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第三十二話「事後処理」

「どうして私なの?」


 どちらかと言うと私は教会に良く思われて……いや、はっきり嫌われていると言っていい。

 言うことは聞かないし、細かな教えは無視するし。

 何より、私は人をまとめられるような人間じゃない。


「反りが合わないのは向こうも重々承知さ。それでもなおアンタを指名するにはワケがある。それは……」

「それは?」

「アンタが聖女の在り方を変えたからさ」

「聖女の……あり方」


 そんなものを変えたこと、あっただろうか。

 頭の中の記憶を探ってもそれらしきものは見当たらない。

 同じく首を傾げていたユーフェアが、ぽつりとつぶやく。


「ひょっとして、みんなの能力を開花させたこと?」

「それはないわよ」


 すぐさまそれを否定する。

 確かに、魔法の拡大解釈理論で聖女たちの癒しと守りの能力は拡張された。

 エキドナには広範囲補助を。

 ベティには瞬間移動を。

 ユーフェアには未来予測を。

 マリアには魔力無効化を。

 そして私には鉄壁と破壊を。


 おかげで活躍できる場は飛躍的に広がった。

 けれど理論自体は「聖女の力は神から与えられたものであり、魔法とは異なるものである」という教義に反するものだ。

 決して「聖女の在り方を変えた」なんて前向きなものじゃない。

 これに関するいざこざは、むしろ私と教会の間にある溝をはっきりと認識させた事件と呼んで差し支えない。


「半分は正解だね」

「え」


 私の予想に反し、マリアはユーフェアの意見を肯定した。


「理論自体は教会の教義に反している。けれど能力自体は有用……なら、使わない手はないさ。でなけりゃ能力の使用自体、認められなかっただろうね」


 新たな能力を神が聖女たちへと下賜(かし)した。

 そういうカバーストーリーを使い、拡大解釈を教会の教義に加えようとしているらしい。

 あれだけ否定したというのに、それを堂々と採用するなんて……。


「二枚舌もいいところね。けれど、それを採用したとしても私を認めない人は多いと思うけれど」

「多少の反発は致し方ないさ。ただ、それでもアンタが聖女の安定化に大きく寄与していたことは紛れもない事実だ」


 確かに、私は『極大結界』の負担割合が多い。

 通常で四~五割。他のみんなが結界の穴を視察するときは万が一に備えて割合を増やすこともある。

 これだけ魔力を負担しても平気でいられるのは私だけなので、安定化という面で貢献できていると言えばそうだ。


「聖女の能力拡張と安定化。この二つの功績を元にアンタを祀り上げるって算段だ」


 マリアの裏切りで動揺している中で私の功績を高らかに宣言する。

 民衆の目は必然的に私に引き寄せられ、マリアの話は早々に忘れ去られていく。

 そういう腹積もりらしい。


「私の功績をマリアが邪魔していた、なんて嘘も付けそうね」

「よく分かってるじゃないか。その通りだよ」

「……教会は、その、カトリーナさんとのことは」

「もちろん知ってる」

「……」


 つまり教会は、カトリーナの死に罪悪感を抱いたマリアの気持ちを知っていながら、それを利用した。

 それも一日や二日の話じゃなく、何十年も。

 利用して、利用して、利用して、利用して……最後には罪を被って死ね?

 徹頭徹尾マリアを悪者に仕立て上げて、打ち立ててきた功績の何もかもを取り去って。


 マリアの懺悔を聞き、許しを与える。それが本来の教会の役割のはずなのに。

 そんなのはもう、教会でも何でもない。

 ただ人の罪悪感につけ込むだけの腐った組織だ。


「マリアはそれでいいの? 本当は教会の在り方に疑問があったんじゃないの?」

「良い悪いの話じゃない。教会はオルグルント王国にとってなくてはならない――」

「はぐらかさないで」


 似たような質問を以前もしたことがある。

 あの時も明言を避けていたけれど、もう逃がさない。


「……いいとは思ってないさ。だけどアタシにはそれを変える力がない」

「私にもないわよ」

「いいやクリスタ。アンタには人を巻き込んで大きな事を成す力強さがある」


 ……どうやら随分とマリアに買い被られているみたいだ。

 確かに大きな事……と言えなくもないことを成した経験もある。


 けれど国を想って成したことなんて一度もない。

 ルビィが幸せであること。

 ただそれだけを第一に考えて動いているだけだ。


 その観点から言えば、今回は()()必要があると言える事案だった。

 ただ、それはマリアの思うやり方ではないと思うけれど。


「……分かったわ」

「なら、さっさと()りな」

「なに言ってるの。する訳ないじゃない」

「……なんだって?」



 ▼


 私はマリアから視線を外し、森の外へと移動した。


「待ちな。何をするつもりだい」

「事後処理よ」


 すたすたと森の外で気絶しているフィンともう一人の元へやってきて、胸倉を掴む。


「起きなさい」

「あべべべべ!?」


 順番に聖女往復ビンタで起こす。

 目を白黒させる二人に対し、問いかける。


「あなたたち、ワラテア王国の北か南、どっちの出身かしら」


 ワラテア王国は南北に伸びた形をした国だ。

 ほぼ円形に近いオルグルント王国とは違い、端から端まで移動するには時間がかかる。


「き、貴様! このゼルクリード・グリムハルトに手を上げるなど――!」

「聖女往復ビンタ」

「あぶぶぶぶぶ!?」

「質問に答えなさい」

「み、南でしゅ……」


 ゼルクリードを吐かせた後、フィンの方に顔を向ける。


「あなたは?」

「――殺せ」


 フィンは項垂れるマリアを見て、作戦の失敗を悟ったらしい。

 騎士らしく潔い……のはいいけれど、それでは話が進まない。

 ゼルクリードと同じところでいいだろう。たぶん。


「そうしたいのはやまやまだけれど……聖女に殺しはご法度なのよね。拘束結界」

「っ」

「な、なんだこれはぁ!?」


 二人の四肢を空中に固定し、(はりつけ)にする。


「何を……するつもりだ」

「国に送還(かえ)してあげる」


 ワラテア王国への方角を確認する。

 しゅっしゅ、と素振りをする私を見て、どうやって送り返すのかを悟ったらしい。


「ま……待て。そんなことをしたら死ぬだろう!? 殺しはご法度なんじゃないのか!?」

「大丈夫よ。コントロールには自信があるから。ちゃんとリクエスト通り南の地区に送ってあげる」

「答えになってないぞぉ!?」


 拘束結界から逃げようともがくゼルクリードと打って変わって、フィンは静かに私を睨んでいた。


「我が国は、お前たちを認めんぞ……!」

「認めなくて結構よ。もう私たちに関わらないでね――聖女パンチ」


 角度を調整した拳が、二人の男を綺麗に吹き飛ばした。


「――さて。帰りましょうか」

「アンタ……何を企んでいるんだい」

「決まってるじゃない」


 マリアの問いかけに、私はにんまりと微笑んだ。


「教会を潰すわ」

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