表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

1新たなる友  2幕間

 「よー、博人。きたか。なんか、少し気分が悪そうだな。」


「ああ、今日はそんなに眠れてないんだよ、雄二。」


自分のクラスには、一足早く到着しているわが親友がいた。彼は洞察力がとんでもない。ちなみに奏は同じクラスだが、またどこかへ行ってしまった。あいつは自由人だから仕方ない。すぐ戻ってくるとは言っていたけど・・・。



「小学校の頃の修学旅行では寝つきが一番早かった奴が眠れないって?何かあったかー?」



口調からして、いうほどあんまり心配してなさそうだ。小学校からの付き合いで僕のことを熟知しているからだろうか。それとも単にどうでもいいからかよく分らん。


「なんもないよ。だけど気分がなぜかすぐれないんだよな。なんか地に足をつけてないっていうか・・・。」


「貧血じゃねえの?」



「まさか・・・。ちゃんとご飯食べてる。」



「飯食わないだけで貧血になるわけないじゃんか~。どうせパンしか食ってないんだろ。お前あんまり料理得意じゃないことわかってるからなー。しかも身内も死んで立ち直れてないんだろー。」



「うっ・・・。ご名答だよ・・・・。」



「特に調理実習の時なんてたいへ・・・・。」


「それ以上言わないで・・・。」



普通に痛いところを突かれてしまった。やはり、旧知の友ほど怖いものはないな・・・。だが彼はすぐにとんでもないことを言う。



「よし!今日は俺がお前に料理をふるまってやるぞ!泊まる、お前んちに泊まるぞ!」



「は?」



どういう思考回路?と聞きたくなった。しかし会話に俺の言葉をねじ込む隙は生まれなかった。



「いいから黙って俺を受け入れろー。」



「あ、ああ。」



少し意味が理解できなかった。押されて勝手に決められてしまったが、彼の好意はむげにできないから



「ありがたくいただこう。」


と俺はそうとだけ答えた。




               授業後



彼は、本当に家へやってきた。スーパーで買ってきたとみられる食材と荷物を携えて、相当な重荷を抱えている。しかし彼は玄関に荷物を置いた後、すぐにキッチンへ向かう。



「うわー。キッチンきたねー。冷蔵庫にはパンだけかよ。」



「・・・・。」



勝手に人の家のキッチンを物色しないでくれ・・・。

しかしそんなのはお構いなしだった。


「いいや、さっとアルコールで拭いて。持ってきた食材で料理開始だー。」



「お、おー」



適当に合いの手を入れる。

すると家の戸がガチャリと開いた。しまった、家の鍵を閉め忘れたと思ったときには遅かった。



「ただいまー。」



奏が帰ってきた・・・「俺の家」に



「おいコラ。ここはお前の家じゃないぞ。」



「ここは私の委任統治領で~す。」


なんかよくわからない語で反論してきやがった。しかも堂々と。



「いにん・・・なんて?」


俺は言葉の意味が分からない。しかし奏はそんなのお構いなしだった。



「ところでキッチンにいる男の子誰?」



「雄二だよ、覚えてない?小学校頃一緒だったろ。こいつ俺に料理をふるまってくれるらしいぞ。」


「ふ~ん。」


面白くないような顔をしている。そして露骨にいやそうな顔をしている。そしてキッチンにいるあいつに話しかける。


「雄二君、といったかしら。私と料理対決しましょうよ。」


普通だったら戸惑うところのはずなのだが



「よーし、乗ったー。」



何とすぐに快諾した。なんかシンパシーがあるのだろうか。

会話の流れをあっさりとつかんでいる気がする。俺と違って。戸惑いの中でもずんずん話は進んでいく。俺は首振り人形のように左右に首を振るだけだった。



「一品物で勝負よ。審判はもちろん博人、いいね?」



「異議ナーシ」



そうして二人とも手際よく料理を作っていく。なんと達人の域だ。移動速度が見えないし、フライパンのさばきも的確だった。俺なら、包丁で指切っておしまいなのに・・・。何でもありかよと思う。ただ一つ抱いたのは



「俺はこんなことできないな。」



という羨望の気持ちだけだ。





すぐに料理は俺の目の前にボンと出される。しかしその量は三人で食べるには


「明らかに・・・うん・・・作りすぎてる。」


俺は絶句する。逆にいくらかかってるんだといいたくなる。

奏は焼きそば、雄二はカレーライスだ。どちらも腹にたまるものだけに厳しくなるだろう。うどんならまだいいのだが。


俺はその量にドン引きしている。もう一分経つが箸をつけられない。すると、


「よっしゃー。こいつ食べないから口にねじ込むぞ!」


「ちょっと!私もまけないから!」


二人して俺の口に突っ込むので味がよくわからず、ごぼごぼごぼとおぼれたようになってしまった。






結局、勝負は引き分けにした。その後、案の定三人では食いきれる気がせず、苦しみながらも二回に分け、時間をかけながら完食した。



三人は腹を膨らませて床に倒れこんだ。


「もう・・・。」



「無理ね・・・。」



「おれのかちだー・・・・・・・。がくっ。」



「雄二ー!」



「これって私の勝ちでいいわよね?」



「そういう事態じゃないから・・・。」



俺たちは地獄を味わった。だけどこういう日常が逆にいいんだと思った。他人がつまらなく感じようとも、何気ないこの日常こそが俺のあるべき場所だ。俺は今、いないはずの兄弟の姿をこいつらに重ねている。



