイリアが手術を受けた部屋である。比較的大きな部屋で、手術に関係ない人間も何人か作業をしている。
「所……中佐からお話があったと思いますが、念の為に今の貴方の三面図を写真として残します」
リェルヴァルテ市からずっと付き添ってくれている看護師にそう言われて服を脱がされ、手術台の上に乗せられて、姿勢を変えながら何枚か写真を撮られた。
「これ、は?」
戸惑うマリアーナに、
「なに、この写真をどうこうする訳じゃあない。もしもきみが途中に危篤状態に陥って、手術の続行が不可能と判断した時、きみは開頭手術に切り替えられるという話だ。そうなれば、いわゆるサブプロセッサーとして扱われる、のかな? その辺りは所……中佐から聞いていないかな」
看護師と異なる、今まで写真を撮っていた、医師と思われる人間が説明する。
そう話している後ろでは、先ほど付き添っていた看護師に[バイタルは?]とか[特徴的な所見は?]というやり取りが続いている。
マリアーナが[今求められているのは、パイロットであってサブプロセッサーじゃあない]と言われた旨の話をすると、
「あぁ、そうなるのか。なるほどね」
と妙に納得している。
「どういう事ですの?」
聞き返すが、
「それよりも手術の成功を祈ろうじゃあないか、だろ?」
そう言いくるめられてしまった。
――わたくしはこれからどうなりますの?
そうマリアーナは思って少し不安になるが、そんな時に出てくるのはカズの、絶対の自信に満ちた[大丈夫]という微笑みである。
カズに限ってきっと見捨てたりはしない。仮に脳だけの存在になってもきっと使ってくださる、マリアーナはそう信じることにした。それに、これ以上は多分尋ねても教えてくれないであろう雰囲気があったのだ。
「では始める。聞こえなくなったら……」
マリアーナはその言葉を聞き終わる前に意識を失っていた。
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