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ベリーハードモード1

 入城券を手にした栄次はけん玉をしているヤモリと怯えているおはぎを見る。

 「勝ったぞ」


 「おつかれさま。じゃあこれで竜宮に……あ、リュウ、カメは呼ばなくていいよ。君が連れていってくれる?」

 栄次が刀をしまうのを眺めつつ、ヤモリはリュウに頼んだ。


 「……俺様はツアーコンダクターとして忙し……」


 「忙しくないでしょ。誰がベリハードモード竜宮に行きたいのかな? 君を一瞬で倒すようなおかしな連中しか来ないはずだよ。そんな暇ある戦闘狂はそんなにいない。しかも観光客が集まる夏ではなく、今は正月過ぎた冬。君も暇でしょ?」


 「ま、まあ……たしかに」

 ヤモリに言われ、リュウは落ち込みつつ苦笑いを向けた。


 「さあ、連れていって。私は自分だけなら竜宮に入れるけど、栄次を連れてはいけないからね」

 ヤモリに言われ、リュウは頭をかきながら海に飛び込んだ。


 「さあ、いこう」

 ヤモリが海に向かい走り、栄次とおはぎは戸惑い立ち止まる。


 「本当に海の下にいくのか……」

 「……栄次は、泳げる?」

 「泳げるが……海底となると話は別だ……」

 「まあ、だよね。私もきれいな浅い川や水場のが好きでさ、深い海底は溺れる自信あるよ」

 お互いに話していると、ヤモリが海面から顔を出した。


 「何してるの? ツアコンのリュウがいるから大丈夫だよ? 色んな神をまとめて連れていけるのは龍神の使いカメとツアーコンダクターのリュウだけなの」

 ヤモリは眉を寄せながら言うと再び海へと潜った。


 「……いくか」

 「うん……」

 栄次とおはぎはお互いに見合った後、海へと歩いていった。

 白い綺麗な砂浜から澄んだ海へと入る。海は驚くほど静かで生き物が住んでいる感じではなかった。生命を感じない、驚くほど静かな海である。


 「おせーぞ……」

 リュウが海中で怒っている。

 「すまぬ」

 栄次は普通に海中でリュウに答えた。


 「あれ? 息できるね?」

 「ツアーコンダクターやカメがいないと海に適応している神以外、おぼれちゃうからね」

 ヤモリの言葉におはぎは「それはそうだ」と思った。


 「ところで……地味子が竜宮に帰ってくるのはわかるが、過去神栄次が客として来るのはとてつもない違和感だが。しかもひとりで。まあ、ほとんど竜宮に帰らない地味子が帰ってくるのも違和感しかないんだがな」


