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いざ、竜宮へ!2

 とりあえず、おはぎ達は夕焼けの空を眺めつつ外に出た。


 ツルはヒメちゃんが呼んでからすぐに来た。白い翼を生やした全体的に白黒な美しい青年だった。

 白い髪はお団子のように結ってあり、垂れる髪の先端のみ黒い。

 赤いペイントを目元にしている感じが全体的にツルである。


 そのツルが大きな駕籠(かご)を引いていた。


 「うわあ……きれいな男」

 「よよい! 駕籠へどうぞだよい!」

 きれいな男から出ないような言葉が出た。おはぎは少しだけ頭を抱える。


 「はあ、とりあえず駕籠に乗ろう、おはぎさん。あ、栄次さんも」

 ヤモリが駕籠へ乗り込み、おはぎと栄次もため息をつきつつ乗り込む。


 「うわあ! なんじゃこりゃ!」

 おはぎは乗り込んでから驚いた。外からではわからないくらい中は広く、電車のボックス席のようになっていた。


 「霊的空間だよ、知らないの? 君は」

 ヤモリはなぜかけん玉で遊びながらおはぎに答えた。


 「高天原は電子世界みたいなもんだから、なんかの空間なのはわかったよ」

 おはぎはヤモリの横に座った。

 座席もかなり座り心地が良い。


 「では、出発するよい! よよい!」

 外からツルの声がし、浮いてる感覚もなく駕籠は空へと舞った。

 外から見たらなかった窓から外を見ると、ヒメちゃんと紅雷王が手を振っていた。


 おはぎはなんとなく、控えめに振り返しておく。


 「はい……えー、さっきから寡黙な感じだけども……」

 おはぎは手を振ってから向かいに黙って座っている栄次に目を向けた。


 栄次は話しかけられてか、少しだけ驚いていた。


 「あ、ああ。俺は時神過去神、白金栄次(はくきんえいじ)だ。度々、我が家に来ていたことは知っているが、会ったことはなかったな。いつも飼っているカメと話しに来てると聞いた。カメは冬以外は庭に住んでる故、今まで俺達はおはぎに会ったことはなかったようだ。カメを飼ってから初の冬。おはぎと出会ったのは初めてだ。よろしく頼む」


 「ど、どうもー」

 おはぎは栄次に頭を下げ、栄次も頭を下げてきた。


 「じゃ、自己紹介したところで、栄次の能力を見せてあげてよ」

 ヤモリがけん玉で遊びながら続ける。


 「過去見であのツルが浦島太郎か調べてみてよ」

 「……あのツルの過去を見ろと? わかった。まあ、見たくなくても見えるのだがな」

 栄次が頷き、おはぎは驚いた。


 「え? ツルは浦島太郎なの? あの助けたカメに連れられてる?」


 「浦島太郎は今は神になってて別にいるんだけどね、レジャー施設竜宮で遊んだ太郎さんは人間の寿命を忘れて遊んでしまって玉手箱をもらうよね、玉手箱には太郎さんの時間が入っててあけたらおじいさんになるけど、その後に太郎さんは鶴になって助けた亀の乙姫さんと夫婦になるの。


 派生が多くて、古事記の海幸やら中国の仙人やら、元ネタもよくわからない話だけど、神は人の想像で生まれるから、あのツル、気になる。神々の使いとか言って、神なんじゃないの?」


