夏のお祭りイベント2
「で……」
おはぎはげっそりした顔で竜宮のビーチに立っていた。暑い。
結局、特になんの話もないまま、時神のおうちにて、冷たいお茶にせんべいを食べていた栄次を無理やり連れ出し、ヒメちゃんも追加で付いてきて、今ここにいる。
ビーチは神で溢れていた。
さすが夏。海水浴。
「ちょっと海で遊びたいのぅ」
ヒメちゃんがつぶやき、ヤモリはあきれた。
「全部あんたの要件なんだけど」
「わ、わかっておるわい! ちょっとだけ、足つけてくるのじゃ!」
「あのクソガキ……」
去っていったヒメちゃんに悪態をついたヤモリは近くで屋台運営に駆り出されていたリュウを見つけ、歩きだした。
「リュウ、どーも」
「うわっ! なんだ、地味子か。お前、なんか今年やたらと帰ってくるじゃねぇか」
リュウは驚いて飛び退きながらアイスの補充をしている。
「地味子じゃなあい! ヤモリ!」
「な、なんか気が立ってるな……」
リュウはヤモリの隣にいた栄次に目を向けた。
「ああ、色々あってな……。俺も駆り出されて夏祭りにきたのだ」
「なんかお前もげっそりしてんなー」
「突然だった故」
「飛龍が宴会の余興を探していたぞ? 祭りは派手な水鉄砲祭りだとかなんとか」
「……帰っても良いか?」
栄次は顔を青くしてヤモリに目を向けた。
「ダメだよ。今回はこれを利用するんだから」
「……なんだと」
「リュウ、竜宮に連れていける?」
ヤモリは大量のアイスの在庫を抱えているリュウをわずかに心配した。
「行けるか! 見てわかんだろ? 俺様はここでアイスを売るんだよ! スイカシャーベットとかな!」
「スイカシャーベットだけ食べて帰りたい」
小さくつぶやいたのはおはぎである。
「じゃあ、カメに頼むか。竜宮に連れていってくれるでしょ」
「また全員で行くのか? 何をたくらんでんだよ? 高天原に入れない神格のカメ神まで連れて」
「まあ、いいの!」
ヤモリがてきとうに答えた時、隣で作業手伝いをしていたカメの少女がこちらにきた。ヒト型で舞子さんのような格好だ。
「ああ、ヤモリ様、どうも。わちきは今も忙しいさね。でも、仕方ないからいくさね」
「相変わらず……口の悪いカメちゃん……」
このカメは竜宮の使いのカメで沢山いるカメのうちの一匹だ。
竜宮の使いはすべてウミガメである。特徴は大きな甲羅の盾をいつも装備している。軽いらしい。
「で……あれ? 君はどちら様さね?」
カメは案の定、おはぎに目を向けてきた。
「あー、えーと」
「か、カメのコスプレしてるだけ!」
おはぎが言いかけたところで、ヤモリがすばやく答えた。
「あー……そう? ま、いいさね、いくさね」
カメはため息をつくと歩きだした。
「やった」
「おい、ヤモリ……やべぇことは持ってくんなよ?」
「リュウ、もう私、ヤバいことに荷担してんの。残念だけど。アイス、今日は売れそうだね」
ヤモリはそう言うとリュウに背を向けてカメを追った。
「俺もな……」
「わ、私もね……」
栄次とおはぎも眉を寄せたままヤモリについていった。
「あーあ、ビーチにお祭りなのに、なんだあの顔は」
リュウが汗を拭いながらあきれた声をあげた。




