いざ、竜宮へ!1
寒い寒い一月、雪は降っていない。リュックのような亀の甲羅を背負った、着物姿の謎の少女は友達に会いに行くため、スキップしながら道を歩いていた。
「デストロイヤーは冬眠してるかなー?」
少女はしっかり整備された歩道の坂道を楽しそうにのぼっていく。なにやらすごい名前の友がいるようだ。
のぼった先に古民家があった。
隣は普通の一軒家だが、異色な古いおうちだ。庭も広い。
庭の先に稲荷神社の社がなぜかあった。
「こんばんちは~!」
夕方に近かったので変な挨拶をしながら、古民家の中へ入っていく。古民家の玄関に大きな水槽があり、そこにうんきゅう(イシガメとクサガメのハーフ)が楽しそうに泳いでいた。
今は冬なので外にいたら冬眠しそうだと家主が家の中で飼ってるらしい。
「ですとろいや~、げ~んき?」
少女は顔を出したカメをつつき、笑う。
カメはじっと少女を見ていた。
「あ~、まだ冬だからご飯食べないよね! 差し入れ持ってきたから春になったらどうぞ!」
少女は小エビが入った袋をカメに見せ、水槽横に置いた。
「ん?」
ふと、赤髪の青年がこちらに気付き、廊下を歩いてきた。
「ああ、おはぎちゃんか。ニホンイシガメの……飼い主がおはぎみたいだと言ったんだろ?」
「あー、紅雷王、デストロイヤーに会いに来たよ」
赤い髪の青年、紅雷王は千年生きている元皇族である。
彼は未来を守る時神未来神でもあった。
そしてこのカメ、デストロイヤーの飼い主である。
「デストロイヤー、喜ぶぜ。そういやあ、あんた、竜宮の使いではないのか?」
「龍神がいる高天原の娯楽施設竜宮? いやいや、私はカメの神様だから、龍神の使いじゃないよ。長寿を願う神社のマスコット神……というか……」
カメの神、おはぎは紅雷王にはにかんだ。
高天原南にある娯楽施設、竜宮には行ってみたくはある。
しかし、おはぎはまだ、高天原に入れる神格がない。
「まあ、君みたいな時神トップになるような神じゃないよ。小エビが好きなただのニホンイシガメでもあるし」
おはぎは頭をかいた。
「ああ、あんた、ちょっと相談、いいか?」
紅雷王は部屋の中をうかがいながらおはぎに尋ねてきた。
「え? ものによるー」
「中に龍神と歴史神がいるんだよ……。竜宮で調べたいことがあるらしく……」
「え? あたし、関係ある? 竜宮の使いのカメじゃないんだってば」
おはぎは嫌な顔をしたが、紅雷王は顔を近づけてきた。
「あのな、潜入調査をしたいらしい」
「潜入調査!? ムリムリ、帰るわ」
「まあ、あんたは竜宮の使いだと言えば簡単に従業員スペースにまで入れると思う。とりあえず、来てくれ」
おはぎは紅雷王に連れられて、仕方なく部屋に入った。
「なんで私が? 君ね、私は竜宮にあまり帰らない龍神なの」
部屋に入って早々、おはぎと同じように否定している少女がいた。麦わら帽子にピンクのシャツ、オレンジのスカートを履いた少女だ。この少女が龍神らしい。
その少女の前に、奈良時代あたりの着物を着ている幼女が頭を下げている。
「お願いじゃ! ワシのパァパが歴史を見たがらないわけを竜宮で解明したいのじゃ! ワシのパァパは龍神、龍神なのに竜宮に帰らぬ。竜宮の過去を映す建物ということが気に入らぬらしいのじゃ! ヤモリ、調べてほしいのじゃ!」
古風な話し方な幼女は麦わら帽子の少女をヤモリと呼んだ。
「ヒメちゃん、君のお父さんは高天原南の竜宮所属じゃなくて、東のワイズ軍だよ。オモイカネの軍。んー、でも確かに不思議だね。なんで娘のヒメちゃんに龍神の血が流れてなくて、歴史神なんだろう。しかもヒメちゃんは高天原西の剣王軍だし」
