表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国を守護している聖女ですが、妹が何より大事です~妹を泣かせる奴は拳で分からせます~  作者: 八緒あいら(nns)
第三章 結界の魔物を分からせる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/140

第五話「宣言通り」

「本当に助かった。ありがとう」


 治癒が終わり案内された宿の中で、エキドナはマーカスに深く頭を下げられていた。


「これがアタシの仕事なんだから、わざわざ礼を言われる必要なんてねーよ」

「重傷のパーティ以外も治癒してくれたと聞いているぞ」

「あんなのはついでだ」


 エキドナはあの後、怪我の大小を問わず片っ端から治癒を行った。

 彼女のおかげで治療区のベッドはいま、ほぼ空になっている。


 聖女を含め、治癒魔法は基本的に一対一でしか使えない。

 しかしエキドナは複数人に対して治癒が可能だ。

 多人数に使ったとしても一人一人の効果が弱まることもない。


 一般的な治癒師十人分以上の働きも、彼女にとっては言葉通り「ついで」でしかない、というわけだ。


「その『怪我人が立て続けに』なんだけど」


 エキドナは恥ずかしそうに頬を掻いていた指を止め、マーカスを差した。


「新種の魔物が出たのか?」

「ああ。つい三日前に、な」


 王都で調べた時、新種が出たという情報はなかった。

 まさにその時、この地に新種が出ていた……ということだ。

 タイミングの悪さに、私は目眩を起こしそうになった。


「幅一メートル、全長は五メートルをゆうに越える大蛇の魔物だ。毒を吐き、人間も家畜も締め上げて丸呑みにしちまう」


 エキドナが最初に治癒した四人パーティの活躍により、なんとか追い返しには成功したらしい。

 ただ、逃げられた先は結界の外ではない。

 『極大結界』内部の、森のどこかだ。


 新種の魔物が今まさに、この付近に身を潜めているらしい。


(最悪だわ……)


