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情報③夏

 ふっとばされて別の壁に激突した栄次は血を流しながらよろけつつ立ち上がった。

 「……受け身をとらなければ危なかったな……」

 「おきゃくさまー! ……栄次、大丈夫?」

 ヤモリが心配そうに栄次のそばに寄った。

 「大丈夫だが……この作戦、本当に良かったのか? 飛龍が怪しんでいたが」

 「とりあえず、栄次をここまで来させられた。ちょっと栄次には悪いけど、ここの階段を降りるよ」

 周りがまだ飛龍の闘技場方面を眺めている間に栄次とヤモリとおはぎはすばやく、封印がある階段を降りた。

 「ここか……む?」

 栄次が封印を瞳に映した刹那、なにか映像が見えた。

 古い記憶だ。

 「あいつはスサノオが斬ったぞ、龍水天(りゅうすいてん)

 目の前に立つのは竜宮オーナー天津彦根。彼の姿は今と変わらない。

 「そうですか。私は別の神なんです。あいつとは違います! 私はあいつのせいで竜宮の龍神からここを追い出されました。また、この場にあなた直々に呼んでくださるのはなぜですか? 私は弱小だ」

 オーナーと話しているのはイドさんだ。彼もたいして変わらないが顔が必死で余裕がなさそうだった。一人称は僕ではなく、私になっている。いつの記憶なのか。

 辺りは暗く、竜宮の設備はない。

 「お前を完璧な別の神にしてやろうと思ってな。このままではお前がいくら人々を救っても、虐殺の記憶が残る人々の信仰は得られない。消滅するだけだ。龍水天神(りゅうすいてんのかみ)よ」

 オーナーは後ろに控えていた黒髪の青年に目配せをする。

 「そこで、わあの力をなあに与える。わあは雷神(らいじん)、常に若くある必要がある賀茂別雷(かもわけいかづち)だ」

 「雷神……。常に若く……」

 「わあは年老いた。若く戻る必要がある。この古い雷の力はいらない。なあが望むなら……この力を渡そう。ただ、覚悟がいるが」

 賀茂別雷はしっかりとイドさんの目を見ていた。イドさんは悩んだ後、頷いた。

 「お願いします。私はまだ消えられない。娘が……いるんです」

 「では、この雷の力で別の神となり、もう一度信仰を取り戻せ」

 賀茂別雷が雷の力をイドさんに渡した。雷は突然暴れ、イドさんを締め付ける。

 恐ろしい光の中、イドさんの悲鳴が響く。

 「耐えられなければ消滅だ。わあと同じように」

 賀茂別雷は口角を上げて笑うと溶けるように消えた。

 「はっ!」

 「栄次! なんか見えてたよね?」

 ヤモリに言われ、栄次は数秒止まっていたことに気づいた。

 「ああ、見えた。あの龍神に雷の名がついている理由が見えた」

 「後で詳しくお願いね」

 「ヤモリ! そろそろ出た方がいいかも……」

 階段から上をうかがっていたおはぎが冷や汗をかきながら言ってきたので、ヤモリは栄次と共にエンジンルームから出ることにした。

 慌てて階段をのぼると水浸しだった。壁が壊れて場外乱闘になっているが、ヒメちゃんはいない。

 なぜか客同士で水鉄砲を撃ち合っている。

 「どうなってるの?」

 ヤモリは目を見開き、立ち尽くした。

 「楽しいのぅ! と観客をあおっていたら、こうなってしもうた。おっと飛龍が来るぞい!」

 「逃げなきゃ!」

 ヤモリはヒメちゃんとおはぎを引っ張り走り始める。

 「オイ、どこいってたんだよ?」

 飛龍が飛んできて道を塞いできた。

 「……はあ。俺が引き受ける。走れ」

 ため息混じりの栄次が刀を構え、飛龍に飛びかかった。

 「ああ、先程はなんでわざとあたったのー? 痛いの好きなのー?」

 飛龍はおどけたように笑いながら栄次の刀を軽々避けた。

 「んん……」

 栄次は唸る。

 「あんたには手加減いらないよな! 雷、炎なんでもありだ!」

 「やりにくい……」

 栄次は不規則に飛ぶ雷を素早く避け、火柱を飛びながらかわしていく。上からのかかとおとしを華麗に避け、回し蹴りを体をそってかわす。

 「はあ、やりにくい……」

 ヤモリ達は逃げてもう見えない。どう自分は逃げるか。

 「どこみてんだよ?」

 ……面倒だな。

 栄次は心の中でつぶやいた。

 「……すまぬ。やるぞ」

 栄次の神力が急に跳ね上がり、飛龍は驚いて栄次から離れた。

 「へぇ……」

 「女とはやりたくないが……仕方あるまい」

 栄次は一瞬でその場から消えた。後ろから雷の電気が音を立てて消えた。

 「はやい! 雷のようだ! 雷神か?」

 飛龍は楽しそうに真後ろに来た栄次に笑いかけた。

 「これくらいしないとお前より速くなれぬ」

 栄次が刀を振りかぶると電気と風が舞い、飛龍は慌てて避けた。

 速くて大きな攻撃だとわかったからだ。

 案の定、飛龍の遠く離れた壁が大規模に破壊され、水鉄砲をしていた面々は何かの余興かとさらに楽しみ始めた。竜宮はイカれている。

 栄次は飛龍が離れた隙に先程の力を使い超高速で走り出した。

 飛龍が追いかけようとした刹那、オーナーが飛龍の前に立ちはだかった。飛龍は苦笑いをして攻撃をやめた。

 「助かった……」

 栄次が肩を上下させておはぎ達の待つ竜宮エントランスに戻ってきた。

 「栄次、無事だった? 本当にそろそろ、私がオーナーから呼び出しくらいそうだよ……」

 ヤモリが半泣きで深呼吸をした。

 「まあまあ、楽しかったのじゃがな、ヤモリはそろそろ見つかるとまずいのぉ……」

 ヒメちゃんが答え、おはぎは頷いた。

 「そうそう! もう危険! 危ない! 私も意味をなしてないし、いらないって!」

 「いや、君はいるね。私は次は神力電話で指示して竜宮にはいかないかもしれないけど、おはぎちゃんは使いのカメとして旅行客を導かないといけないから」

 ヤモリの言葉におはぎは半泣きで頭を抱えた。

 一同は何事もなかったかのように竜宮を後にした。ビーチは何事もなく賑わい、熱気もすごく、リュウが手伝うアイス屋さんは大人気。とても忙しそうだった。

 呼んだ鶴の引く駕籠に乗り込み、栄次からの報告を聞いた。

 「パァパが雷の文字を持っているのは賀茂別雷からか……、なるほどのぅ。今のシャウじゃな」

 駕籠に乗りながらヒメちゃんがつぶやく。

 「しゃ、しゃう?」

 おはぎは全く知らないので聞き返した。シャウとは……。

 「現在の破天荒な別雷(わからい)じゃ。シャウシャウ言いながら蓄電するため、そうあだ名がつけられておる」

 「またヤバそうな神……」

 おはぎはあまり深く聞かなかったが、できれば遭遇したくはないと思った。

 帰る頃には夕暮れで、まだ暑かったがデストロイヤーと涼みに行く時間はなさそうだ。

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― 新着の感想 ―
信仰がなくなったって… でもカミサマにとって、信仰は一番大切なものですからね。 しかし何があったと言うのでしょう…。
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