幕間
博人宅
「うんうん。ぐっっすり寝てるね・・・。」
彼の体内ではおよそ2日が経過しているが、実際は一時間程度だ。博人の脳内に私も併せていたから、体内時計が狂うので少しめまいがする。死んでもこの感覚から逃れられないのは結構イライラする。
だけど、私は満足感を覚える。彼とのかりそめの生活は楽しい。特に大したことはしていなくても落ち着く。これはお互いにしかわからない。
「終わりにしたくないな~。」
どうしても彼に依存してしまう私がいる。そんな私を受け入れてくれる博人には感謝しかない。
私はまだ彼の頭の中はまだ覗いてない。記憶を少しいじっただけで、その深層にある立体的な感情には手を出してない。彼がどのように私のことを思っているか知るのが怖い。理由はそれだけ。嫌われてないかとかそんなところ。
そんなことをぽろぽろと漏らしながらもこの生活がいつまで続くのか考え始めなきゃならなくなる。
あとはタイムリミットが訪れないことを願うだけだ。私自身でさえ、いつがタイムリミットなのかも知らない。いつの間にか体が崩れて、彼の目の前でお別れすることになる。昇天していることもあるから気を付けないと。
最悪、タイムリミットは今日の日の出までだと勝手に思っている。
私が変じゃないか鏡を見てみるが私が映るわけでもない。ただ手を見ても私に今のところ変化があるわけでもなさそうだ。
しかし焦燥感は、はっきり言えばある。今のところ、話し方を緩くすることによって心の余裕を作っているが虚勢に過ぎない。
ふと窓を透過して外を見る。暗いとはいっても時刻はまだ八時になっていない。ちらほらと帰りがけの学生がみえる。
特に目についたのは、学生カップルだった。仲よさそうにじゃれあっている。そのまた向こうでは、大人数の学生が大声で笑いながら歩いていく。
「あれが博人のいう青春なんのかな?でも私にはわからないや・・・。」
しばらく感傷に浸る。しかしそんなもの何の意味もない。事実は変えられない。
「・・・羨ましいな・・・・。」
私が運に恵まれなかったのが悔しい。
博人はいったいどんな人生、学校生活を送るのだろう?私を忘れて、人並みの青春を経験して大人になるのかな?私の世界は真っ暗だった。ずっと。その唯一の光でさえ、どこかに行ってしまうのかな・・・?
私は月夜を見て、いまだ感傷から抜け出せなかった。
その星空のない空は次第に見えにくくなった。
あの頃の空とは似ても似つかない・・・。
第五話 おしまい