表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/140

第一話「泣く妹と怒る姉」

 私にはルビィという可愛い妹がいる。


 両親はもちろんメイドから執事まで、彼女の笑顔に魅了されない人間は存在しなかった。

 もちろん私もだ。


 彼女には、人に愛される才能があった。

 普通であれば溺愛され、甘やかされて育てばワガママに育つところだが、我が妹は性格すらも死角がない。

 品行方正で誰にでも優しく、領民からも人気があった。


 そして個人的にポイントなのが、お姉ちゃん子ということだ。

 「姉様、姉様」と私の後ろをついてくる姿が可愛くて、私はいつも彼女に構っていた。


 どこに出しても恥ずかしくない自慢の妹。

 ――そんな子が、婚約破棄されて帰ってきた。



「う……うぅ……」


 ベッドの上で泣き崩れる妹の頭を、ずっと撫で続ける。

 もう何時間、こうしているだろう。


 彼女は、婚約者であるウィルマ・セオドーラ伯爵にハメられたのだ。

 庭師と不貞を行ったとして、婚約破棄とともに多額の慰謝料を要求してきた。


 もちろんそんな事実はない。

 ただ、その庭師が育てる花が綺麗だったから、時折話をしていた程度だ。


 庭師は即刻解雇された。

 自分が声をかけたせいで職を失わせてしまった。

 相手の命があるだけまだマシと言えるが、今のルビィにそんな慰めの言葉はかけられない。

 ショックは察するに余りある。


 おまけに当のウィルマはちゃっかりメイドと関係を持っていた。

 しかも、複数だ。


 不貞がバレれば、あちらの家の汚点になる。

 だから人を疑うことを知らないこの子を利用して、『先に』不貞行為をでっち上げることで自分の罪を隠したんだ。



 許せない。

 絶対に……許せない。


 吐息から漏れる怨嗟で人が殺せそうなほどの憎悪を胸中で燻らせながら、私はそれを表に一切出さず、努めて優しく声をかけた。


「大丈夫よルビィ。お姉ちゃんに任せなさい」

「……姉様? どちらへ?」

「ちょっと、悪者を懲らしめてくるわ」

「え?」


 ぽかんと呆けるルビィの頭を撫で、額にキスをする。

 途端に目がとろんとして、そのままベッドにぽてんと倒れこんだ。


「おねえ……さ、ま」

「メイザ。あとはよろしく」


 立ち上がった私は、部屋の外で控えていた側近のメイドに声をかける。

 彼女は私の代役を務められるように、執務関係の全てを教え込んである。


「クリスタ様。あなた様が行かずとも、その様なゴミはわたくしが」

「いいえ。これは私にしかできないことよ」


 私、クリスタには聖女の力が宿っている。

 神の代行者として国を守護すべく選出された、五人の清き乙女たち。

 その中の一人が、私だ。


 聖女になる前から魔法研究に情熱を注いでいた私の興味は、すぐにこの不可思議な力に移った。

 その結果、聖女の力を拡充する術を編み出していた。


 いま、ルビィを眠らせたのもそういった研究の賜物だ。


 聖女の力を転用すれば、あらゆる不可能が可能になる。

 人々を守るのではなく――破壊することも。


 神を冒涜する行為?

 聖女としての自覚?

 力ある人間の責任?


 知ったことか。

 私にとっては妹が、家族が全てだ。


 妹の汚名をそそぎ、復讐する。

 景気よく拳を打ち鳴らし、私は不敵に笑う。


「ウィルマ伯爵が誰を敵に回したのか、分からせてやるわ」

「メイドさんおっかねぇな」と思った方はブックマーク・★★★★★をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうもはじめまして。 >「メイドさんおっかねぇな」と思った方 メイドと執事は最強の理不尽だと思っているので評価は最新話まで読んでからにさせていただきます。
[気になる点] 汚名を晴らす、ではなく汚名をすすぐだと思います。 晴らすと使うのは、「濡れ衣を晴らす」「恨みを晴らす」です。
[一言] >おまけに当のウィルマはちゃっかりメイドと関係を持っていた それが不貞に成るってどんな世界観? 貞節は女性に求められるモノで伯爵とかが咎められるってどういうこと?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