ベリーハードモード2
仕方なく階段をのぼり、室内アトラクション地帯に突入した。
階段をのぼった先で「ドラゴンクワトロ」という名前のアトラクションに当たった。
どっかのゲームのような危ないアトラクションは楽しげに客を迎えている。
待機列のヒモは張られているが、誰もいない。上についた大きいテレビに闘技場らしきものが映っていた。
「入りたくないけど、ここを通らないと従業員スペースに行けないんだよね」
ヤモリがけん玉で秘竜のぼりをやりながらうんざりした顔を向けた。
「なんかやばいこと、起こりそうなんだけど……」
おはぎは震えつつ、栄次の影に隠れた。
ヤモリは辺りをうかがいながらアトラクション内の様子を見ている。
「あいつ、いないよね」
と言いつつ、エレベーターを起動し、栄次とおはぎを手まねいた。
栄次とおはぎは言われるままにエレベーターに乗り込む。エレベーターで上がった先は闘技場だった。
「いらっしゃい! 闘技場へ! ドラゴンクワトロへ~!」
エレベーターの扉が開いた刹那、楽しそうな女の声が響いた。
「ちっ、いた」
ヤモリが苦い顔をし、闘技場の真ん中に立つ赤い髪の龍神を睨む。豊満な胸が着物からはみ出ており、足もかなり出している女。顔は喜びに溢れていて、少し見た目がクレイジーだ。
「ベリーハードモード竜宮へようこそ~!」
「客じゃないよ! 従業員!」
ヤモリが強く言うが、女は喜んでいる。
「やあやあ、ベリーハードモードのデモプレイ、してって!」
「やだ! 飛龍、また竜宮勝手に……」
ヤモリが言い終わる前に赤い髪の女、飛龍は拳をヤモリの足付近に突き立てた。爆風と衝撃波が舞い、ヤモリの足元が爆散した。
闘技場の地面のかけらが舞い上がる。ヤモリは慌てて後ろに下がった。
「まあまあ、やってってよ」
飛龍はにやつきながら赤い目を光らせる。
「やだって! 命足らないし!」
ヤモリは栄次の影に隠れた。
栄次はため息をつきながら飛んできた飛龍を刀のみねで弾く。
神力を纏っているのか異様に固い。
「なんか強いのいるー!」
飛龍は楽しげに笑いながら強烈に固い蹴りを栄次に放った。
栄次はわずかにさがってかわす。
「かわした!」
「……龍に勝てる気はせん……」
「ていうか! 潜入捜査だったのでは!? 普通に目立ってるけど!?」
おはぎはヤモリを泣きそうな顔で見て叫んだ。怖い、とにかく怖い。
「とりあえず、今は栄次は客で、私たちは従業員だからね?」
「そ、そうだった……」
ヤモリの言葉になんとなく頷くおはぎだったが、考え直した。
「いやいや、こんなヤバいのをお客さんにすすめるのも何か変な気もするけども……」
「普通はすすめないけどね……。平和なレジャー施設が竜宮だし。あいつは竜宮を操ってるだけだから、今のところ」
ヤモリはあきれつつ、栄次の戦闘を眺める。
「栄次、クレイジー龍神と渡り合ってる……こわっ」
爆風を飛んでかわし、火炎弾を走り抜け、落とされる雷まで避けている。なぜ、当たらないのかヤモリもおはぎも不思議に思った。
「毘沙門天でもついてるんじゃないの?」
ヤモリは飛んでくる岩に悲鳴をあげながらおはぎの後ろに隠れた。
「ヤモリ、やだよ! 私が後ろにいたい!」
二人で後ろに交互に動いているうちに、従業員用の入り口に近い壁まで来ていた。
「いつの間にか従業員用扉前まで来てるじゃないの!」
ヤモリが叫び、おはぎは涙目で扉を開けようとした。
「おはぎ、ちょっと待って! お客さんを見てなくちゃ!」
「ええっ……もうムリー!」
上から多数の落石。
落石の真下にいかないよう、必死で逃げる。ちなみに栄次は何事もなかったように立っていた。
彼は化け物か何かだろうか?
「栄次、強すぎない? いまだ、ダメージゼロ!」
ヤモリが栄次の頭の上にある緑のバーを指差す。栄次のDPは減っていなかった。
「てか、竜宮って、どうなってるの? 仕組み!」
「竜宮は過去を常に映し出している建物、過去の世界、参の世界への扉を保有中! それの影響で一部巻き戻しの力があったりして、このゲームは竜宮の巻き戻しシステムを利用したもの! だから実際この変な格闘ゲームは怪我する! ただ、巻き戻しシステムで怪我が治るってわけで!」
ヤモリは落ちてくる雷に悲鳴をあげながらおはぎに説明をした。
「うわあ……」
おはぎは栄次のすばやい動きを眺めつつ、顔を青くした。
飛龍が拳を地面に突き立てると、なぜか地面が割れ、天井が崩れる。しかし、竜宮の巻き戻しシステムで壊れたことにならない。
栄次はうまく避け、まだ攻撃を食らっていない。
飛龍を攻撃できるはずなのだが、彼は逃げているだけだ。
「ちょっと! 栄次、早く倒してよ……」
「……相手がその……女故……その……」
ヤモリの言葉に栄次は言いにくそうにつぶやいた。
「何言ってるの! こんなヤバい奴、レディでもなんでもないんだから! 戦闘狂!」
「そうは……言っても……だな……」
栄次は眉を寄せつつ、軽々と飛龍の攻撃を避けている。
「すげぇ! 全部避けてる! アーッハッハッハ!」
飛龍がとても楽しそうに笑い、鉄の棒をぶん回したかのような蹴りで栄次を襲い始めた。
栄次は避けたが風圧で着物が裂け、腕を薄く切られた。緑のバーが少し減る。
「当たった、当たった~! やっぱ、もう一段階上げても平気そうだ、あんた」
「もうレベルを上げんな! これ、体験! そう、体験だからっ! このアトラクションをやりにきたわけじゃないんだから!」
ヤモリは飛龍を睨み付けながら叫んでいた。今でもじゅうぶんに強い飛龍がもう一段階強くなるのは考えたくない。
「……なんで逃げた奴ら(龍神達)、誰もオーナーに報告してないの! あいつの勝手を許してるなんて! 私が報告してやる」
ヤモリは飛龍に見つかる前にオーナーアマツヒコネに危険信号とSOSを同時に神力電話でおこなった。スマホについている緊急ボタンと同じか。
「ヤモリ、オーナーを呼んだら私がヤバイんじゃ……。そもそも、あの龍神さんを倒して平和になったのをオーナーに報告するんじゃ……、え、英雄の話は?」
おはぎが半泣きでヤモリを見ていた。
「それは忘れて、今。オーナーは従業員把握してるもんね……。えー、とりあえず、従業員のドアから中に入って従業員として隠れてて!」
ヤモリは従業員用扉を開け、おはぎを押し込んだ。
「ちょ、ヤモリ!」
「こっちはなんとかしとく!」
ヤモリの後ろで爆発音と砂塵が舞い、栄次が頑張っているのが見えたが、おはぎはヤモリに閉め出されてしまった。
「なんか、情報掴んどいて!」
無理難題を最後に言ったヤモリの声を背に、おはぎは半泣きで従業員用の階段をのぼった。