 ヤモリは長々と語った。


 「鶴亀……」

 おはぎが意味のない言葉をつぶやいた刹那、栄次が眉を寄せつつ話し出した。


 「ああ……浦島太郎の……派系のツルであることは間違いないが……浦島太郎ではないな」

 栄次が答えた時、ツルが口出しをしてきた。


 「よよい! やつがれの詮索は止せやい」

 「すまぬ」

 ツルに言われ、栄次はそこから黙ってしまった。


 「栄次さん? まあ、いいか。あんまり興味ないし。でもこれが過去見だよ、わかった?」

 ヤモリに言われ、おはぎははにかんだ。


 「いやあ、よくわかんなかったけど、まあいいよ」

 「……お前達は何をしに竜宮へ行くのだ……。俺の能力を使うのではないのか……」

 栄次があきれた顔を向けた時、ツルが声を上げた。


 「竜宮につきましたよい!」

 「え、もう?」

 おはぎは窓の外を見た。

 先程まで枯れ木ばかりの森を飛んでいたはずだが気がつくと砂浜に着陸していた。


 「はーい。神力確認したよい。チケットいただきます~よい!」

 ツルが駕籠から顔を出し、チケットをそれぞれから受け取った。

 おはぎも慌てて渡す。


 「おはぎちゃんはややグレーだなァ……ま、いいよい!」

 ツルは楽観的に笑った。


 「……そりゃ、そうっすよ……。高天原に入る神力ないし」

 おはぎは小さくつぶやきながら駕籠を降りた。栄次とヤモリも降りる。ツルは三人が降りるとさっさと飛び去っていった。


 「では、よよい!」

 「……忙しいのかなあ」

 飛び去るツルを眺めつつ、おはぎはため息混じりに言った。


 「はいはい、竜宮いくよ」

 ヤモリが手を叩きながら注目を集める。きれいな砂浜に寄せる波。美しい海に青い空。

 冬でなければ最高の観光地だろうか。地上より高天原のがあたたかい気もする。


 「……ていうか! お城! ないんだけど!」

 おはぎは驚いた。海はどこまでも広く、竜宮らしきものはない。


 「……初めて来た子は皆言うんだよね。でもさ、良く考えてよ」

 ヤモリは人差し指を海に向ける。


 「竜宮城って、海に浮いてる?」

 「……う、浮いてない」

 ヤモリはひとつひとつ確認していく。


 「助けた亀はどうやって太郎を竜宮へ連れてったわけ?」

 「海の下に、もぐって……」

 「そう。つまり?」

 ヤモリは指を海の下に向ける。


 「海の下に城がある……」

 「せいかい!」

 ヤモリは毎回誰かに説明しているのか、説明が慣れていた。


 皆、この海辺にきて同じことを言うのか?


 「では……竜宮に行きたいのだが、海を泳いでは行けぬぞ」

 栄次が困惑しながら言い、ヤモリは眉を寄せた。


 「……君、竜宮行ったことないの?」

 「ない」

 栄次もおそらく同じ疑問を持っていたようだ。


 「はあ……竜宮には太郎は何で行っていた?」

 「……亀か?」

 「そう! 龍神の使い、カメかツアーコンダクターが連れていってくれるの」

 ヤモリの発言におはぎはさらに驚く。


 「ツアーコンダクターがいるの!?」

 「当たり前じゃない。娯楽施設と遊園地だよ?」

 ヤモリに言われ、おはぎはそれはそうかと納得した。


 「ただね、私はいやーな予感がするの」

 ヤモリはけん玉で世界一周をやるとつぶやいた。


 「……え?」


 「ツルが高天原南のチケットだけじゃなくて、竜宮のチケットまで持っていってしまったでしょ。竜宮にはこれから入るんだから客としてまず潜入するならチケットいるじゃない?」


 「あ……」

 「でもこれはツルの過失じゃなくて、竜宮がツルにそう命じていたわけよ」

 ヤモリは頭を抱えた。


 「それはどういう……」

 おはぎはなんだか嫌な予感がした。


 「竜宮は今、普通のシステムで動いてない」

 ヤモリがそう言った刹那、不思議な格好の怖そうな青年が歩いてきた。黒地に金の竜が描かれた着物を片方だけ脱ぎ、頭にシュノーケルをつけた、パイナップルの葉のような髪をした変な青年。


