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橙の龍神2

 「……神力を送らなきゃならないんだよね?」

 おはぎが困惑しながら言い、タニは蒼白で頷いた。


 「手を繋いで神力安定させてから飛龍さんに神力を渡す感じでいいですか?」

 タニもおはぎを恐る恐る見つめる。


 橙の龍神、龍水天海神(りゅうすいてんうみのかみ)は攻撃を一切止めない。 

 龍水天海の攻撃を飛龍と栄次が助け合ってなんとか防ぎ、保っている。


 「指示は私がしよう」

 オーナーが戦況を見つつ、おはぎ達を守り、飛龍に神力を渡す機会を見つける。


 「飛龍……少し神力放出を抑えられるか?」

 オーナーが飛龍に神力電話をかけつつ、指示を出す。飛龍は雷や竜巻を避けながら神力を少しだけ抑え始めた。

 間で栄次が飛龍を守る。


 「力が強すぎる……。長くは持たんぞ……」

 栄次が無謀に飛んでいく飛龍を困った顔で見つめる。

 「ギャハハハ!」

 龍水天海は狂気の笑い声を上げ、止まる気配はない。


 「お待たせいたしました」

 ふと女性の声がした。


 「オオヤツヒメ様、ありがとうございます」

 「いえ。ツマツヒメのツマちゃんとイソタケル兄様は置いてきました。私だけですが……」

 オーナーの後ろにいたのは緑の髪に赤いシャツを着てチェックのスカートを履いた今時な雰囲気の少女だった。

 おしゃれな帽子をかぶっている。


 「それで、この子達が神力を飛龍に与える子達ですね?」

 オオヤツヒメはおはぎとタニの頭を優しく撫でた。


 「はい。そうです。オオヤツヒメ様は龍水天海の神力を逆流させてください。今は……蛭子様がいらっしゃるまで、龍水天海の足止めを」


 「……わかりました。うまくいくかはわかりませんが、やるだけやります」


 オオヤツヒメは神力を解放した。大自然の恐ろしさや強烈な力強さがオオヤツヒメを包む。おはぎとタニはあまりに強すぎる神力に震えた。


 栄次と飛龍が飛び退き、龍水天海の前に突然巨木が生えた。龍水天海はすぐに炎を纏わせ、巨木を焼き尽くす。


 「いまだ」

 オーナーが止まった飛龍を指差し、タニとおはぎに声をかけた。


 「や、やります!」

 タニとおはぎはよくわからないまま神力を放出し、飛龍に飛ばした。


 神力は飛龍に吸い込まれ、飛龍の力が倍に増大。山の力の方がやや強くなった。まずいと感じたらしい龍水天海が手を横に広げ、背後から波をうならせた海を出現させた。龍水天海が海を呼んだのだ。オオヤツヒメの植物達は海により枯れた。


 「うわっ! 海だ!」

 タニやおはぎが慌てて逃げようとしたら、一つ目龍になったオーナーがふたりを背に乗せ、空へと舞った。オオヤツヒメも背に乗る。

 飛龍も龍に変わると栄次を背に乗せ、飛び上がった。


 「まて、まだヤモリ達が……」

 栄次が濁流からヤモリとヒメ、イドさんを探すが見つからない。

 「大丈夫だろ。ヤモリは龍神だ」

 飛龍が高笑いする龍水天海を見据えながら答えた。


 「栄次、大丈夫だよ。心配どうも」

 ふと、すぐ横からヤモリの声がした。ヤモリも竜になっており、背中にびしょ濡れのヒメと意識を失っているイドさんを乗せていた。


 「栄次! パァパを見つけたのじゃが意識が戻らぬ!」

 ヒメは必死で栄次と飛龍に叫んだ。


 「とりあえず、オーナーのとこに行け! 栄次! 刀を構えろ」

 飛龍がヤモリをオーナーのところへ飛ばし、栄次に刀を構えるように言うと、龍水天海に向かい急降下した。


 「このまま斬れと言うのか!」

 栄次は刀を構えたまま冷や汗をかき、珍しく声を上げた。飛龍は急降下している。栄次はしかたなく、龍水天海に刀を振りかぶった。水面に浮いている龍水天海は軽く飛び退くと栄次に飛びかかってきた。飛龍が高速で動き、龍水天海の攻撃を避ける。風とカマイタチが通りすぎた。


