第十六話「三つの戦い」
教会の刺客によって足止めされていたマリアたち。
おかげで私たちが追いつくことができた。
マリア。そしてフィンともう一人。
「うぅ……」
マリアの足元でうめく刺客たち。
動けなくなっているけれど、誰も死んではいないみたいだ。
治療してあげたいところだけど、私たちの行動も制限されてしまう可能性があるのでもう少しだけ寝ていてもらおう。
それに、そんな暇をマリアが与えてくれるとは思えないし。
刺客たちのことは一旦置いておき、マリアに集中する。
「全員、揃いも揃ってこんなところで何している」
私たちを順番に睥睨するマリア。
いつもと変わらない表情のように見えるけれど、曇り空のせいか影が濃いように思えた。
「それはこっちのセリフッスよマリア」
「そうだぞ。国を抜けるなんて勝手すぎるだろ!」
「聖女の規則、破っちゃダメって言ってたのはマリアなのに……」
みんなが口々にそう告げる。
マリアはそれらを聞いてから、小さく嘆息した。
「――アンタらに言うことは何もない」
「はぁ!? そんな言い方――」
怒るベティの肩に、エキドナが手を置いた。
「なぁマリア。これは本当にアンタの意思でやってることなのか?」
「それ以外に何があるってんだい」
「滅私奉公はどこに行っちまったんだよ」
「もうアタシは教会の人間じゃない。せまっ苦しい規則に従う必要もない」
「本当に……本当にそうなのか?」
エキドナは真っすぐにマリアの目を見据えている。
「ああ。アタシはもうオルグルント王国の聖女じゃない」
「――――――そう、か」
エキドナはその場に膝を落とした。
本当は別の目的があって、教会の命令で仕方なく――そんな言葉を期待していたのに、返ってきた言葉は出奔を肯定する言葉。
落胆し、膝をつくのも無理はない。
「なら、いつもと逆になっただけだな」
「……なんだって?」
そう思ったのも束の間、エキドナはそのまま両手を交差させた。
彼女が聖女の能力を行使する際の、祈りの姿勢だ。
「『英雄の頌歌』」
私とベティ、そしてユーフェアの身体が淡い光に包まれる。
エキドナお得意の広域補助だ。
「悪いことをした聖女は連れ戻しておしおきする。いっつもアンタがやってたことだろ?」
「……やれやれ。本当に聞き分けのない子たちだ」
杖を強く突き、地面に突き立てるマリア。
両手を自由にし、臨戦態勢を取る。
「フィン、アンタはあっちのピエロを。それからゼルクリード、アンタは残りの二人を足止めしな」
「マリア殿! 勝手に指揮を取られては困ります! あの眼鏡女にはオルグルント王国で借りがあります! 従って奴の相手はこのゼルクリード・グリムハルトが」
「やめときな。アンタでは勝てないよ」
「ぐぬぅ!?」
「少々思う所はありますが……その采配で異論はありません。ゼルクリードは補助魔法をかける女と子供を頼みます」
成り行きを見守っていたフィンとゼルクリードも、それぞれ剣を抜き放つ。
「言っておくが殺すんじゃないよ。のちのち厄介になる」
「ご安心ください。心得ております」
酷薄な笑みを浮かべてベティを見据えるフィン。
「来なさい。マリア殿がクリスタを倒すまで、軽く遊んであげましょう」
「言ってくれるッスねぇ」
「ベティ。気を付けて。あいつの氷魔法は強いわよ」
「大丈夫ッス。先輩ほどじゃないですけど、私も強いですから」
ベティは指を立て、フィンと向き合った。
一方のゼルクリードが不服そうな顔でエキドナとユーフェアを見据える。
「この聖騎士ゼルクリード・グリムハルトがこんな雑魚の相手をせねばならんとは……本国には報告できんな」
「ざこ……」
む、とユーフェアが眉を寄せる。
「雑魚じゃないって証明してあげるわ。エキドナが」
「いやユーフェア。あたしはみんなのサポートがあるから無理だぞ」
「へ。そ、それって……」
「一人でなんとかしてくれ」
「~~~! む、むむむ無理!」
甲高い悲鳴を上げるユーフェア。
助太刀に入りたいところだけど、そんな余裕はない。
既に両手が自由になったマリアの射程圏内だ。
背中を見せようものなら、そこで勝負がついてしまう。
この戦いはマリアを止めるためのものだ。
そして、彼女に勝つ可能性があるのは私だけ。
私だけは絶対に倒れる訳にはいかない。
「エリストンではいいようにやられたけれど、今度はそうはいかないわよ」
おまけ
教会の刺客によって足止めされていたマリアたち。
おかげで私たちが追いつくことができた。
マリア。そしてフィンともう一人。
ゼルクリード(あれ、名前覚えられてない!?)