イルミネーション3
カメに連れられて着いた竜宮はなんだかすごくクリスマスだった。
門の前に大きなクリスマスツリーが。
遊具もイルミネーションのライトがついていた。
「うわあ、きれい……」
おはぎは思わず声を上げてしまった。
「てか、そろそろ夕方だけどまだ昼なのにイルミネーションついてるわけ?」
エビスは腕を組みながら眉を寄せたが、ヤスマロとアレに指示を始めた。
「やるわよ、これはネタだわ!」
「はあ……」
「ネタですか」
やる気なさそうな二人は穏やかに準備を始めた。
「マイク、オッケーです」
「カメラも大丈夫です」
「そこは一、二、三、あくしょーん!」
エビスに叱られ、慌てるカメラ係ヤスマロ。
「はいっ! いち、にー、さん! あーくしょん!」
「はい! ということで竜宮の……」
「アクションは違うような……」
エビスの説明を聞きながら、おはぎは小さくつぶやいた。
「オイ、これからどうするのだ?」
栄次がヤモリに小さい声で聞いてきた。
「蛭子とオーナーが会議……怪しくない?」
「まあ、怪しいな」
「なんか考えてるよね。絶対。それで、古事記編纂組のヤスマロとアレがいる。過去を覗けと言わんばかりのふたりがいるわけ。ヤスマロとアレは神々の歴史管理をしているじゃないの。私、もしかしてオーナーに乗せられてる?」
「可能性はある。お前のことを知らんわけはないだろう。俺達はかなり目立っているぞ」
栄次は眉間をもみながらため息をついた。
「昼よりの夕方! もうすでにイルミネーションがついています! まだ昼だぞー! はい、ではそこにいる竜宮の使いさんにお話を聞いてみましょう」
エビスはすぐ横にいたおはぎに質問を始めた。
「ええ! わたし⁉」
驚くおはぎ。
「はい。だってあなた、竜宮の使いでしょ? このイルミネーション早いと思いません?」
「えー……まあ、まだ昼だよ、昼の二時過ぎだよ、電気代もったいないよ……とは思いますけど……」
「ええ。これはですね、おそらく竜宮にある封印から神力を引き出しているからではないかと我々は踏んでいます。封印されている龍神は……一体何の罪をおかしたのか……」
ふと、エビスの顔が真顔になった。
彼女は竜宮のシステムについてある程度知っているようだ。おはぎだけでなく、栄次とヤモリも固まる。
「力のつきすぎた龍神が封印されているから、神力が上回って封印が解けないようにこうやって神力を電力として流しているんでしょ?」
「え、えっと、それは私は知らないよ」
おはぎは本当に知らなかったので素直にそう伝えた。エビスはため息をつくと、アレとヤスマロにカメラを止めるように言った。
「はあー、もしかしたら進展するかもとか思ったのになー」
エビスがコンパクト鏡で髪についているゴミを払っているところで栄次が声をかけた。
「それは、自分で調べた内容なのか?」
「んー? まあね。これ言ったらパパにめっちゃ怒られるから言ってほしくないんだけど、立ち入り禁止区域に入って取材したことあるんだよね」
「そうですよ! 麿達も行かされて、気が狂いそうでしたよ……」
「ええ、全く……」
アレとヤスマロが半泣きでエビスを見ており、おはぎは二柱の気持ちが痛いほどにわかった。本来は禁止な異様な空間に足を踏み入れ、最悪な罪悪感に襲われている。
「そ、そうか、大変だな……。それで……現在、お前の父が天津と何の会話をしているのかはわかるのか?」
「わかんないわよ、そんなの。あ、あんたさ、過去神でしょ? パパの記憶覗けない? さっきまでこの辺うろついてたよ。竜宮は過去を放出する建物。だから常に過去が映る! あんたは過去神だから特定の神の過去が見えるでしょ?」
「……難しいな……。本神がそこにいないとな」
栄次が唸っていた時、ヤモリが声をあげる。
「でも、うちらが禁止区域に入った時にオーナーがいた記憶を見たよね?」
「あの記憶はあそこに封印されている龍神のものだろう。神力を流され続け、俺よりも一時期神力が低下していたのではと考える。それでもなお、竜宮全体に神力を流され続けても状態が変わっていないあたり、伝説級の龍神が封印されていると思われる」
栄次の言葉に一同は固唾を飲んだ。
「だって今もイルミネーションに使われているのでしょう? そりゃあヤバいですよ。撤退しましょう! 触らぬ神に祟りなし!」
アレが慌てて言い、ヤスマロはカメラを片付け始める。
「お嬢様、これは詮索してはいけない内容です。伝説級だとヤマタノオロチかもしれません!」
「あー、じゃあ、ちょっと刺激してみよっか?」
「お嬢!」
アレとヤスマロが悲鳴を上げる中、エビスは霊的武器「アメノハバキリ」を取りだし、構えた。
「アメノハバキリ……。私の霊的武器。私は蛭子の娘だからねー」
「ヤマタノオロチを斬った剣……そ、それで何を?」
アレが怯えながら尋ねた刹那、赤い髪の龍神が降ってきた。おなじみの眼光鋭い女龍神、飛龍。
