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第三話「助言を無視する男」<ウィルマ視点>

「今すぐ逃げろ?」


 いつもの起床時間より早く揺り起こされると同時にそう言われ、僕はポリポリと後頭部を掻いた。

 お付きのメイド――最近の僕のお気に入りだ――の尻をひと撫でしつつ、姿の見えない相手に向き直る。


「なに、魔物の大軍でもやって来るの?」

『それよか怖いかも。別の意味で』

「それはどういう意味だい? ユーフェア」


 僕が声を放った先に相手はいない。

 あるのは距離の離れた相手との会話を可能にする『念話紙』だ。


 値段が高い、決まった相手としか話せない、一枚につき一回きり、三分で効果が切れる、魔力の干渉で声が届かなくなる……などなど、欠点は数えるとキリがないが、それを補って余りある便利さだ。

 山を挟んだ向こう側の領地にいる、とんでもなく優秀な魔法研究家によって生み出された発明品らしい。


『ぶー。内容までは教えない契約だよ』


 念話紙を通じて、雑音混じりの声が返ってくる。

 姿の見えない相手の名は――聖女ユーフェア。


 彼女は『観測』を主目的として活動している聖女だ。

 『観測』によって得た情報を元に未来を『推測』する研究を行っている。

 最終的には未来を『予知』できるようになることが目標らしい。


 単なる推測と侮るなかれ――これがなかなかの的中率で、一部の権力者たちは彼女の信者(ファン)になっている。


 去年亡くなった父もそのうちの一人で、『危機が迫ったら知らせてくれる』という契約を彼女と結んでいた。

 それがそのまま領主になった僕に引き継がれて、その契約を履行している……というワケだ。


 しかし父と違って現実主義な僕はこの聖女とやらに懐疑的だ。

 見えもしない『極大結界』なるものを張って魔物の侵入を防いでますなんて言われても、信じられるはずがない。

 そんな奴らのために血税を使われていると考えると、怒りすらこみ上げてくる。


 だから僕は、こう言い返した。


「オイオイ、僕に何の危機が迫ってるって言うんだ? 国内有数の領地を治めるこのウィルマ・セオドーラに」


 土地の規模、潤沢な資金力――そして、私兵の強さ。

 どれを取っても随一と言って良いほど、僕の領地は恵まれている。

 領民からの評判もすこぶる良い。


 これも全て父のおかげだ。

 領民のためにと貴族らしからぬ勤勉ぶりで育ててくれた金の成る木。

 そこで実ったおいしい果実を、僕は囓るだけだ。


『そこまでは教えられない。どうしてもっていうなら、追加料金を払って』

「いや、別に知りたくなんてない」


 先日の婚約破棄騒動の時は何も言ってこなかったくせに、今さら危機がやって来ましたなんて言われても信じられる訳がない。

 婚約者が馬鹿だったおかげでなんとかなったものの、下手を打てばこの地位を失うところだったんだぞ!


『とにかく契約は果たしたから。あとは頑張ってね~』


 言いたいことだけ言い切って、念話紙は効果を終了した。



「よろしいのですか?」

「最強の私兵を抱えている僕に、何を恐れることがあるっていうんだい?」


 メイドをベッドに押し倒し、僕はその上に覆い被さった。

 僕がほんの少し触れると彼女は頬を染めて甘く、上擦った声を上げ始める。


 ……そうそう。

 僕が好きなのは、こうやって何も考えず身体を差し出してくれる女だ。

 後ろから胸を触っただけで張り手をしてくる身持ちの堅い婚約者なんて、捨てられて当然だ。



 さあ、今日も楽しく過ごそう。

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