 「たまに帰ってくるくらいいいじゃない。私が栄次を誘ったの。たまたま会ったからね」

 ヤモリは半分本当のことを話す。リュウは納得がいかないまま、深海へと動き出した。


 海はどこまでも深く見え、生き物がいないため澄んでいて静かで、不変だ。


 「……あと、そこにいるカメ、竜宮に就職希望か? あれ? お前、元からいたっけ?」

 リュウに睨まれたおはぎはカメらしく首を縮こめ、怯えた。


 「あ~、彼女はこないだから働いてるらしいよ? たまたまそこで会ったの」

 「……たまたま会ったって……そいつ、高天原に入る神格が今もないような……」

 リュウがつぶやいた時、ヤモリが顔を近づけて睨み付けながら言った。


 「最近、入った新入社員なの。わかったね?」

 「……ひっ、わかりました~」

 「ヤモリ、強引……。『侵入』社員の間違いみたいなもんなような……」

 おはぎは小さく独り言を言っておいた。


 「で、着いたぞ」

 リュウはいつの間にか超高速で海を下降しており、おはぎ達は気づくことなくただ立っていただけであった。

 リュウが突然地面に足をつけると、おはぎ達も強制的に地面に足をつけた。


 「……って、なんで普通に地面に立ってるの?」

 おはぎが驚いたので、ヤモリはすばやくおはぎの口を塞いだ。

 「竜宮についたの! 上が海でここは地上っていうわけわかんないと思うけど、そうなの! リュウに新入社員って説明してんだから、初めてみたいな感じに驚くのやめて」


 「あ、そっか……って、なんで空に海がっ!」

 「はあ……」

 ヤモリはため息をつくと、もう好きにさせておいた。


 地面に立っているここは間違いなく地上であり、上にある結界の先は海である。つまり、空に海が浮かんでいる構図だ。


 完全電子な世界、高天原を知らない者はこういった謎の現象に驚くだろうが、神も幻想、つまり電子データなため、本神も媒体を使いワープしたり、テレパシーで電話できたりしていることを忘れている。


 「いやー、しかし、お前、初めてみたいな反応すんのな」

 リュウに言われ、おはぎは慌てて口を閉じた。


 「まあ、とりあえず行くけど、ツアーコンダクターはもういいや。ここまでありがとう。後は私がゲストの栄次さまの担当するから」

 ヤモリはそう言った後に再びリュウを引っ張り耳元でささやく。


 「ベリーハードってアイツはまた何をしてるの?」

 「な、なにって……いつもと同じで……強い神々とゲームして狂ったように笑ってるぜ」


 「……あ、そう……。関わりたくないね……。他の龍神はいる?」

 「まあ、いるぜ。オーナーに怒られたくないやつらは竜宮外に避難してるけどな」

 「……なるほど」

 うなずいてからリュウを解放したヤモリはおはぎと栄次のそばに寄った。


 「今、竜宮は手薄。オーナーも不在。飛龍っていう頭オカシイ龍神が仕切ってるんだけど、あの龍神、オーナーの許可なくやってるわけ。つまり、栄次は……」

 ヤモリは辺りを見回してからまた、小さな声で言った。


 「飛龍を止めた英雄になってもらい、裏で君……おはぎが色々探る……。適度に栄次の過去見で竜宮本体の記憶を覗いてヒメちゃんのパパが過去来ているか探る……私達に罪がいかない!」


 「私が探るの!?」

 おはぎが驚き、ヤモリは再びおはぎの口を塞ぐ。


 「君は従業員! 私もめったに帰らないけど従業員! わかった? 飛龍を止めに来たことにすればオーナーからもほめられる! 私!」

 ヤモリは飛龍を止められそうな栄次がいることで強気だ。


 とりあえず、リュウとわかれて竜宮への門をくぐる。


 門をくぐると遊園地が見えた。

 観覧車、コーヒーカップなどのよくある遊具の他、何をするのかわからないものまで様々だ。


 そして門前まで空が海だったのだが、門を入ると青空の上に海があった。


 「もう、わからん……」

 おはぎは眉を寄せつつ、ヤモリについていく。栄次も同様に眉を寄せている。

 ヤモリは遊園地の入り口の道路を歩き、竜宮へと向かった。


 竜宮は和風のお城だが、なぜか自動ドアになっており、中に入るとホテルのロビーのようにきらびやかだった。


 「あー、竜宮はね、宿泊施設、宴会の会場、室内遊戯場、それと従業員の宿舎があるの。竜宮を運営するオーナーの部屋の付近は竜宮を動かす機械やシステムが沢山ある」

 「うわあ……高級ホテルみたい……」

 おはぎはのんきにそう言ったが、栄次は眉を寄せていた。


 「なんだか、強力な力を感じる……」

 「……ああ、たぶん飛龍……かな」

 ヤモリはうんざりした顔で栄次に答えると竜宮受付に栄次の入城券を出しに行こうとしたが、受付はいなかった。


 「はあ……オーナーに怒られたくないから逃げたか」

 ヤモリはとりあえず受付にチケットを置くと、近くにある階段にのぼって行った。


 二、三段のぼってから、ふたりを手招いている。

 おはぎと栄次はヤモリについていった。

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― 新着の感想 ―
ちょっと強引に店員の既成事実を作る感じ、最高ですね!
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