ある龍神の過去3
辺りは元の竜宮に戻った。過去を映し出す竜宮はアマノムラクモの方に反応した。封印された龍神はアマノムラクモでスサノオに斬られて封印されたようだ。
「なんだったの……? あの怖い龍神……。イドさん……なの?」
ヤモリがつぶやいた声がやたらと大きく聞こえる。
「あれは……そうと言えばそうで、違うと言えば違う。見てしまったか……」
エビスの父、蛭子はため息をついていた。
「社長……麿達も見たことのない歴史でしたが……」
一緒に記憶を見てしまったアレが戸惑いながら蛭子を見る。
「それはそうだろう。オーナーアマツが封印の際に記録が残らないようにしたのでな」
「歴史神としてですが……こちらは残した方が良かったのではと私は思いましたが……」
冷や汗をかきながらヤスマロも蛭子に尋ねた。
「おそらく、次の記憶が見えると思うが……」
蛭子がそこで言葉を切った。白いモヤがかかり、再び何かの記憶を映し出した。
場所は竜宮手前の門。まだ竜宮は城しかない。
門の前で龍神達が集まっていた。
「お願いです! アマツ様にお話を!」
銀髪の青年イドさんが泣きながら龍神達に頭を下げていた。
「うるせぇな! お前のせいで龍神信仰が恐怖信仰に変わっちまったんだ! 許さないさ、邪龍め」
囲んだ龍神達はうずくまるイドさんに暴行を加えていた。
「待ってください! あれは僕とは無関係で……」
「あー、弱い弱い。あの地域を全滅に追いやったとは思えないなあ!」
殴られ、蹴られ、挙げ句の果てに棒まで使いだした龍神達にイドさんは袋叩きにされている。
「痛い! やめてください!」
「お前がアマツ様に会えると思うか?」
龍神のひとりがイドさんの髪を引っ張り、鋭い声でそう言った。イドさんは震えながら涙を流している。
「僕は……アマツ様に助けていただきたくて来たんです!」
「今さら何言ってるんだよ、あんだけやったら信仰も集まらないだろうな! 龍神達もお前のせいで不況なんだよ! どのツラ下げて来やがった」
「ですから! あれは僕ではないんですよ! 僕も信仰が集まりません……」
「知るかよ。邪龍なのは間違いないだろうが」
龍神達はイドさんを蹴り飛ばし、イドさんは再び懇願した。
「お願いです! 僕は消滅するわけにはいかないんです! アマツ様の神力の加護を受けたいのです! 竜宮に加盟を!」
「うるせぇ、二度と来るな」
イドさんは龍神達から罵倒され、血にまみれながら拳を握りしめた。
「そんな……」
龍神達はイドさんを押さえつけ、霊的武器の小刀を取り出すと背中を斬りつけた。
「ぐっ……ううう……」
イドさんは呻き、倒れた。
「邪龍は捨ててこい」
イドさんは龍神らに乱暴に担がれ、海に捨てられた。イドさんの背中から血と共に竜宮に入れなくなるプログラムの電子数字が漏れだしていた。
もう竜宮には入れない。
「娘が……いるんですよ……。僕達を……助けて……」
最後に小さな声だけが流れた。
「……ひどい」
エビスが半分怒りながらつぶやいた。
「そう、これは龍雷が最初に竜宮に来た時の記憶だ。龍神達は狂った龍神の後に産まれた彼を恨んでいた。わかるだろう? 彼には娘がいて、彼も娘も罵倒や罵声が浴びせられる。アマツは後々に龍神達を変え、恨む心を忘れさせたのだ」
蛭子は言いにくそうに真相を話した。
「そうでしたか……」
アレは小さくつぶやき、もう深くは尋ねなかった。
「その娘さんがヒメちゃんなの……? 本当に」
おはぎが誰にともなく声をあげた。
「そうだ。見えたぞ。龍雷からしたら今さら広められたくない過去ではある」
栄次がおはぎに答え、顔をしかめた。
「イドさんは竜宮に嫌な思い出しかないし、竜宮に入れないようなプログラムを体に刻まれてしまっているから、竜宮に加盟してないのか……。彼は東のワイズ軍。オモイカネの軍……。イドさんに手を差し伸べたのはワイズってこと?」
ヤモリは蛭子に確認するように尋ねた。
「まあ、そうだな」
蛭子はあまり語りたくはないようだ。
「……娘のヒメちゃんは……西の剣王軍。タケミカヅチの軍。これはなんで?」
「龍雷に聞け……」
蛭子はヤモリを軽くあしらうと、なぜか栄次の前に来た。
「な、なんだ……」
「頼みたいことがある。アマツと相談した上での頼みだ」
蛭子は鋭い瞳で栄次を見据えた。




