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第十二話「感動の再会」

<リアーナ視点>


 父の説得に成功した私は、ユーフェアを連れ戻すために供を引き連れて家を出た。

 てっきり王都にいるのかと思いきや、妹は驚くほど近くに住んでいた。

 ホワイトライト領の傍にある山。

 ユーフェアはいま、そこに住んでいるらしい。


「本当にこんな所にいるの?」


 私は山道を歩きながら、少し前を行く背の高い男に向かって言葉を投げかけた。

 彼の名前はフィン。フリーの傭兵で、数年前から用心棒として雇っている。


 公爵令嬢たる私は外出には必ず供を連れて行かなければならない決まりになっている。

 腕っ節だけの傭兵を連れて歩くなんて絶対に嫌だったので極力外に出ないようにしていたとき、彼と出会った。


 フィンは傭兵にしては身ぎれいで、顔もなかなか整っている。

 傭兵と言えば汚い・臭いという印象を覆すような存在だ。

 もちろん腕も相当なもので、繊細な氷を使った魔法は恐ろしいというよりむしろ美しいとさえ感じてしまう。

 見た目良し、腕前良し、そして情報収集などもお手の物。


 そういった理由から、私は彼を好んで傍に置いていた。

 傭兵じゃなかったら婚約者はこいつでもよかったんだけど……身分差は残酷だ。


 私が歩きやすいように伸びた草木などを払いながら、フィンは先程の質問に答える。


「はい。聖女ユーフェアは一年半前からこの山に移住しています」

「教会で何かあったのかしら」

「環境に馴染めなかったようです」

「はん。本当にあいつは逃げてばかりね」


 昔と変わらない甘ちゃんな妹に吐き気を覚えながら、私は慣れない山登りを続けた。



 ▼


「ぜぇ……はぁ……」


 山登りは壮絶を極めた。

 フィンの手を借りていなければ、とっくに断念していただろう。


「大丈夫ですか、リアーナ様」

「大丈夫……じゃないわ。けど、行かないと」

「一言命じて下されば、私だけで行きましたのに」

「そういう……訳にも、いかないわ」


 ユーフェアは臆病で人見知りだ。

 フィンだけで行けば逃げられる可能性もある。


 それに……私は、久しぶりにユーフェアと会えることを密かに楽しみにしていた。

 ユーフェアのことは大大大嫌いけど、自分ではどうしようもない状況になった時の滑稽な表情だけは好きだった。


 フィンに頼めば楽はできたけれど、この楽しみだけは渡すつもりはなかった。

 何せ、あいつはサンバスタ王国の豚に娶られてもう二度と会えなくなるんだから。

 必死で足を動かした甲斐もあり、翌日の昼にはユーフェアがいると思しき小屋が見えてきた。

 思わず嬉しくなった私が一歩、勇み足を踏んだ瞬間。


「リアーナ様。お待ちください」

「っ。なによ」


 フィンが手を伸ばして通せんぼしてきた。


「この先に結界があります」

「結界? って、『極大結界』みたいなやつ?」

「少し違いますね。侵入者を検知する類のものです」


 フィンの説明によると、結界は盾の役割をするものと侵入者を検知するものがあるという。


「このまま進めば我々が山に入ったことが知られてしまいます」

「じゃあどうするのよ」

「……幸い、全方位に展開されているという訳ではないようです」


 立ち上がったフィンは、進行方向を九十度変更する。


「ここからは迂回して結界を避けながら進みしょう。私が先導する以外の道は通らないよう、注意してください」

「うげ」


 目の前にゴールが見えてるっていうのに!

 こんなものを仕掛けたユーフェアに怒りの感情を覚えたけれど――逆に、結界にかからず家に行けば驚かせることができるとも考えた。


(いきなり現れた私が、不細工との結婚を命令する……ふふ。あいつの間抜け顔が見られると思えばこれくらいどうってことないわ!)


 すぐに怒りを引っ込め、私はにまにまと唇を歪めた。



 ▼


 ようやく辿り着いたユーフェアの家。

 遠目から見た時は遠近法の関係で小さく見えただけかと思ったけれど、本当に小さかった。

 実家の鶏小屋と同じか――というレベルだ。


「こんな粗末な家に住んでいるなんて。教会は資金不足なのかしら?」


 数年前からお父様の口癖になっている「オルグルント王国に未来はない!」という言葉もあながち間違いではないのではと思えてしまう。


「ここから先に結界はありません」

「よかった。もう回り道はごめんだわ」


 雪の感触を足の裏に感じながら、私はユーフェアの家の前まで進んだ。

 デザイン性のカケラもない扉を叩こうとして、またしてもフィンに止められる。


「なによ」

「扉に魔法が仕掛けられています。決められた符号でノックしなければならないようです」

「面倒ね!」


 扉の前で声を上げると、中で人が立ち上がる音がした。

 何もしていないのに扉が開き、一人の女が顔を出す。


「お姉様ですか!」


 前のめりに扉を開いたのは、どこかふわふわした印象のある女だった。

 ユーフェアとはまた違った意味で間抜けそうな女だ。


「……あ。すみません。人違いでした」


 ふわふわ女は私の顔を見るなり、恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 どうやら他の誰かが来たと勘違いしたみたいだ。


 こんな山の中にほいほい来るような連中がいることに、私は信じられない思いを抱いた。

 まあいいわ。


「そこ、どいてくれるかしら」

「あっ」


 私はふわふわ女を押し退け、家に押し入った。

 想像していた以上に狭苦しい部屋に、ユーフェアはいた。


「……………………え。なんで、ここに」

「久しぶりねユーフェア」


 実に二年ぶりとなる、感動の再会だ。

お知らせ


いつもありがとうございます

当作品のコミカライズ第二話①が配信されております

コミカライズは書籍版に準拠しているので、webにはないセオドーラ領の住人とのやりとり回です


お手隙の際にご高覧いただけると幸いです

では

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