「じゃろ? ヒメちゃんも不思議なんじゃよー。この際、解明しようかなと。歴史神だしの。パァパはおそらく、竜宮にも顔をだしておる。竜宮のオーナー、アマツヒコネがパァパを拒んでおらんから、竜宮は怪しい」
古風な話し方をする幼女はヒメちゃんと言うらしい。ヒメちゃんは腰に手を当てると胸を張った。
「竜宮が怪しいのじゃ!」
「まあ、たしかに……知らないけど」
ヤモリが部屋に入ってきたおはぎに目を向ける。
「えー、もしかして、君、竜宮の使い? どうも」
「あ、違いますー。カメではありますが」
「違うの? まあ、いいや。どうもー」
「あ、どうも……」
ゆるい挨拶をかわし、おはぎはてきとうにあいてる場所に座布団を敷いて座った。
「で、あの……紅雷王から……」
おはぎが恐る恐る言うと、ヒメちゃんが嬉しそうに手を握ってきた。
「わあい! 協力者じゃあ!」
「え、いや、えっと……はい」
ヒメちゃんに流され、よくわからないまま、おはぎは返事をしてしまった。
「ではの、ヤモリと共に竜宮の使いカメとして竜宮の潜入を……」
「え? あの……私はデストロイヤーに会いに来ただけ……。そもそもなんで時神の屋敷に歴史神と竜神が集まったの?」
「ああ、ここには時神過去神がいるんだってさ。過去を写し出す建物でもある竜宮でてっとり早く過去が見れるんじゃないかなって、そこの歴史神が」
ヤモリが横目でヒメちゃんを見る。
「そうなんじゃ! たぶん、過去神栄次も一緒に調査してくれるはず! 優しいからのぅ~」
「は、はあ……」
ヒメちゃんは楽しそうに言い、おはぎはひきつった笑みを浮かべる。
「で、ここで何してるのかっていうと、栄次がおうちに帰って来るのを待ってるんだってさ」
ヤモリがあきれた顔でおはぎを見た。
「えいじ……」
「オーイ、栄次、帰ってきたぞ」
部屋の外から紅雷王の声がし、すぐにサムライ姿の鋭い目の青年が部屋に入ってきた。
顔は戸惑っている。
おそらく、おはぎと同じように突然部屋に連れて来られたのだろう。
「ああ、栄次! 実は~」
ヒメちゃんが何やら先程と同じような説明をし、栄次と呼ばれた青年はおはぎ同様戸惑いの表情を浮かべていた。
「だよね~……」
おはぎは小さくつぶやいておいた。
だが、なんだかんだで話は竜宮へ行くという話にまとまっていった。
「じゃ、おはぎちゃん、栄次とヤモリ連れて竜宮に潜入してくるのじゃ!」
ヒメちゃんに言われ、おはぎは目を見開いた。
「ちょ……行くって言ってない! ヒメちゃんは行かないの?」
「ワシはパァパに見つかりとうないし、ワシが竜宮うろついていたらおかしいじゃろ? 用もないのに、ひとりで遊園地……怪しいじゃろ!」
「竜宮って遊園地なんだ……。私、そこからなんだけど……。じゃあ、過去神の栄次も関係ないんじゃ……」
おはぎが頭をかきつつ、サムライの青年に目を向ける。
「栄次は強い! 故、怪しまれぬ!」
「なに? どういうことなの?」
おはぎが焦りつつ尋ねるが、ヒメちゃんは笑いながら答えた。
「まあまあ、大丈夫じゃ」
「大丈夫な要素は一個もないんだけど」
「さあ、向かうのじゃ! パァパはの……おそらく、消えた三貴神のうちのスサノオに関係しておる」
ヒメちゃんは真面目な顔でヤモリ達に伝えた。眉を寄せたのは栄次と紅雷王だけだった。
おはぎやヤモリには引っ掛かることすらわからなかった。
「はい、竜宮のチケット。高天原南へは神の使いツルで向かうとよいぞい! チケットは一応、渡しておくぞい。ヤモリとおはぎちゃんは従業員でいけるはずじゃが、一応な」
ヒメちゃんは竜がデザインされた高天原南、竜宮のチケットをヤモリに渡し、ツルを呼んだ。