第1話 家族って怖くね?
ラオンは慌てて自室を飛び出した。
なぜかというと、数分前に母に呼び出されたからだ。
基本は呼び出されることはないのだが…
昨夜、闇の魔術に対する防衛魔術の書を読んでいたら、時刻は深夜を上回っており…
結果、このような状況になってしまった。
自室から飛び出したラオンは、廊下を走っていく。
まず一つ目の角を右に曲がって、階段を駆け降りる。
大広間に出たら、左側の右から三番目の扉を開け進む。
廊下をダッシュして、突き当たりで右に。
そこでラオンは、一旦、息を整えて食堂に入る。
[食堂は相変わらず広いなぁ… こんな大きい必要あるのかね?]
ラオンは走ってきたのがバレないように、余計なことを考えながら、自分の席に座る。
なんで、走ったのがバレちゃいかんのかって? そりゃ、母にガチギレされるからです…
落ち着いて、あたりを見渡していると、
「ラオン。ここまで走ってきたでしょ?」
鋭い推理が母の方から飛んできた。
[何でバレた!? 何処かから監視されてるんですか? 僕は。]
そんなことを考えながら、ラオンは誤魔化した。
「いやぁ… 朝、筋トレしてですねぇ… それで疲れたんですよね…」
その予想外の返答に、母は若干、納得してない素振りを見せて言った。
「まぁ、何でもいいけど。 王子の自覚は持ちなさい。」
「はい…」
正論で返されたラオンは、肯定も否定もできず、素直に頷いた。
[とりあえず何とか持ち堪えたな…]
と安堵していたラオンだったが、危機は二度起こる。
「筋トレなら俺が指導してやるぞ?」
そう、忘れていたのだ。この王のことを…
「いやいや、自分のペースでやりますから… お気になさらず…」
そう言い放つラオンは内心、[脳筋の指導?聞いただけで絶望感が湧き出すわ…]と思ったが、一応王子なので、言葉遣いに気をつけて丁寧にやんわりと断った。
しかし、“脳筋のロジャー“はそんなことがわかるはずもなく…
「そうか、自分のペースか。たまに様子を見に行くからな。ハッハッハ。」
と豪快に笑い飛ばしながら、酒を飲み干した。
[なんか、王族とは思えないわ… 僕が言える立場ではないんだけどね。]
ラオンはそう考えながら、ふと何かに気がついた。
[あれ、妹様はどちらへ…]
そういえば、妹がいない。まだ起床してないのか、何なのか。
その疑問を解消するべく、母に問いかけようとした時に、謎が解決した。
「おはようございます、お父様、お母様。お兄様も元気そうで何よりです。」
と、そこに来たのは、{銀髪碧眼天然控えめ天使}のローズ様。すなわち、ラオンの妹だった。
妹は、音を立てずに歩を進め自分の席に座る。
これで、全員が揃った。
入口側を正面として、左側の奥には女王。手前は王。
右側の奥には王女。手前は王子が座っている。
入口の反対側には、使用人がいる。
もちろん、王家なので、使用人はいる。
初老で、王の従者である“リズ“と、同じく初老で、女王の従者である“ルド”と…
あとは、ラオンと同い年くらいで、王子と王女の従者である“ミク”…
この三人が、この城の使用人である。
妹が席に着いたところで、使用人が一斉に動き出す。
沢山動いて朝食を運んでいるのに、音を全く立てず存在感を強調しない動きっぷりに、若干感動しつつ、ラオンは、おもむろに口を開いて言った。
「あのローズ…? 今朝…まぁ、さっきのことだけど。なんか変な感じしなかったか?」
ローズは首を傾げていたが、何かに気づいたように顔を変化させる。
そして、妹が何か話そうとしたときに、ベルがなった。
このベルは、使用人の準備が終わったときに合図するもので、いつも使用しているのだが…
今日は、直前まで妹と話していたのもあり、ベルの音に驚きつつ、ラオンは姿勢をただした。
テーブルの方に視線を戻すと、そこにはとても美味しそうな朝食が用意されていた。
そして朝食に見とれていたら、王の咳払いが聞こえてきた。
ラオンは慌てて顔をあげて、王の方を見る。
王が手を合わせるのと同時に、ラオン達も手を合わせ、全員、声を揃えて言った。
「いだだきます」