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第七話「違和感」

先週更新していない分、今週は2話更新しています

まだ読んでないよ、という方は前の話から閲覧くださいませ(2/2)

「ユーフェア……?」


 室内はカーテンによって光が遮られ、晴れ渡る外と打って変わって薄暗かった。

 あちこちに吊されたランプは灯っておらず、暖炉も火が消えていた。


「ルビィ? 二人ともいないの?」


 一歩中に入り、私は手のひらを上に掲げた。


「聖女ライト」


 聖女の力により、散らかった室内が照らし出された。

 床の上にはペンと紙が散乱している。

 ユーフェアは几帳面な性格で、部屋はいつもきちんと整理がされている。


 それは私が行ったときに限った話で、ベティが行くときは割と散らかっている……と聞いている。

 これが普段のユーフェアの室内なのだろうか。だとしたらかなり親近感を覚える。


「誰もいないの? おーーーい」


 暖炉による熱を逃がさないため、ユーフェアの家はこぢんまりとした造りになっている。

 声が届かないということは考えられないけれど、念のために大きめに声を出しつつ食料の保管庫を覗き見る。


「……いないわね」


 みっちりと食料は備蓄されていたけれど、人の姿はなかった。

 ルビィはおろか、家主であるユーフェアの姿もない。


「外に足跡があったかしら」


 入る時に見忘れていたと、私は外に出て足跡の有無を確かめようとした。


 ユーフェアは引きこもりがちだけれど、決して外に出ない訳じゃない。

 雪の季節は毎日雪かきをしているし、ごく短い雪解けの季節は山菜を採りに出ることもある。

 ルビィと仲直りして、一緒に散歩にでも出ているのだろうか。


 扉を開けると、内と外との光量差で目が一瞬だけ眩んだ。


「ないわね」


 辺りは真っ新な雪に覆われていて、それらしきものはない。

 この季節、外に出たのなら必ず足跡が残るはずだ。

 数時間……いや、天候によっては一日経っても消えるものじゃない。


(……足跡?)


 自分の言葉に違和感を覚え、私は首をひねった。

 その正体を思案していると――ほどなくして解に辿り着く。


「ルビィが来ているはずなのに、どうして誰の足跡もないの?」


 ワイバーンを使って大幅な時間短縮を図ったけれども、それでもルビィの方が早いはず。

 まだ到着していない――ということだろうか。


「……っ」


 なんとなく嫌な予感がして、私はもう一度ユーフェアの家に戻った。

 聖女ライトを先程よりも強めにして、室内を照らす。


 シャベルと外套が立てかけられた壁、こぢんまりとしたキッチン、ユーフェアの身長に合わせて作られたベッド、熊の革をなめしたカーペット。食事と物書きを兼用している低いテーブル。散乱したペンと紙。

 それらをつぶさに眺める。


「ん? これは何かしら」


 カーペットの下が僅かに盛り上がっており、端から何かが見えた。

 めくってそれを確かめると。


「……!? これ」


 出てきたのは手袋だった。

 ただの手袋じゃない。ルビィが冬の季節にいつも使っているものだ。


「どこに行ったの……ルビィ」


 あの子がいたという確かな証拠を握り締め、周辺を見渡す。

 ルビィが来ていたのに、いない。

 ユーフェアもいない。

 部屋は荒れている。


 これら客観的事実から導き出されることは。


「何か、事件に巻き込まれた……!?」


 私はようやく事の深刻さに気が付いた。



 ▼


「――……落ち着きなさいクリスタ。まだそうだと決まった訳じゃないんだから」


 頬に聖女ビンタをして、取り乱しかけた心を無理やり平静に保つ。

 二人がいなくなっていることは事実だけれど、危険が迫っているとは限らない。

 ――けれど万が一を想定して、最悪の事態から順番に考えていく。


「魔物に襲われた? いえ、それはないわ」


 声に出して、すぐにそれを否定する。

 ユーフェアが家を建てるとき、かなり入念に調査して場所を決めた。

 マクレガーも引っ張り出して手伝ってもらったので安全度の高さは折り紙付きだ。

 周辺には魔物はもちろんのこと、危険な獣すらも生息していない。


 そもそも獣の類に襲われたのなら、家の中はもっと荒れているはず。


「じゃあ、誰かに攫われた?」


 それも考えにくい。

 この山は聖女の居住区に指定され、教会の管理下に置かれることとなっている。

 山の入口には番人がおり、教会の関係者・聖女の近親者しか通れない。

 この国には反聖女派なんてものが存在しているけれど、聖女本人に直接弓を引くほどの度胸はない。


「足跡もなかったし………………足、跡?」


 自分の声が耳に入った瞬間、とてつもない違和感に襲われる。


(どうしてルビィの足跡がないの?)


 ルビィの手袋があるのに、あの子の足跡が外にないのは不自然だ。


 私は外に出て、周辺の雪をくまなく調べて回る。

 違和感の元はすぐに発見できた。


 一見しただけでは真っ(さら)な雪だけれど、よく目を凝らしてみると僅かに色味の違いがある。

 後から誰かが足したものだ。

 それができる技術を、私は知っている。


「氷魔法」


 誰かが氷魔法で雪を再現し、足跡を埋めている。



 ▼


 作為的に隠された足跡。

 いなくなったユーフェアとルビィ。

 もう疑う余地はない。

 二人は、何らかの事件に巻き込まれたのだ。

★お知らせ★

明日4/10(月)より当作品の書籍がToブックス様より発売となります

イラストレーターはミュシャ様(@misa_chainchroA)です


書籍化に際し、全文を一人称から三人称に変更しております(作者の妙なこだわりで特に意味はありません)


別サイトで投稿していた頃から数えて三年目にして念願の書籍となります


これもすべていつも読んでくださっている読者様のおかげです

ありがとうございます!

皆様の本棚の末席に加えていただけるととても嬉しいです


また4/13(木)よりコロナコミックス様にてコミカライズも開始いたします

作画担当はso品様(@sohin_3)です


書籍・コミックともどもよろしくお願いいたします

では

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