 ただ、顔は目付きが鋭く、怖そうである。


 「よう、地味子! 竜宮に帰ってきたのか?」

 怖そうな見た目の青年はヤモリに向かい、愉快に話しかけてきた。


 「誰が地味子……私はヤモリ! 家之守龍神(いえのもりりゅうのかみ)!」

 「あー、わりぃ! いつものクセで……あはは」

 「それより、お客さんを竜宮に入れたいんだけど、チケット持ってかれたよ? 何してるわけ?」

 ヤモリは青年を睨み付ける。


 「え~、まあ、毎度のことだが、俺様は悪くないぜ! ツアーコンダクターはな、竜宮に従うんだぜ!」

 怖そうだと思った青年は怯えつつ、ヤモリに言い訳をしていた。


 「で? 何してるの? 君は」

 ヤモリの冷たい視線に青年の目が泳ぐ。


 「リュウ、もしやまた飛龍(ひりゅう)が……」

 ヤモリにリュウと呼ばれた青年は顔色を悪くした。


 「飛龍だね」

 「……ツアーコンダクターとして、言うが……今は竜宮はベリーハードモード……なんだぜ!」

 リュウはどこかやけくそに言ってきた。


 「……もういい加減にしてよ、あの女! こないだ天津(あまつ)様なしに勝手にハードモードに変えたばっかじゃない!」


 「えーと、じゃあルールを……」

 怒っているヤモリに怯えつつ、リュウは現在のルールとやらを語る。


 「現在竜宮はベリーハードモード。竜宮に入るにはゲームに勝つこと。ツアーコンダクターの俺様と対決し、勝てれば竜宮に入れる入城券(にゅうじょうけん)を渡す。対決はリアル戦闘ゲームだ。過去を映したり、巻き戻したりする建物竜宮の特徴をいかし、戦闘ゲームをあの女が作りましたー。ほら、頭に緑のバーが……」


 「これがゼロになった方が負けなんでしょ? HP じゃなくてDP(ドラゴンポイント)って書いてあるのが腹立つ 。あのバイオレンス女」

 ヤモリが苛立ち、隣にいた栄次が恐る恐る尋ねる。


 「なんだか嫌な予感がするのだが……」


 「栄次、霊的武器、刀を抜いて。あのツアーコンダクターをボコボコにすれば終わるから。あいつの頭に緑のバーあるでしょ? あれをなくしたら勝ち」


 「社長のアマツヒコネはこんな暴力的な内容を通すのか?」

 「通すわけないでしょ。あいつがまた勝手にやってるだけ。今、オーナーが竜宮にいないんだね、きっと」

 ヤモリの言葉におはぎが慌てて口を挟んだ。


 「じ、じゃあさ、オーナーが帰ってきてから……。なんかヤバそうなんだけど」


 「……オーナーがいないのは都合がいいかもしれない。オーナーは完璧に従業員を把握してる。たぶん、出会ってしまったらバレる。いないなら従業員として禁止区域にも入れるはず」

