放課後
「ねぇ。博人。」
「なんだよ?」
学校から帰る道にはそれなりに大きな川と河川敷があった。隣町に続いているらしいけど、うまく見えない。彼らはそこで寄り道をしている最中だった。
河川敷の差し掛かって奏は言った。
「今日はここで寝ましょうよ。星空を眺めながら。」
急に博人の目の前に立って奏は言う。
「何言ってんだよ。雨が降ったら大変だし、警察の補導にもあうだろ。まだ、飯も食ってないし・・・。」
「大丈夫だよ。絶対に誰も来ないし、気にもしないから。
今のうちに堪能しとかないと!この星空を。ほら見て!天の川がこんなにはっきり。」
どさっと芝に寝転んだ彼女は空を指さす。さっきまではなかった天の川がそこにはあった。その隣では博人がゆっくりと腰を下ろした。見た目に反して意外にも芝はふわふわだった。
「確かに壮観だな・・・。」
「でしょ! ねぇ・・・そういえばさ・・・、昔見たキャンプ場の天の川覚えてる?」
「死んだ父さんと母さんと初めて見た絶景だ。いい思い出だよ。楽しかったし、奏とたくさん遊んだよな。忘れるはずがないだろ。」
それを聞いて彼女は嬉しそうだった。懐かしそうな表情を浮かべて星空を眺め続けている。
「うん。でもこれからはいつでも見れるよ・・・。」
「ん?」
「何でもない。」
さっきから、彼女はすでに全てを分かり切った表情を浮かべている。その自信満々の表情とは裏腹に、ずっと彼の顔は何か言いたげだった。
しかしその表情もすぐに落ち着く。
しばらく沈黙が続いた。お互いただ星空を眺めているだけで時が過ぎていった。
その時空には一筋の光が見えた。
「ねぇ?今何か光らなかった?」
奏は遠い空の先を指さす。すると段々と流れている星の数が大きくなる。
流星群だった。
天頂からカーテンのように降り注ぐ無数の流星は圧巻だった。
「すごい・・・。」
「何かお願い事ある?」
そう聞いてくる奏の眼は希望に満ちた目をしていた。
「まだ特にないかな~。」
「私はあるよ。まあ教えないけど。」
そう無邪気にそう言った。そのノリは妙に懐かしいように思えた。
彼女は伸びて一つあくびをした。
「あ~。早起き疲れた。」
「本来は俺が言うべきなんだけど?休日だったのにつれてこられて・・・。」
彼は真顔で言う。
「だからごめんって・・・。そんなに根に持ってたの?」
「だって昨日俺やけに疲れててさ。なんでなのか覚えてないんだけど・・・。疲労が全快してないんだよ。」
「そっか。フフフ。私はいつも寝つきが悪いから早く寝てるんだよ。」
少しほっとしたような表情を彼女は浮かべている。そのあと少し彼女はあくびをした。そして目を閉じた。
「何笑ってるんだよ。ちょっと今日お前変だぞ?」
「ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ」
「・・・。」
(寝るのめちゃくちゃ早いじゃねーか。)
そんな心の声は奏には届いていない。博人も仕方なく全身の力を抜いて寝ようとした。一つ息を吐いた。すると急に眠気が襲ってくるのを感じた。今日の疲れがどっと来たのだろう。
「お休み。」
彼はすぐさま隣をみた。しかし彼女の表情は全く変わっていなかった。しかし、彼女の声がたしかに聞こえた。だけどその声に腹は立たなかった。
「おやすみ。」
彼は一言だけ口にした。そのあとはすぐに寝ることができた。
そのあと奏が、彼に「ごめんね・・・。」と一言言ったことには、彼自身気づいていない。
第三幻 おしまい