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幻の中で

  いつの間にか、彼は寝ていた。昨日の疲れは取れたもののなぜか起きる気が起きない。寝室は暗い。外の明かりはどうなっているのかと思うほどだ。


 

「ちょっと起きてよ!博人。今日は学校でしょ。」



「まだ眠い…。」



起こしに来たのはでもない奏だった。彼女は無理やり布団をはぎ取る。



「遅刻するよ!」



「目覚めが悪いな…。」



「仕方ないでしょ。朝食は作っておいたから、急いで着替えてね。」



あわただしい日常が始まった。彼らの親は二人ともいない。最近他界したのだ。幸いにも家は彼らの両親の遺産と親族が払ってくれたおかげで無事だった。今彼らは身を寄せ合って暮らしている。



秒速で着替え終わって、目の前にはトースト一枚が映る。

彼はパン派である。そして、それもすぐに食べ終わる。

彼女は退屈そうにテレビを見ていた。

突如、博人は違和感を覚えた。


(あれ?何を俺はもやもやしていたんだ?思い出せない…。)


「どうしたの?」


彼女は不思議そうに聞いた。彼は少し何もせずぼ~っとしたような感じだった。



「ううん。何でもない。ひとまず食べ終わったよ。」



「じゃ、行こっか!」



扉を開けて

外へ出るとそこには満天の星空と天の川が広がっている。

今日は新月だから、外は少し暗い。だがそのぶん星が際立って綺麗に見えるのだ。



彼女はスキップしている。あのかわいらしい笑顔を浮かべながらだ。明らかに朝とは打って変わって上機嫌だった。



「何かうれしいことでもあったか?」



「私、こんなに自由に動けたの久しぶりだから・・・。」



「は?」



「ううん。何でもない。」



何もないようにごまかす彼女だが、



(今のは気のせいだろうか?)



彼は少しだけ胸騒ぎがした。



「ほら!それより遅刻しちゃうよ~。」



彼女は彼の手を引いた。思いっきり引っ張りすぎて彼がやや引きずられるような格好になった。そのまま学校にまで引きずられたが、結局教室には誰もいなかった。




    幕間      しばらくしたのちの屋上より。



「ふ~。危ない危ない。」


さっきは少し焦った。博人の記憶は今一部書き換えてある。だけど私の記憶は其のままだ。記憶の齟齬には気を付けないとね。


昨日私は確かに亡くなった。だけど、まだ天国に行く頃合いじゃなさそうだ。逆に肉体という呪縛から解き放たれて、私は自由になった。


  

 私には未練がある。楽しい学校生活を友達と過ごせなかったこと。それに尽きる。だけど、みんな私のことはもう忘れちゃってると思う。そんな中でも家族以外で博人だけは優しかったし、毎日見舞いにも来てくれた。



だから彼の脳を借りてこの幻、自分に都合の良い世界を作った。博人と私の脳内をつなぎ合わせた事によってこの幻は成立している。



「昔みたいに一緒に遊びたい。」



「楽しい学校生活を送りたい。」



その願いを実現させるためだけに作り上げた想像の世界だ。


だけどこの世界は不完全で

その範囲には限界がある。県外には出れない。この市だけの範囲だ。しかもこの市の地図でさえ欠陥がある。私には生前のネットの動画の知識と博人の話してくれた知識しかない。



その最たる例がこの空だ。実は私は空の青さを忘れてしまった。入院してから実は青空をあまり見ていない。後半は昏睡が多かった。この満天の星空は博人家族と夏にキャンプに行ったときに見たものだ。大昔だけどね。



私の幼いころの一番の思い出だ。この星空は動かないし月も出ない。一応月も出せるが、この星空の邪魔をさせたくないんだ。



だけどもこんな未完全な世界でも私は幸せだ。これが完全な自己満足だとしても。何としてでも数年間の失った時間を取り戻す。



そのためにも誰にも邪魔はさせない。だから、私のお父さんやお母さん、そして博人のお父さんとお母さんには一時的に彼の記憶から消えてもらった。たとえ神にだって逆らう覚悟だ。



「今日は何を作ろうかな~」



私が考えていると屋上の扉がいきなり開いた。


「お~い。今日授業ないじゃないか。二人だけだぞここにいたの。」


「フフフ。ごめんなさい。」


「何笑ってるんだよ!俺の大事な睡眠時間が~。」


この楽しい日常をもう一度だけ。


第二(げん)おしまい




























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