 私は頭を抱えた。

 魔物の多くは研究が進み、ある程度の対処法が確立している。

 けれど、新種はどういう脅威があるのか分からない。

 これまでと同じ姿形をしていても、行動や攻撃方法が全く違うことも当たり前のようにあるのだ。

 それ故、危険度は通常よりも桁違いに高い。


 大陸中央に近いここルトンジェラでは、新種に遭遇する確率も高い。

 前線区域を突破され、非戦闘区域まで被害を受ける――なんてことも十分に考えられる。


 もし、たまたまそこにルビィが居合わせたりしたら……。


「マーカスのおっさん。その魔物、どの辺りにいるか分かるか?」

「詳細は調査させている最中だ」

「おおよその場所だけでいーよ。あとは自分で探すから」

「自分でって……まさか」


 エキドナは静かに立ち上がり、歯を見せて笑った。


「寝る前にもう一仕事だな」



 ▼


「聖女ライト」


 今夜は月が出ているとはいえ、やはり夜は暗い。

 光源を出しながら、私はエキドナに頭を下げる。


「ありがとね、エキドナ」

「なにが」

「私のために退治を申し出てくれたんでしょ?」


 エキドナは好戦的な性格ではない。

 弱点のこともあるし、わざわざ自分から退治しようと言い出すなんて妙だ。

 彼女をよく知る私からすれば、今のエキドナの行動はとても違和感がある。


 その違和感の元が――私だ。

 私がルビィを心配していることを読んだ彼女が、あえて理に合わない申し出をしてくれた。

 エキドナはそういった人間の感情の機微にとてもよく気が回る。


 私が同じ立場になっても、同じような行動はできないだろう。

 そういう性格的な意味も含めて、エキドナは私と正反対だ。


「さすが我が友ね」

「ちげーし。新種がうろついてるなんて聞いたら安眠できねーだろ」


 顔を背け、頬を掻くエキドナ。

 私はそれが、褒められたりすると行う照れ隠しの仕草だと知っている。


「ふふ」

「笑ってねーで仕事しろ」

「任せて。一発でぶっ飛ばすから」


 私は鎧の上から拳と拳を合わせ、がちん、と音を鳴らした。



 ▼


「エキドナ。これ」


 しばらく周辺を散策していると、妙なものを発見する。

 土が何かで擦れたように抉れている。

 大きすぎて違和感があるけれど、これは間違いなく……。


「蛇が通った跡、だな」

「幅一メートルくらい。マーカスが言っていた新種の情報とも一致するわね」

「まだ土が乾いていない――近くにいるぞ」


 抉れた土に触れ、エキドナは警戒を促す。

 その瞬間――。




「う、うわあああああ!?」


 少し離れた場所から、悲鳴がこだました。

 そちらに目を向けると、木々よりも高く傭兵の身体が宙吊りにされている。

 彼を持ち上げているのは――毒々しい紫色の身体をした、大蛇の魔物。


「この――野郎!」

「離しやがれええ!」


 彼の仲間と思しき傭兵が二人、大蛇を斬り付けているけれど、硬い鱗に覆われているせいか全く歯が立っていない。



「蛇のくせに夜も活動するのかよ!」


 エキドナは毒づいた。

 魔物は一般的な生物を模した『何か』であり、詳細は分かっていない。

 しかし、生態は元の生物に近い。


 狼型の魔物なら狼の生態に。

 鳥型の魔物なら鳥の生態に。

 そして蛇型の魔物なら、蛇の生態を模しているはずだ。


 蛇は大半が昼行性――つまり、夜は動きが鈍くなる。

 しかしここから見る限り、あの大蛇は夜でも活発に動けるようだ。

 大蛇は素早い動きで傭兵の身体に巻き付き、暴れないように縛り上げる。


「クリスタ!」


 エキドナが言い終わるよりも早く、私は駆け出していた。

 彼我の差は三十メートルほど――間に合わない!


 助けに向かう私たちを嘲笑うかのように、大蛇の魔物は足元の傭兵を尻尾でなぎ払い、宙吊りにした獲物の身体を締め上げた。


「ぎゃああああああ………………あ?」


 傭兵の悲痛な叫び声は、途中で困惑に変化した。


「あ、あれ? 痛くないぞ」


 頑強な鎧ですら形を失いそうな力を受けながら、傭兵は痛みにうめくことすらしなかった。

 彼だけではない。

 吹き飛ばされた彼の仲間達も、平然と起き上がる。


「……俺たち、なんで怪我してないんだ?」




「【守勢(しゅせい)の軍歌】」


 エキドナは元の場所で膝をつきながら、傭兵たちを結界で守っていた。

 彼女は治癒だけでなく、結界も複数人を対象に使用できる。

 一般的な魔法は、手元を離れれば離れるほど効果が減少していく。

 けれど、エキドナにその常識は通用しない。


 治癒も、結界も、補助も。

 範囲内にいるならば、距離に関係なく同じ効果を出すことができる。


 ――周囲の人間を補助することで「守り」と「癒し」を与える。

 これがエキドナなりに聖女の力を『拡大解釈』した結果、発現した能力であり、彼女が『扶翼(ふよく)の聖女』と呼ばれる所以でもある。


「ナイスよ、エキドナ!」


 傭兵も魔物も、突然の出来事に困惑している。

 その隙を縫って、私は大蛇の元に辿り着いていた。


「とりあえず頭を潰しておきましょう」


 木々よりも高く上げた頭に向かって、私は跳躍した。

 大蛇の魔物が遅まきに気付いて毒を吐くが――【聖鎧】に守られた私にそんなものが通じるはずがない。

 毒を正面から浴びながら、構わず拳を握り締める。


「聖女パンチ(小声)」


 傭兵がいるので、いつもより小さめの声と共に拳を斜め下に振り抜く。

 確かな手応えと共に大蛇の頭が地面にめり込み、そのまま動きを止めた。


「よし。宣言通り、一発ね」

おまけ


傭兵視点


 毒を全身に浴びながら平然としている鎧の人物を見ながら、彼らは震えていた。


「ば、化け物……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 大蛇のサイズが太さ1mに対して長さ5mは短すぎます ツチノコみたいなモノになり 尻尾でなぎ払うや人を高く持ち上げるなんて無理です ヘビらしさを出すなら30m程度は欲しいです
[一言] 口ぶりは悪くても治癒能力含めて一番聖女聖女してるエキドナ。 何処かの本来、頭良いはずが妹の事になると狂い、それ以外でも、解決法が武技言語の使い手か何かと思わせる 聖女 様とはやはり・・・。…
[一言] うん、間違いなく化け物ですね 化けゴリラ……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