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国を守護している聖女ですが、妹が何より大事です~妹を泣かせる奴は拳で分からせます~  作者: 八緒あいら(nns)
第五章

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第十七話「道化と氷騎士」(前)

<ソルベティスト視点>


「来なさい。マリア殿がクリスタを倒すまで、軽く遊んであげましょう」

「言ってくれるッスねぇ」


 軽口に応えつつ、私は周囲の状況を再確認した。

 マリアの相手は先輩が。

 ゼルクリードの相手はエキドナとユーフェアが。

 そして目の前にいるフィンの相手は私が引き受けることになった。


 さっさとこいつを倒して先輩に加勢したいところだけど、エキドナとユーフェアの方も心配だ。

 エキドナの能力は他者の補助に振り切っている。

 一人にしかかけられないヒールや身体能力強化を複数人に使うことができる上、対象が増えても一人一人の効果は下がらない。

 味方が十人なら十人の力が+50されて500となり、二十人なら二十人の力が+50されて1000となる。


 その能力の性質上、エキドナの力は味方が何人いるかで大きく変わる。

 味方が少なければ影響は少ないけど、大勢いるときはたった一人で勝敗が左右するほど大きな力になる。


 その観点から言えば、いまエキドナは最も力を発揮できない状態にある。

 私と先輩も彼女の恩恵をもらっているけれど、それぞれ別の人間を相手している。

 エキドナの味方となるのは実質一人、ユーフェアだけだ。


(急がないと二人ともやられちゃうッスね)


 いくらエキドナの恩恵を受けているからといって、元が非力では戦力の足しにならない。

 なんとかして時間を稼いでもらい、私が助太刀に入るまで持ちこたえて――


「よそ見をしているとはなかなかの余裕っぷりですね」

「――っと」


 ひやりとした空気を感じ、私は本能が呼びかけるまま半身を右に逸らした。

 ついさっきまで胴体があった場所に、氷を纏った剣が突き出されている。


「殺る気まんまんじゃないッスか。さっきマリアに殺すなって言われてませんでしたっけ」

「勘違いしないでください。この氷はあなたを傷つけないためのものです」


 氷を指先で撫でながら、フィン。

 確かに氷が刀身を覆うことで斬れ味を限りなくゼロにしている。

 けど、あの早さで突きを喰らえば斬れる・斬れないに関わらずタダじゃ済まない。

 下手をすれば斬れ味とは無関係に身体を貫通することだってありえる。


「あなた方が仲良しなのはよーく知っていますからね。しかしまあ、ここまでマリア殿を追って来ることは予想外でしたが」


 聖女同士の仲の良さを褒めるような言葉。

 けれどその裏にある悪意に、私の勘が反応した。


「……ははーん。そういうことッスか」


 フィンは私を殺さない。

 これは本音だ。

 けど、死なない程度の大怪我は負わせるつもりでいる。


 私に重傷を負わせれば、エキドナやユーフェア、あるいは先輩が戦闘を放り出してヒールしようとする。

 私一人を倒すだけで、他の聖女も間接的に戦闘不能にできてしまう。


 フィンはそれを狙っている。

 エキドナの広域ヒールであれば、離れていても治療はしてもらえる。

 けどその間、身体能力強化の恩恵は受けられなくなる。


 どちらにせよ共倒れだ。


「聖騎士さんでしたっけ? そうは思えないほどセコいこと考えるッスねえ」

「そちらこそ。聖女とは思えないほど荒事に慣れてますね」

「家庭環境があんまり良くなかったんで。大人の悪意には敏感なんスよ」


 この感覚を育ててくれた過去に、今だけは感謝した。


「綺麗ごとで蓋をして本音を隠す。だから大人はキライなんスよね」


 座標を定め、とん、と軽く地面を蹴る。

 視界がぐるりと暗転し、私はフィンの背後へと移動した。


 狙うは首の後ろ。

 多少体格に差があっても、ここなら確実に気を失わせられる。


「――その手は通じませんよ」

「!?」


 唐突に、フィンの背中から二本の氷柱が伸びた。


(転移!)


 咄嗟に元の位置に戻り、事なきを得る。

 ……あと一瞬、移動が遅れていたら氷の柱で両肩を貫かれていた。


「おや惜しい」


 さして悔しそうでもなく零すフィン。


「転移。不意を突くにはこれ以上ない強力な能力です」


 背中から生えた氷の柱は意志を持っているかのようにピキピキと霜を振りまきながら動き、前を向いた。

 まるで触手がフィンの肩から生えているかのようだ。


「ですが、私にそれは通用しませんよ。転移前の()()さえ知っていれば対処は容易いものです」

「――ッ」


 私の転移は、大まかに三つの工程に分かれている。


 ①転移先の座標を決める。

 ②転移対象を定める。

 ③実行。


 これら三つを合わせて「転移」と呼んでいる。

 ②を最も簡単に行う方法として「ジャンプをする」という方法を好んで使っていた。

 ジャンプをすることで足が地面から離れ、転移対象を定めやすくなる。


 私がジャンプする=転移の合図、という訳だ。

 このことを知っているのは仲間の聖女のみ。

 教会の神官やルビィすら知らない秘密。


 それをこいつが知っているということは……。


「マリアから聞いたんスか」

「私から聞いた訳ではありません。マリア殿が自ら語り聞かせてくれましたよ」


(本当に……こいつらの仲間になったんスか? マリア……)


 ぐらりと心が揺らぎかける心を、首を振って追い払う。


(弱気になるな、私!)


 マリアも建前と本音を分けるタイプだ。

 絶対に、何か理由がある。


(ふん縛って本音を聞かせてもらうまで、絶対に信じないッス)

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