「またこれからもこうやって・・・。」



その言葉を口にするとまた急に眠気が襲ってくるのを感じた。最後は三人でリビングに寝転がって眠りについた。





          幕間


博人を除いた二人は博人がいびきをかき始めるのを確認すると同時に起き上がる。



「いったん念のため移動するか。一度話をしようじゃないか。」



「うん。」



彼らは一度この世界から消えた。そして、移動したのは雄二の脳内だった。



「なぜ俺をこの世界に引きずり込んだ?いや久しぶりだから挨拶ぐらいしておこう。」



一呼吸間を作る。



「久しぶりだな、奏。」



「そうだね・・。一か月ぶりくらいかな。最後にあったの。来てくれてありがとう。」



「そうなるな。博人について見舞いに行ったのが最後になるな。それより聞いたぞ。お前・・・死んだんだな。さみしくなるよ。」



だが全然悲しそうには見えない。しかし表情はやや曇っている。ちなみに彼は途中で来たわけではない。この世界に順応するため、二日分、散歩して探検したり生活していた。



「でも私は目の前にいるじゃん。それでいいでしょ。毎日見舞いに来なかったくせにほんとに悲しく思ってる?」



「俺は部活があるからな。だけどあいつは部活に入らず枚に見舞ってたんだぞ。やりたいことがあったのに。あいつ、優しいよ。」



「部活・・・・羨ましい・・・。」



「なんかごめんな・・・。罪悪感あるわ」



「でも、この世界ではまだトリオでやれてるからいいじゃん。出すのが遅くなったのはごめんけど。あと部活の話聞かせて頂戴ね。それにしても前にあった時より大きくなってない?」



「確かにな・・・。少し大きくなったぞ。おまえよりずっとな。」



雄二は少し意地悪な言い方をした。一方、奏はこめかみに青筋を立たせている。雄二は少し焦って話題をそらした。



「そういえばお前の演技完ぺきだったぞ!いやーほんとこの世界に呼んでくれてありがとな!結構癖になるな、この世界。」



奏はころっと機嫌を直した。



「雄二だって!初対面のふり、最高だったよ。いやーこの世界やっぱやめられないよね~。」




「わかるな。なんか庇護欲にかられるような・・・・。やっぱ、博人が素直すぎるよな!」





二人はこの世界についての感慨を語る。そこには、三人の友情が感じられる。しかしお互いの思いを言い合った後、いよいよ本題に入らなければならなくなった。



「で、俺が言いたいのは、結論を言ってしまえば、お前はこれからどうしたいんだ?それでいつまで続けるんだ?ずっとこのままというわけにはいかないだろ、ということについてだな。」



「・・・。そうだよね~。いわれると思ったよ。」



諦めたような笑顔がここでもでる。覚悟していたのだろう、わらっていてもうつむいている。雄二はつづけた。



「しかも今あいつは両親を失ったという偽の歴史があり、それがあいつメンタルを削っている。もしかしたらあいつの心が持たないかもしれぞ。その苦しさは俺が一番理解してる。」



「確か、雄二のお父さん・・・亡くなってるんだっけ。」




雄二はこくりとうなずく。表情一つ変えない。仏頂面だった。だが大抵こういう何事もなかったような顔をしている人間が一番つらく感じているのだ。



「博人にあんなことを言っておきながらな。いまだにダメージを引きずってるよ。だからこそあえておちゃらけて平静を保っているんだよ。おまえにたようなものだろ。」



「よく見てるね。やっぱり私たち似た者同士だね・・・。」



たしかに、と同意する雄二。笑っている。しかし彼のこんな表情は実は奏も久しぶりに見る。奏と同じ表情…せめて笑っていようとして作った空笑顔だった。



「博人、優しいよな・・・。」



「うん。よく知ってる。」



一度言ったのにもかかわらず、もう一度言う。

そのあとはしばし沈黙が流れる。しかし時間を無駄にしまいと、仕方なく雄二は再び口を開く。



「タイムリミットは近づいてる。あいつにお前が死んだという事実を完全に受け入れさせれば、おまえにとってこの夢のような時間は終わる。



幸い、今日は土曜日だから親が起こしに来るには時間がある。だがもって今から10時間だ。これは変えられない。お前がいくらこの世に残っていたとしてもこの時間が変わることはない。おまえも幽霊とはいえまだまだ無力だ。」



「わかってる。それまでには何とかするから。大丈夫、なはずだけど・・・。」



そうはいっても彼女の声には今までの自信はなかった。

雄二はさらにくぎを刺す。



「お前、これ以上体内時計を無理に進めようとしているわけじゃないだろうな。それか博人家族全員にもこの「魔法」をかけて時間を稼ぐ気じゃないよな?」




体内時計への干渉…これが雄二が一見無駄に思える別行動をとっていた理由だった。「体内酔い」とでも名付けようか。自身の体内時計と他方の体内時計の時差に苦しみ、体調に異変をもたらす現象だ。現実で起きうることのない特異な現象だ。



「・・・。」



図星だったようだ。



「いつの季節、何年までやるつもりなんだ?大人になるまでか?



そこまでは知らないけどな、お前相当無理してるだろ。お前いずれ、擦り切れて粉々になるぞ!そんなことにはなってほしくない!博人も望んでないはずだ。」



「さすが雄二だ。洞察力、鍛えられてるね。でもね、私はもう止まれないんだよ。死んだ以上これ以上死ぬこともない。だけどね、未練を残して死ぬことほど、苦しくてつらいものはないんだよ。」



もう彼女の眼には迷いは消えていた。明確な決意が、そこにはあった。未練を残して死ぬことほど、苦しくてつらいものはない・・・。死んだ彼女だからこそわかることだった。もう雄二もあきらめたようだ。彼女の決意に何の変わりのないことを知ってしまったから。



「・・・。


俺は、忠告したからな?だけど、楽しかったから、できる限り協力するよ。おまえは独りじゃない。これからは二人の共同戦線だ。」



「助かる、ありがとう。」



そして二人は元の世界へ戻っていった。



第七話 おしまい














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