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国を守護している聖女ですが、妹が何より大事です~妹を泣かせる奴は拳で分からせます~  作者: 八緒あいら(nns)
第五章

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第二十二話「最強聖女と最長聖女」2

 今から五十年ほど前。

 黎明期のオルグルント王国は平和ではなかった。

 当時から『極大結界』はあったものの、まだ国としての体制が整っていないこともあり、魔物の侵攻が起こるたびに多くの犠牲者を出していた。

 魔物に対する知識も浅く、とにかく大量に人を特攻させる以外の戦術がなかったとか。


 今でこそ魔法の研究が進み、傷を治す魔法は聖女以外も使えるようになっている。

 けれど当時は聖女の癒しの力が唯一無二の治療手段だった。


 魔物の侵攻が激しく、治癒は聖女にしかできない。

 これらの要素が合わさり、当時の聖女は一年の大半を結界の穴で過ごしていた。

 今も定期的に結界の穴に訪れているのは、そういう古い慣習の名残だ。


 私たちが教科書でしか見聞きしたことのない時代のことを、マリアは身を以て体験していた。



 ▼


「くっ……」


 すぐに立ち上がり、状態を確認する。

【聖鎧】を無効化され痛みと痺れはあるけれど、防御はしっかりした。

 大したダメージじゃない。


「ずっと疑問に思っていたことがひとつ解決したわ」


 先に言った通り、マリアは体術の達人だ。

 しかも道場で習ったような型にはめたものではなく、極めて実戦的な。


 長く聖女をしていたマリアがどこで技を磨いたのか。

 教会七不思議のひとつとして数えられていたけれど……さっきの言葉でその答えが分かった。


「『魔物とドンパチやってた』っていう時に身に着けたのね」

「ああ。でなけりゃ死ぬからね」


 あっさりとマリアは頷いた。

 謎と呼んでいたけれど、聞かれなかっただけで彼女も隠すつもりなんてなかったのかも。


「聖女は治癒専門部隊って聞いていたんだけれど」

「その話を鵜呑みにした奴はみんな死んじまったよ」


 ふと視線を横に向けるマリア。

 偶然だと思うけれど、彼女の視線の先にはオルグルント王国があった。


(隙あり……!)


 私から視線が外れた一瞬の隙間を縫い、攻撃を仕掛ける。


「聖女パ――」

「アンタの弱点。教えてやろうか」

「!?」


 マリアは見もせずに私の拳を受け止めた。

 まるで頬に目が付いているかのような動きに、私は動揺してしまった。


 時間にして一秒にも満たない硬直。

 けれどマリアにとっては十分すぎる猶予だ。


「ぐ!?」


 みぞおちに蹴りを喰らい、またしても私は森の奥へ吹き飛んだ。

 無意識に使った【聖鎧】はマリアの前では当然のように機能しない。


「人型極大結界【聖鎧】、常識を覆す身体強化、無尽蔵に動ける疲労鈍化。それらの併用を可能にする歴代最高の魔力」

「……?」


 私の弱点を指摘するようなことを言っていたのに、逆に長所を挙げてきた。

 意味が分からず、私は訝しげに眉を寄せる。


「分からないのかい。それが弱点なんだよ」

「どういうこと?」

「アンタ、苦戦したことないだろ」


 確かに。

 私はこれまで苦戦らしい苦戦をしたことがない。

 セオドーラ領の時も、シルバークロイツ領の時も、ルトンジェラの時も、ホワイトライト領の時も、サンバスタ王国の時も。

 倒すのに時間がかかったり……なんてことはあったけれど、ピンチになった時がない。


「アンタは戦っていたつもりだろうけれど、アタシからすればそれは戦いなんかじゃない。アンタからの一方的な蹂躙さ」

「!」


 マリアが迫る!

 私はすぐさま体制を立て直し、彼女を迎え撃つ。


(右!)


 マリアの構えから、私は右から拳が飛んでくると予測した。

 触れた状態だと無効化が発動してしまう。

 右手を外側から払い除けて体制を崩す。

 マリアの勢いを利用して背後に回り、後頭部に聖女パンチを当てる!


「甘いよ」

「!?」


 気付けば私は、マリアの蹴りを胸に喰らっていた。

 右手を払い除け、体制を崩すまでは良かったが……マリアはそれを読んでいた。

 払われた勢いそのまま右手で地面を掴み、崩された体制を蹴りに転じさせた。


「こふ……!?」


 肋骨を強打され、肺の空気が一気に逃げていく。

 酸欠状態のように息が乱れ、視界が白く濁った。


「寝るのはまだ早いよ!」

「!」


 マリアの姿が霞んで見えない。

 私はやぶれかぶれで声のした方向を防御する。


「が……!?」


 声のした方向とは逆側を殴られ、私は受け身も取れずに吹き飛んだ。


「ほら。こんな簡単なフェイントにすら引っかかる」

「く……聖女ヒール」


 起き上がりながら殴られた箇所を治癒する。


(ここまで一方的にやられるなんて)


 確かに体術と能力はマリアの方が上だ。

 けれど単純な力や体力は私の方が上。

 互角とは言わずとも、接戦くらいにはなると思っていた。


 単純な力だけでは説明がつかない大きな差。

 これがマリアの言う、私の弱点……?


「これで分かったろう。アンタの弱点」

「……戦いの、経験」

「その通り」


 これまで私は格上どころか同格の相手とも戦ったことはない。

 対してマリアは若かりし頃、生と死の狭間でその腕を磨いて……いや、そうせざるを得ない状況にいた。

 圧倒的な戦いの経験値が、実力差として現れている。

 それを埋めてくれるはずの聖女の力は、マリアには通じない。


「アンタは『強すぎた』……それが弱点さ」


 マリアは勝ち誇ることもなく、ただ淡々と事実を述べた。


「アンタではアタシに勝てない。諦めな」

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