 「無茶な行動はやめろ! 俺を殺す気か!」

 栄次が怒るが飛龍は笑っていた。

 「あんたなら死なないだろ、こんなんじゃな」

 「俺は人間寄りなのだ。普通に死ぬ」

 「またまたー」

 飛龍は軽く流し、旋回すると飛んできた龍水天海に接近。風が唸りを上げる中、栄次は龍水天海に刀を凪払う。


 龍水天海は軽く避けたが胸を軽く斬られた。


 「やるじゃん!」

 「位置を計算した。次はうまくいくかわからぬ」

 飛龍は栄次を乗せ、再び龍水天海の攻撃を避ける。


 「あー、強いな、あいつ、やっぱ」

 「竜宮が海になってしまった以上、俺はここから戦うしかできぬ……」

 「だろ? だからあたしが避けるからあんたが特攻しろ!」

 「俺はそんなに強くないっ……」

 「なめんなよ、龍神と張り合える神は少ねぇんだよ」

 飛龍が再び龍水天海に向かい高速で飛ぶ。栄次は遠心力で振られ、眉を寄せた。


 「居合いの方が良いか……」

 栄次は急降下中に息を吐くと刀を鞘にしまった。飛龍が龍水天海に一番近づいた刹那、栄次は飛龍の背を勢いよく蹴り、踏み込み、刀を鞘から引き抜いた。


 目に見えない居合いが龍水天海の肩から骨を砕いた。衝撃波が栄次を纏う。


 「グアアア!」

 龍水天海の咆哮が竜宮に響き渡った。

 栄次は袈裟斬りではなく峰打ちで相手を捉えていた。


 「……やったか」

 栄次は勢いよく飛び上がり、そのまま海へと落ちていく。飛龍がすぐに栄次を水面ギリギリでかすめとっていった。


 「お前、やっぱすげーな!」

 飛龍が栄次を褒めるが、栄次はやつれていた。


 「捉えられたが……もう一度は厳しいぞ……」


 「まあ、そうだろうな。みろ、蛭子様が来た」

 飛龍は海の先を指差した。天界通信本部社長、蛭子が剣を持ちながら海の上を歩いてきていた。イザナミ、イザナギから最初に産まれ、海に流されたことで外交の神、海の神と言われた蛭子は堂々と海の上を歩く。


 「蛭子様! 時神過去神が隙を作りました。手筈通りにお願いいたします」

 一つ目龍になっているアマツヒコネは蛭子に丁寧に言うと、軽く頭を下げた。


 「君はこちらなんだろう? アマノハバキリではなく……スサノオがあの時使用したこの剣……アマノムラクモだ」


 蛭子は龍水天海に声をかけ、剣を振った。剣は異様な光を放ち、龍水天海の神力を剥ぎ取り始めた。


 「私はこちらも出せるぞ。アマノハバキリ」

 光に包まれた高エネルギーな剣も現れた。蛭子は剣を振り、神力のカマイタチを発生させ、龍水天海の神力を削ぐ。


 「グアアア!」

 さらに咆哮を上げた龍水天海は標的を蛭子に変え、蛭子に向かって海を滑ってきた。


 「栄次、行くぞ!」

 飛龍が龍水天海を追いかけ、蛭子の前に入る。栄次は再び呼吸を整え、足を踏み出し龍水天海を斬りつけた。龍水天海は栄次の攻撃に当たりながらも突進してきた。飛龍が栄次をうまく背に乗せ、危なげに通りすぎる。


 「あっぶね……。大丈夫か? 栄次」

 「大丈夫だ。飛龍、怪我はないか?」

 「あたしは大丈夫だ」

 「だいぶん動きが鈍くなったぞ」

 栄次が遠目で様子を見ながら冷や汗を拭った。


 「オオヤツヒメ様、お願いします」

 オーナーの言葉に背に乗っているオオヤツヒメは頷き、さらに神力を放出させた。緑の美しい髪が伸びる。

 手を前にかざし、龍水天海を捉える。


 「いきます……」

 蛭子に力を削られて止まっている龍水天海に向かい、オオヤツヒメの神力が勢いよく飛んでいく。それに合わせるように飛龍も大地の神力を放出した。

 おはぎとタニは息を飲んだ。


 木の幹が勢いよく龍水天海に絡み付き、巨木へと変貌した。蛭子が最後の神力を剥ぎ取ろうと剣を上げた刹那、


 「待ってください!」


 とイドさんの声がした。


 「おい、大丈夫かよ。気絶してたんじゃないのかよ」

 飛龍が振り向くと龍になったヤモリの上に危なげに立っている銀髪の龍神イドさんがいた。


 「僕が……やります」

 イドさんは息を荒げながら自身の神力を纏わせた弓を構える。


 「この神は……僕だ……あの時の僕」

 イドさんは小さくせつなげにつぶやくと神力の矢をまっすぐに放った。


 「僕が自分で、取り込みます」

 イドさんの、龍神らしい水のような全力の神力が高速で龍水天海を貫いた。


 「グアアアアア!」

 龍水天海が暴れるがオオヤツヒメが樹木で固定しているため、逃げられない。


 「僕は……お前と合わさるのは嫌ですが、ヒメちゃんの父として……受け入れることにします」

 イドさんはふらつくとヤモリの背に倒れ、再び意識を失った。


 「ぱ……パァパ……」

 ヒメの泣き声が静かに響いた。海が引く。静かにゆっくりと、荒々しい力をなくし、引いていく。

 龍水天海は白い光の粒となりイドさんへと集まった。そしてそのままイドさんの中へと入っていった。


 ……さようなら。もう罪を重ねるな。

 お前はもう、歴史からもないことになっている龍だ。


 イドさんはまどろむ中、そう告げた。


 ……私は民の期待に答えられなかった。手一杯で仕方なく人間に手を出した。髪が橙に染まって、人間に手を出すごとに髪から銀色がなくなった。橙に染まりきった頃、神力が暗転した。村を焼いていた、天災を起こしていた、妻を……殺してしまった……。


 そして意思のない邪龍へと落ちた。

 妻に会いたい……。赤子がいたんだ。

 私が殺してしまった……。

 私が……。


 龍水天海の神力がそのままイドさんに語りかける。


 ……龍史白姫(りゅうしはくき)はもういない。ですが、あなたの……僕達の娘はいます。流史記姫神(りゅうしきひめのかみ)……いや、「流れる」は本当は違います。龍です。龍史記姫(りゅうしきひめ)が。


 ……ああ、そうか。


 私は……もう妻には会えないが……娘には会えるのか……。良かった……。


 千年……封印されていたあなたはもう、楽になっていい。


 イドさんの言葉に龍水天海は涙を流し、頷き、消えていった。

 イドさんの意識はここで完全になくなった。

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