情報①冬
おはぎは階段をのぼり、従業員用の廊下を歩いていく。
見つからないか緊張していたが、誰もいなかった。
「誰もいなくて良かった……」
堂々と歩いていた方が見つかりにくいはずだが、おはぎの心はそんなに強くない。
従業員ではないので、どこに何があるかはまるでわからない。
とりあえず廊下を歩くと宴会場のホールへ出た。竜宮は宿泊施設もあり、宴会場もある。
「真っ暗で怖い……」
現在は飛龍が暴れているため、お客さんどころか龍神までもがいない。
真っ暗な宴会場を恐々抜けて再び従業員用の廊下を通る。
どこにいくかはわからない。
情報はどこにあるかもわからない。
「なんのために歩いてるのか……」
怯えながら進むと龍神の宿舎に当たった。
「……龍神はここで生活してるんだ……」
小さくつぶやきながら、ネームプレートがかかった質素な扉達を眺めていると奥に広い場所があった。
「……広場?」
おはぎはさらに廊下を進み、広い場所に出た。天井が高く、あちらこちらに椅子がある。
宿泊客の休憩スペースなんだろうか?
おはぎは堂々と真ん中を突っ切れず、はじっこの壁つたいに歩き、広場を抜けた。
そのまま歩くと階段に当たり、階段の下階段には「立ち入り禁止」のヒモがかかっていた。
下に何やら文字が書いてある。
「えー、竜宮の機械システム作動中……機械システム……怪しいな」
おはぎは辺りを見回すとゆっくり下の階段を降り始める。
……怖い……。
足が震えるが、ここまで来てしまったことに変な自信もついていた。
下に降りたら真っ暗だった。
何かの機械のランプだけが光っている。
あちらこちらにコードが規則正しく張り巡らされており、一際輝く箱形の機械に謎の電子数字が常に変動して動いていた。
おはぎは震えた。
あることに気づいてしまった。
その配置、謎の機械、コードが五芒星になっていること……。
「……封印……」
おはぎはつぶやいた。
……ここはなにかが封印されている!
電子数字の奥から強い神力を感じた。雰囲気は邪悪。
真っ暗でよくわからなかったが確かに神力を感じた。
怖くなったおはぎは階段に直行し、慌てて上にはいでた。足が震えている。
「なんで、私がこんな目に……」
泣きながら天井の高い広場に来て、近くのベンチに腰をかけた。
……しかし、竜宮で封印とは物騒な……
おはぎが頭の整理をしていると、ヤモリが慌てて神力電話をしてきた。
「オーナーが帰ってくる! バレる! はやく撤退! 飛龍は戦いをやめた! 飛龍と戦っていた栄次が妙な過去を見たみたい。あの神は過去神だから竜宮は過去ばかり見えるはずで! まあ、いいから撤退!」
「……ヤモリが高天原会議中のオーナーさん、呼んだんでしょ……」
「うん、まあ、ごめん! オーナーは龍だから雷みたいに早く帰ってくる! はやく出よう!」
「わかった」
おはぎは慌てて従業員用の廊下を走った。走って走って、従業員用扉を開け、飛龍のコロシアムまで出る。
「こっち!」
急にヤモリに手を引かれ、無理に走らされて、すぐに横から栄次がおはぎを抱えて走り出す。
おはぎは目が回った。
飛龍は苦笑いをしながら頭をかいていた。帰ってきたらオーナーに怒られるからだろうか。
「ヤモリー! 覚えてろよな!」
「すぐに忘れてやるわ」
ヤモリは飛龍に悪態をつくと、栄次の後ろを走っていった。
※※
さっさと竜宮から出て、竜宮の門前でうろうろしていたリュウを見つけ、無理やり浜辺へ連れていかせたヤモリ達はすぐにツルを呼び、地上へと帰った。
高天原南はあたたかかったが地上は一月で寒い。
「はあはあ……怖かった」
ヤモリが時神の家の前で青い顔をおはぎに向けた。
「私だって怖かった!」
「俺は疲れた……」
それぞれ感想を言った後、成果を話し合うことにした。
「封印……」
おはぎの話を聞き、ヤモリは眉を寄せる。横で栄次も口を開いた。
「俺が見た記憶は銀髪の龍神と橙の髪の龍神がいた記憶だ。銀髪は流史記姫の父だろうか」
「イドさんのこと?」
「イドさん?」
おはぎに尋ねられたヤモリは頷くと話し始めた。
「イドさんは龍雷水天神という神でヒメちゃんのパパ、井戸の神でもあるからイドさんって呼ばれてる。キーマンが出てきたじゃない」
「ヒメちゃんのパパ……。あ、さっきのなになにじゃ! って言ってた子!」
「君、内容が理解できないまま、ついてきた? ヒメちゃんにパパの秘密を探れって言われたから竜宮に行ったんでしょ……」
「そ、そうでした」
色々、理解が追い付いていないおはぎは顔をひきつらせて笑った。
「ま、とりあえず、オーナーが帰ってきたんで調査はまた後日かな。オーナーをうまくかわせる竜宮安全日を考えてみる」
「また、行くのか……」
おはぎはヤモリの言葉を聞き、肩を落とした。




