表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

橙の龍神3

 波が完全に引いた竜宮は大地の力を持つオオヤツヒメと、タニとおはぎの神力をもらった飛龍により、元に戻った。

 しかし、動力源となっていた龍神が消滅したので遊園地は保てなくなってしまった。

 「ん……うう……」

 竜宮のロビーで寝かされていた銀髪の龍神、龍雷水天神イドさんは薄く目を開けた。ずいぶん長いこと眠っていたような気がする。

 「では、私はこれで」

 「ありがとうございました。オオヤツヒメ様」

 遠くでオーナーの声が聞こえた。意識を戻してイドさんは無理やり起き上がった。起き上がるとオオヤツヒメが髪をなびかせて去っていく後ろ姿が見えた。

 「気がついたか。龍雷水天(りゅういかづちすいてん)

 オオヤツヒメを見送ったオーナーがイドさんに気づき近づいてきた。

 「まだ、オオヤツヒメ様にお礼が……」

 「いいのだ。私がお礼をした」

 「アマツヒコネ様……僕の神力は……」

 「問題ない……しかし……流史記姫(ヒメ)に龍神の力があったのはなぜだ? 歴史神だったろうに」

 竜宮ロビーのソファーに寝かされていたイドさんは座り直し、オーナーを仰いだ。オーナーはロビーで話しているおはぎとタニとヒメを見ていた。

 「わざと残したのか」

 「ええ……そうです」

 さらに尋ねられたイドさんは目を伏せると答えた。

 「……そうか。追及はしない」

 「……過去神栄次には筒抜けかもしれませんね」

 イドさんはヤモリと共に三柱を見守る栄次に苦笑いを向けた。

 「いやー……パァパが死んでしまうと思ったがの、生きていてよかったのじゃ」

 ヒメはタニとおはぎにそう言った。

 「私達、ほとんど何もしてないよ……。力を渡した飛龍さんはなんか満足そうに持ち場に戻っちゃったし」

 おはぎがげっそりしながらタニを見た。

 「まあ、そうだね……。私はだいたい龍神じゃないし、タマリュウっていう植物の神だし、たまたま呼ばれたけど、おはぎはアマツ様から竜宮に引き抜かれるかもよ」

 タニがそんなことを言い、おはぎは慌てた。

 「私、竜宮の使いの亀にはならないよ!」

 「いや、アマツ様、神としてほしがってる。亀神が大地の力を持っているとのことで、おはぎをほしがっていたよ。海に拮抗する力もほしいとか。珍しいって。普通は水の神だしね」

 「えー……?」

 「というか、これから竜宮はどうなるのじゃ? もう遊べないのかの?」

 ヒメが不安げに聞いてきて、タニとおはぎは眉を寄せた。

 「そういえば……私も解雇かも……」

 竜宮の従業員として働いてきたタニは急に不安になった。レジャー施設としての竜宮はなくなってしまった。

 「アマツ様に続けてくださいって頼んだら?」

 「そうするのじゃ! あ、おはぎ、亀の神はの、金運、長寿、幸運の力を持つのじゃ! 故、竜宮にいるのじゃ! 竜宮が商業施設として長くやっていくためにの!」

 ヒメがおはぎの手をとる。

 「ええ……私、現世にいる自然派の亀だし……」

 困惑するおはぎの前にヤモリが入り込んだ。

 「ねぇ、ヒメちゃん、ごり押しは良くないよ。これからオーナーに続けてほしいって言うから皆で行こう。ね、栄次?」

 「な、何故……俺も」

 いままで聞いていただけの栄次はヤモリに引き入れられ、渋い顔で首をかしげた。

 「オーナー、竜宮は終わるんですか?」

 ヤモリが不安そうにアマツヒコネに尋ねた。アマツヒコネは悩んでいる顔をしていた。

 「終わらせないでほしいのじゃ! 平和なレジャー施設、竜宮はここしかないのじゃよ!」

 ヒメが半泣きでアマツヒコネにすがる。

 「ヒメちゃん、アマツヒコネ様に失礼です。退きなさい」

 イドさんが厳しい顔でヒメを離すが、アマツヒコネは「いや……」とヒメの話を聞く姿勢をとった。

 「楽しかったのじゃ……。色んな企画、色んなアトラクション……全部、楽しかったのじゃ」

 「ヒメちゃん……」

 「パァパの謎が封印された龍神だとワシは知らなかった……。レジャー施設の竜宮をなくしてしまったのは悲しい……」

 ヒメが静かに泣き始める。

 「ヒメちゃん、ごめんなさい。僕も黙っていたんです」

 イドさんが目を伏せた。

 「竜宮の色々をあの龍神の力を使って動かしていたとは知らなかったのじゃ。不謹慎じゃが……あのままワシが動かなければ……」

 「いや、あれとの対峙は近々行う予定であった。準備がいたのだ。私は海の神でもある故にあれに力を吸い取られる可能性があった。実は計画していたことなのだ。だからあなたが探りを入れてきたからではない」

 「そうかの……」

 ヒメはアマツヒコネの話を聞いて悲しそうにうつむいた。

 「あ、あの!」

 ヒメの悲しそうな声を聞いたおはぎは耐えられずに声を上げた。

 「どうした?」

 「私がなけなしの神力で竜宮を活性化するので! なんとか、ならないでしょうか!」

 「なんとか……なるかもしれない……」

 おはぎの言葉にアマツヒコネはすぐに答えた。

 「ええっ!」

 なんとかならないかと発言したおはぎが逆に驚いた。

 「あなたは金運、長寿の神力が半分だ。あなたの力で金のまわりを良くして、長寿の力で長持ちさせる。レジャー施設竜宮は存続させることにする。亀神のあなたは一週間に一度こちらで神力を解放してくれ。竜宮の設備に関しては私が保たせる」

 「そ、そんなんで竜宮が保つんですか?」

 「あなたの力は代々受け継がれているもので実は強い。いまいる亀達の具現化した存在だ」

 「ぐげん……へー……」

 おはぎは難しい内容が理解できない。

 アマツヒコネは眉を寄せると説明を省く。

 「なので……亀達の力を引き上げる力を持っているのだ。今後は金運と長寿により竜宮は保つ」

 アマツヒコネはため息混じりにそう答えた。

 「浦島太郎、涙目だね」

 「浦島太郎はツルだよ……」

 タニがつぶやき、ヤモリが耳打ちした。

 「後は龍神全体で動力源を確保する。龍雷水天(イドさん)は東のワイズ軍……オモイカネ様の軍であるため、無理強いはしない」

 「……はい。手助けには来させていただきます」

 イドさんがそう言い、竜宮は再生へと向かった。


 ……そういえば、イドさんが東の軍でヒメちゃんが西の軍である理由がまだ不明だ。


 おはぎは横目で栄次を見ていた。

 栄次の目にはおそらく、すべてが映っている。だが、おはぎは聞くつもりはなかった。平和的にもう一度進もうとしている竜宮に余計な内容はいらない。

 今はいらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