 ヤモリはけん玉を回すとリュウに向けた。


 「このてきとうなツアーコンダクターはきっと、最初に客として入った君達を覚えてないよ。だから、堂々と従業員になれる」

 一瞬、場がしんと静まった。


 「……そ、そうかもだけど、これ、なんか危険そうなんだけど……」

 「……なんだか……やらねばならぬようだ」

 心配そうなおはぎの横で栄次が刀を抜いた。


 「え、なにこれ……」

 「あの龍神がじゃれてくるようだ」

 「ちょ……龍神なんて強すぎて私らが相手に……」

 おはぎが栄次を止めようとした刹那、リュウが持つ柄杓(ひしゃく)が栄次の頬をかすった。


 栄次の頬から血が流れ、頭のバーが少しだけ減った。


 「ちょ、ちょ……ゲームなのに物理的じゃんかあ!」

 おはぎが焦るが栄次は落ち着いている。


 「あまり……やりたくはないのだが……」

 栄次は刀を構え、リュウの柄杓を今度は軽く避けた。

 リュウの攻撃は早くて見えないのだが、栄次は淡々と避けている。


 「さすが剣客。つばぜり合いが起こらないぜ! 実は危険だもんな!」

 リュウは水の弾を多数出現させ、鉄砲玉のように栄次に放つ。


 栄次は水の弾をまたも軽く避けるとリュウに斬りかかった。


 良く見ると(みね)にしている。


 「なめられたもんだぜ!」

 リュウが刀を避け、柄杓を振るが栄次には当たらない。


 「あたんねー……」

 「栄次、ほんとに強いね」

 ヤモリがけん玉をしつつ、戦況を見守っている。


 「あのさ、ヤモリは戦えるの?」

 おはぎに聞かれ、ヤモリは頬をかくと、「ぜんぜん」と答えた。


 「まあ、でも手助けはしようかな」

 ヤモリはけん玉のけんに玉をさすと、水の柱をリュウに向かい出現させた。


 「うおっ……マジか!」

 リュウが危なげにかわすと、栄次の刀が目の前に迫っていた。

 「あっぶねっ!」

 リュウは避けたがかわしきれず、胸を薄く斬られた。

 緑のバーが減る。


 「すまぬ。風圧だ」

 「ふ、風圧……!? あんた、時神だよな! 武神神格持ってるか?」

 「どうだか……」

 栄次が再び攻撃を仕掛ける。

 まわりに赤い神力が舞い、リュウは焦り後退りをした。


 「強すぎる……」

 リュウは神力で水の柱を鞭のようにしならせ、栄次にぶつける。

 栄次は鉛のように固く重い水の柱を軽々と斬っていった。


 「嘘だろ……俺様の神力をそんな簡単に……」

 「頑張れ、えいじっ」

 ヤモリが間から応援し、おはぎはヤモリの影に隠れて戦況を見守っていた。


 「ちょうど、我々従業員と客みたいな構図ができてる!」

 応援していたヤモリはおはぎの頭を軽く撫でた。

 「た、たしかに」

 ヤモリは審判の立ち位置、おはぎはヤモリの使い、そしてツアーコンダクターと戦う客の栄次。


 「こりゃあこのままいける。栄次、さくっと倒しちゃって」

 「なめられたもんだなっ!」

 リュウは柄杓を振り抜き、栄次が初めて刀で受けた。

 甲高い金属音がし、せりあいが始まった。


 「龍神の力、なめんなよ?」

 リュウは力を込めたが栄次は逆に力を抜いた。


 「はあ? 腕飛ぶぞ?」

 リュウが柄杓を振り抜く。栄次は力を抜きながら後ろに下がり、ありえない角度から柄杓をかわした。ぶつかり合った刀は弾かれて下がったが、栄次はそのままリュウめがけて斬りあげた。


 「ひっ!」

 リュウは神力結界で防ごうとしたが、栄次は途中で斬るのをやめた。


 「う?」

 「緑の棒をなくせば良いのだな」

 栄次はせりあいから、がら空きになっていた腹に蹴りを入れる。


 「ぐふっ……」

 リュウが呻き、バーが半分減った。


 「こいつ……つええ……」

 リュウは涙目でつぶやき、頑張って少しでもバーを削ろうと必死になり始めた。


 「くそ! なんであたんねーんだよ!」

 「動きが荒い。それではすぐに読まれるぞ」

 栄次がリュウの後ろにまわり、峰打ちを食らわせた。


 「うっ!」

 リュウは呻くとその場に倒れた。緑のバーはゼロだ。


 「つえー、負けた」

 リュウは竜宮の巻き戻しですぐに元に戻り、座り込んだ。

 「では、入城券とやらを」

 「うーくそぅ……」

 リュウはツアーコンダクターとは思えない言葉を発し、龍の描かれたチケットを渡した。

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― 新着の感想 ―
やっぱり栄次、強いですね…! すごく強さが伝わってきました。静かに強い武人って、かっこいいですよね!
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