日曜
博人が目覚めると、奏は河川敷でまだくつろいでいた。すでに彼より先に起きてはいるようだ。
闇夜の中で月もないのに不思議と夜目は効いている。目が慣れてきているのだろうかと博人は考えた。
「よく寝た?」
「うん、すこぶるよく寝たよ。そっちは?」
「いや~。やっぱ寝つきが悪いいっすね~。」
「嘘つけ!」
「それよりここに長居するのもいけないから帰ろうよ~。」
「誰が言い出したことだよ・・・。」
言い忘れたが意外と奏はマイペースでどこか抜けている。他人のペースは一切顧みない。ついていけるのは博人ぐらいだ。お互いの欠点を理解できるからお互い仲がいい。
そのあと奏と博人は家へ戻った。また彼女に手を引かれながら。しかし彼は慣れっこだった。なんやかんや行っても彼女との時間は心地よいのだと彼は感じている。
「じゃあね。」
奏は手を振って家へ入っていった。
数時間ぶりに一人の時間ができた。家の中は静かだった。
俺の家の中には特に何もない。クローゼットの上には父さんの形見の一つである日本刀が一振りあった。母さんの形見のブローチは俺の胸の前で輝いている。自炊もしないからキッチンはこぎれいなままだ。
そんなリビングには目を向けずの俺の部屋へ行く。
階段を上がって右手には、俺の部屋の向かい側に、父さんと母さんの部屋がある。
そのドアがなにか不思議と目立って見えた。訳は知らないけど、そう見えたのだ。しばらくこの部屋を避けていた気がした。ああそうだ。まだ遺品整理が終わってないから物置状態だったんだ。
ためらいながら、その扉を開けるとやはり、想像通りの光景が目に入ってくる。少しほこりをかぶったこと以外変わらない光景だった。一瞬思考が止まる。いざ、始めようとしても不思議と後でもいいような気がしてくる。すぐそこの写真盾を手に取る。
「俺が母さんみたいにしっかり者だったらよかったんだけどな。」
感傷に浸る。やはり悲しい。五日の投げやりな気持ちがフラッシュバックしてくる。
「ねぇ?悲しい?」
白いワンピース姿の奏が後ろに立っていた。俺は驚いた。一切音がなかったから・・・。けれどもそんなことはどうでもよかった。俺らはいつの間にか抱き合っていた。俺は自然と涙を流していた。理由など説明するまでもない。
「会いたいの?」
「ああ・・・。」
「私が代わりじゃ、だめ?」
俺は答えられなかった。
「そっか・・・。」
諦めたように奏は笑う。其の笑顔から一瞬何かを思い出せそうな気がした。
(「私が代わりじゃ、だめ?」)
その言葉はなぜか俺の心をもどかしくさせる。決して冗談じゃない。それが奏の心からの言葉のような深みがあったのだ。
「なんで奏は笑って・・・いられるんだ?つらいはずだろ、悲しいはずだろ?俺と同じように。」
そう聞いてもこたえてくれなかった。ただその笑顔が素敵だったから、前のような不安はなかった。ただひたすら俺の背中をさすり続けている。今日はまだ何もしていない。ただ寝て起きて、家に戻って・・・。せっかくの日曜日だというのに。
だけど今日みたいにお互いの本心をさらけ出すのもいいのかもしれない。俺はいつの間にか泣き止んでいた。
「落ち着いた?」
「うん。大丈夫だ。」
「よかったね。」
「ねぇ、忘れないで。私たちは
「家族」
だから。」
つらい時はいつでも言ってね。力になるから。絶対に助けるから」
その願いに込められた心を彼はまだ知らない。