春の探偵イベント!2
高天原南のチケットを使い、神々の使いのツルを呼んで竜宮城下町へ入る。南だからかだいぶん暖かい。
まさに春。
竜宮城付近は桜が多いらしく、現在は桃色の花弁が舞い、とても美しい。
「最高じゃ! 風流じゃ!」
ヒメちゃんは桜を見上げながら跳びはねて喜んでいる。城下町ではお花見用お弁当も販売されており、賑わっていた。
「なるほど、この観光客の多さならごまかせそうではある」
栄次は花見客を眺めつつ、呟いた。
「まず、ツアーコンダクターにヒメちゃん、栄次が竜宮城ツアーを申し込む」
ヤモリは古めかしい屋敷を指差した。屋敷には墨字で「ツアー組みます」の文字が。
「まさか、こないだ襲ってきた龍神のとこにいくの?」
おはぎが怯えつつ尋ね、ヤモリは頷いた。
「ザッツライ!」
「その通りとツラいをかけた感じだよね? やだわ、それ……」
おはぎはため息をついたが、ヤモリはさっさと屋敷に入り込んで行った。
「リュウ、いるんでしょ?」
ヤモリが屋敷に入るとリュウが書類に埋もれていた。
「なんだ! ツアーはいま、イソガシイデス! おとといきやがれ」
リュウはげっそりした顔で叫んだ。
「まだ飛龍の始末書終わってないの? ツアーコンダクターの仕事しないとまたオーナーから怒られるよ!」
「わかってるぜ!」
リュウは苛立ちながら立ち上がった。
「探偵ツアー申込み。ヒメちゃんと栄次。竜宮案内は私とカメちゃんがやるからね、竜宮に連れていくだけでいいよ」
「あー、そう。だから、そのカメは龍神の使いじゃねぇだろ……」
「いいの!」
ヤモリに圧されてリュウは黙り込んだ。吹っ切れたのかツアーについて話し始める。
「えー、探偵ツアーな……。竜宮内を歩いて虫眼鏡で見つける子供向けのツアーだぞ?」
「子供はいるからね?」
ヤモリはヒメちゃんを全面に押し出す。ヒメちゃんはにこやかに手を振った。
「あ、はい。そのサムライはあれなのか? 保護者的な」
「そう!」
「栄次、大変だな。龍雷に丸投げしときゃあいいのに」
「……良いのだ。暇だった故」
栄次は深く語らず、小さくリュウに答えた。
「じゃ、ツアー組んだんで、竜宮送迎開始ー」
リュウは面倒くさそうに立ち上がるとおはぎ達を連れて竜宮の海へと向かった。
「変な戦いはないよね?」
竜宮の海辺まできたヤモリはリュウに念押しで尋ねる。
「ないぜ、ほら、見ろ。観光客いっぱい! 大変なんだよ、今」
竜宮近辺の海は観光客でいっぱいだった。まあ、すべて神であるが。
「皆楽しそう! これなら混ざってもバレにくそう!」
「何がバレるって?」
「あ、気にしない、気にしない! 竜宮内に連れてって!」
ヤモリの言葉に眉を寄せたリュウだったが、竜宮に行くべく海中に潜っていった。
※※
「やったのじゃ! ついたのじゃ! みるのじゃ! 虫眼鏡もらったぞい!」
竜宮について早々、入場ゲートで虫眼鏡をもらったヒメちゃんは大喜びで走ってきた。
「賑わってる……ね?」
おはぎは前回のことがあり、警戒中である。
「じゃ、案内しまーす、という名の調査、始めるよ」
ヤモリは虫眼鏡を持った子供達を眺めつつ、さっそく封印があったという機械室に向かう。
「ねぇ、パンフレットに虫眼鏡の使い方、載ってるよ!」
「ん? 使い方?」
おはぎの発言にヤモリは首を傾げた。ただの虫眼鏡ではないのか。
「……虫眼鏡に何か細工がしてあり、過去を映す建物という特性を生かして形跡を見つけていくらしいな。宝探しか?」
栄次が横から説明を読んだ。
「細工……」
ヤモリが虫眼鏡についていたボタンをなんとなく押した。
すると、何やら映像が流れ始めた。緑の髪のかわいらしい少女がこちらに向かって手を振っている。
『皆さん! 私を見つけましたね! えー、探偵担当のタニリュウチノ神です! 実はこの竜宮内ではすごいオタカラがあります! えーと……なんだっけ……』
「タニグチさんだ」
ヤモリは彼女と知り合いなのかそうつぶやいた。タニグチさんとはあだ名なのか。
どもっているタニグチさんの横からリュウが何やら紙を差し出した。
『あ、そうです! 竜宮内のオタカラを見つけられたら受付で景品交換してね! これは過去の映像になります! こんな感じで気になるところをボタン押し! 過去を見よう! お宝を隠すとこが見えるかも!』
映像はにこやかなタニグチさんの笑顔で終わった。
竜宮の入り口で虫眼鏡のボタンを押すとこのチュートリアルみたいな映像が流れるらしい。
「なるほど……過去を映す虫眼鏡か。竜宮の機械にこれをかざしたらどんな映像が……」
栄次がそんなことを言い、ヤモリは冷や汗をかきつつ、歩きだした。
「見つからないようにやりにいこう……」
「うわあい! さっそくお宝の手がかりを見つけたぞい!」
ヒメちゃんは楽しそうに虫眼鏡を握りしめ叫んでいる。
「はあ……まあ、こう純粋に楽しんでくれるとうまく馴染めるよね」
おはぎが苦笑いをヤモリに向けた。竜宮エントランスから階段をのぼり、飛龍のアトラクション付近に到着。
飛龍はうんざりした顔で幼い神のパンチを軽く振り払っていた。
ただ、子供は嫌いではないのか、どこか楽しそうだ。
「飛龍は忙しそ~」
ヤモリは上から目線でにこやかに笑うと飛龍のアトラクションを通りすぎた。
「よ、良かったあ……戦闘にならなくて……」
おはぎが震えながら続く。
ヒメちゃんは飛龍に向かい、虫眼鏡をかざしていた。
「飛龍は何かを隠しておるな? お宝か?」
「ヒメちゃん、ちょっと栄次といて。私とおはぎちゃんは奥に行くわ」
ヤモリは何かを感じとり、素早くおはぎを引っ張り先に進んだ。
「ええっ! ちょっ……」
おはぎは驚いて声を上げだが、ヤモリに塞がれた。
「見て、あれ」
ヤモリが飛龍から十分離れて耳打ちする。
飛龍は栄次に絡んでいた。
「また来たー! よっしゃあ! チビども見てろ! 本物のバトルを見せてやるよ……」
飛龍の掛け声に子供達も盛り上がる。栄次は顔色悪く頭を抱えていた。
「うわあ……」
「今のうち行こう! 栄次は目立ってもヒメちゃんの付き添いだと言えるから! 私達は堂々とスタッフルーム越えるよ! あ、虫眼鏡あるよね?」
「あ、あるよ」
戸惑うおはぎをヤモリは自信満々で引っ張っていった。