「よう! アメノハバキリなんて出しちゃって、あたしとやりたいの?」
「あんたとやりたいわけじゃ……あ、もしかすると、これでやりあったら刺激にはなるかも」
エビスがそうつぶやき、飛龍は楽しそうに微笑んだ。
「……飛龍なんかとやりあってたら命がいくつあっても……うわっ!」
ヤモリが飛龍を睨み付けた時、飛龍が炎を撒き散らした。竜宮へイルミネーションを観にきたお客さんが不思議そうに集まってくる。
「さあさあ、イルミネーションショーの始まりだ! イエーイ!」
飛龍が拳を突き上げ、お客さんが歓声を上げた。
「……またこの神か……」
栄次がおはぎを連れて逃げようとしたところをヤモリが捕まえた。
「栄次、エビスは戦闘ができる神じゃない。ヤスマロとアレもそう! 手伝ってあげて!」
ヤモリにそう言われ、栄次は眉を寄せ、ため息をつきつつ、刀を抜いた。
「ハッピーニューイヤー!」
飛龍が拳を地面におろす。地割れがおきて岩がエビスに飛んでいく。
「ちょっ! うりゃ!」
エビスは神力で結界を作った後にアメノハバキリで危なげに岩を斬った。
ギャラリーから歓声が上がる。
「ほらほら、アメノハバキリだよ! あんたが斬られた剣じゃないのー?」
エビスは剣を構えながら封印されている龍神へ声をかける。
「なに言ってんだ?」
飛龍の回し蹴りがエビスに向く。
「危ないぞ」
栄次が間に入り飛龍の回し蹴りを刀で受け止めた。飛龍の足は神力で鋼鉄のように固く、栄次は顔をしかめた。
その後、強烈な雷がエビスと栄次を襲う。
「栄次!」
「……だ、大丈夫だ」
火花が散る中、栄次はほぼ無傷で立っていた。身体中に電撃を纏っている。
「大丈夫なの?」
おはぎが悲鳴を上げ、ヤモリが眉を寄せた。
「……大丈夫のようだ」
髪が逆立っている。
「まさか、タケミカヅチの神力? 栄次にはタケミカヅチを信仰していた藤原氏の力があるよね」
ヤモリに同意を求められたがおはぎはフィクション映画にしか見えなかった。
「栄次はなんで雷纏ってるの!」
「イルミネーションだ! きれいだわ!」
おはぎの叫びと間抜けなエビスの声が響く。
「あっははは! お前、いつの間にそんなことが? どんどん強くなるな!」
飛龍は楽しそうに多数の竜巻を発生させ、雷のようにすばやく動き始める。
竜巻に囲われ身動きができないところを飛龍は背後から拳を撃ち抜く。
栄次はエビスの腕を掴み、引っ張って飛龍の拳をかわした。エビスの着物の一部がちぎれる。
「うっわー……ハサミで切られたみたーい……」
異次元な動きをする飛龍にエビスは驚きすぎて逆に棒読みでつぶやいた。
飛龍の速さについていけているのは栄次のみだ。竜巻が周りを囲う中、飛龍の攻撃を避けている。
エビスはとりあえず、アメノハバキリで竜巻を斬っていった。
遊園地内で歓声が上がる。
「騒ぎになってるじゃないの! 飛龍が来るとろくでもなくなる!」
ヤモリが頭を抱え、ヤスマロとアレも慌てていた。
「お嬢! これはまずいです! アメノハバキリは苦手な龍神も!」
アレが叫んだ時、近くにいた従業員の龍神が苦しみ出した。
「……あれは竜を斬った剣ですからね……。エビスお嬢、もうじゅうぶんです。剣をお収め下さい」
ヤスマロもエビスにアメノハバキリをしまうように言った。
「あ、やばい。しまうしまう」
エビスが慌ててしまったが、飛龍は攻撃をしてきた。栄次が間に入り攻撃を受け止める。飛龍の回し蹴りは栄次の脇腹に入ったが、栄次は素早く飛龍の足を腕で受け止めていた。
「戦う意思はないぞ。お前は何をしに来ているのだ。いつも……」
栄次があきれた声をあげた。
「あ? お前ら、竜宮の封印を解こうとしているだろ? あたしはガーディアンさ」
飛龍の言葉に栄次は驚いた。
「知っているのか?」
「知ってるさ。あいつは『そういう龍神だったよ』。今も感じるよ。虐殺竜の鼓動を」
飛龍は意味深な言葉を吐いた。
「虐殺竜……」
「アメノハバキリは良くなかったな。エビス。蛭子もオーナーも気づくぞ。いままでしらねーふりしてやったのに意味ないじゃん」
「どういう……」
エビスは顔をひきつらせたまま飛龍を見ていた。
「そのまんま」
「知らないふりをしていたの?」
ヤモリが飛龍を見据えた。
「そうだよ。どちらにしろ、戦えるしいいじゃん。ああ、それと……そこの亀神、なんか見たことあんだよな」
飛龍はおはぎに目を向けた。
「か、亀神……私のことも気づいて……」
「誰でも気づくだろ。使いの亀には神力はない。霊的な力はあるけどね。あんたは……ああ、そうか。あの池に住んでいた元ニホンイシガメの子孫か」
「え……? 確かに池には住んでますけども」
「お前、神社の池に住んでいるだろ? その神社、誰が祭られていると思う?」
飛龍は笑顔で観客に手を振ると炎を撒き散らしながら去っていった。
「え……? ま、待って……」
おはぎの言葉は観客の歓声により消えてなくなった。




