5.きみは[再び動けるように]されるんだ-わたくしの命はマスターと共にあります-
全43話予定です
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「このあと、きみは[再び動けるように]されるんだ。具体的には義手、義足は当然として、内臓器官の一部機械化が待ってる。可能な限り自然に見せるように努力はするよ、だけど、体半分は機械になる事は覚悟しておいて」
カズはそう説明した。
その言葉に、
「わたくしの命はマスターと共にあります。[マスターの命令は絶対だ]と、そうあの孤児院で習いました。どうぞ、この躰ご自由にお使いくださいまし。それがマスターの為になるのであれば、それこそ脳みそだけになってもお仕えしますの」
マリアーナが言った言葉。それは自分がサブプロセッサーになる用意がある、という意味である。
しかし、
「ありがとう。でもね、今求められているのは、パイロットであってサブプロセッサーじゃあない。そして本当なら休養をさせてあげたいんだけど、短期間の間にきみは再び戦線に立つ事になるだろう。それでも付いて来てくれるかい?」
カズの言葉はいつも冷静だ。冷静でいつつも決して突き放したりはしない。そしていつも微笑んでいる。
そう、今も。
――酷な事を言っている自覚はあるよ。
カズの言っているのは、半身をほぼ人工物にして、そりなりの短期間でまた戦え、というのを意味している。
事実、この半年間、帝国は不気味なほどに何もして来なかった。威力偵察一つして来なかったのだ。正直、相手にしていなかった存在の共和国が代わりに威力偵察のようなものを仕掛けてきた。そしてヨーロッパでの敵レイドライバーの出現。
同盟連合はそれほどの衝撃を与えたという話になる。[火種は何処にでもある]と。そんな状況下で、とりあえずの共和国に目を光らせつつ他の地域にもしまたレイドライバーが現れたら? 当然派兵せざるを得ない。だが、こちらのレイドライバーは現在六体、増援は予備機含めて四体あるものの、実質二体止まり。しかも、いくら第二世代化したとはいえ、訓練課程を早めた[ど新人]である。
共和国が帝国と手を結ぶとは思えないし、現時点ではない、と言えるだろう。それは様々な角度からの情報を照らし合わせてそういえる、と言っているのである。
しかし、アルカテイル基地を取り巻く状況は決して楽観視できたものではない。共和国の熱い視線を受けつつ、帝国と対峙しないといけないのだから。
そこでこの半年、帝国が何をしていたのかが気になる。もちろんレイドライバーの増産に踏み切ったのは事実だろう。でなければヨーロッパに派兵、等という事は考えにくい。ある程度の見通しが付いているのだろうと推測が出来る。
――これは……物量で追い抜かれたかな。
カズにそう思わせてもおかしくはないほどに状況的にはその可能性が高いのである。
だからこそ一刻も早く、ケガ人に鞭打つ事になってもレイドライバーの頭数を揃えないといけないのだ。
そういう意味ではマリアーナは一度死線を潜り抜けた。それは新人と呼ばれたころから比べれば一歩前進である。そんな人材をベットで眠らせておくわけにはいかない、というのが本音なのだ。
そんな事情を知ってか知らずか、
「わたくしでよければ、まだ戦えますの。腕と足があればまた立てますの。それがマスターのお望みであればなおさらですの。なんなりとお命じください」
献身的な態度をマリアーナが見せれば見せるほどクリスの顔色は曇っていく。
カズはそんなクリスの表情を見て見ぬふりをした。今はそんな事を言っていられる状況じゃあない。
「よし、じゃあ早速[例の場所]に連れて行くよ。クリス?」
「は、はい」
考え事をしていたのだろう、返事が遅れる。
「オレはこれから[例の場所]にマリアを連れて行く。だからきみはサブプロセッサーのデーターの吸い出しが終わったら一足先にアルカテイルに帰るんだ、いいね」
――それくらいは一人で出来ないとね。
「分かりました」
そう答えるクリスの声は重いのだ。
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