Ⅱ お茶会へ行こう!
「これは……ぼくがクレアの婚約者だって、思い知らせないといけないね」
と言って、アルフォンソ様は、わたしに近づき、身をかがめる。
壁とフィルに囲まれているわたしは、逃げることができない。
アルフォンソ様の端整な顔が目の前にくる。
その瞳は、真摯にわたしを見つめていた。
一瞬、前回の人生では、わたしはアルフォンソ様のことが好きだったんだなあ、といまさら思い出す。
というか、婚約者であることを思い知らせる、って何をされるんだろう?
と思ってどきどきしていると、上からレオンの声が降ってくる。
「殿下……俺もいるんですよ」
アルフォンソ様はレオンを振り返った。ほっとする。あのままだったら……わたし、何をされていたんだろう?
アルフォンソ様は低い声で言う。
「僕はクレアの婚約者だ。レオンがいても、やることは変わらない」
「クレアお嬢様は、俺のご主人さまです。主人に不埒なことをしようとしている方がいれば、たとえ王太子殿下といえども、お止めしなければなりません」
「不埒なこと? 僕はクレアの婚約者だから……」
とアルフォンソ様とレオンが言い争う。
といっても、わたしが見た感じ、本気で口論しているというより、じゃれ合っているという雰囲気だった。
いつのまにか、この二人も仲良くなったのかな? 何がきっかけかはわからないけれど……。
そうしていたら、アルフォンソ様とレオンの声のせいか、隣のフィルが「ううん」とうめいて、そして、起き上がった。
フィルは寝ぼけ眼をこすりながら、わたしをちらりと見る。それから、ぼんやりとした目で、アルフォンソ様とレオンに目を移した。
可愛らしく、フィルが首をかしげる。
「どうして……王太子殿下とレオンくんがいるの?」
「フィル様のことが心配で」
とレオンは笑いながら言う。
一方、アルフォンソ様は肩を落とし、「今回も何もできなかった……」とつぶやいている。
そういえば、アルフォンソ様はセレナさんのことで話があると言っていたんだっけ。
わたしが話を向けると、アルフォンソ様もすっかり忘れていたというように手を打った。
「セレナさんは、マロート伯爵家の令嬢だよね」
「それがどうかされましたか?」
「あの家は、第二王子サグレス一派と裏で取引をしている」
ゆっくりとアルフォンソ様は言った。
わたしには……驚きはなかった。
マロート伯爵家は名門だけれど、宮廷貴族だ。王国が中央集権化を果たせば利益を得るし、サグレス王子を戴く中央集権派を支持する理由もある。
それに……たしかにそんな話は前回の人生でも聞いたことがあった。
記憶をたどって、思い出す。
たしか、前回の人生では、セレナさんからお茶会の招待があった。
そのとき、セレナさんの家が、第二王子派だという噂を聞いたのだと思う。
わたしはアルフォンソ様の婚約者で、当時は未来の王妃になるつもり満々だった。だから、アルフォンソ様の敵はわたしの敵で、敵の家の娘は敵だと判断したと思う。
もともとセレナさんとは親しかったわけでもないし、お茶会は断った。今なら……そうはしない。
アルフォンソ様がどう思っても、もう、セレナさんはわたしの友人だ。マロート伯爵家とサグレス王子がつながっていてもそれは変わらない。
わたしはアルフォンソ様の婚約者で、アルフォンソ派の筆頭と思われても仕方ないけど、そのことは、わたしとセレナさんの関係には無関係だと思っている。
セレナさんは、あんなにわたしのことを慕ってくれる、もしセレナさんからお茶会の誘いがあったら、今度は断らないだろう。
「アルフォンソ様は……セレナさんとわたしが関わらないほうがいい、とおっしゃりたいんですか?」
「いや、逆だよ」
「逆?」
「むしろクレアとセレナさんは積極的に仲良くなってほしい。そして、セレナさんをこっち側に取り込もう」
セレナさんは、マロート伯爵家の一人娘で、溺愛されている。今はまだ、子どもだけれど、将来的には、伯爵家の後継者になる。
そうすれば、サグレス王子を支持する有力貴族をひとり減らせる。
そして、アルフォンソ様も次期国王になるのを確実にできる。
そういうことかな?
わたしの疑問に、アルフォンソ様は微笑んだ。
「そう。半分はクレアの言う通りだ。でも、僕が王になりたいから、というよりは……サグレスの思い通りにはさせないというのは大きいかな」
「どういうことですか?」
「僕のクレアを傷つけようとしたサグレスを……許すわけにはいかないだろう?」
たしかに決闘の件は、サグレス王子の陰謀だったし、そのおかげでフィルが傷つきそうになった。
結果としてわたしが身代わりになって勝利したわけだけれど、フィルを巻き込もうとし
たのは、許せない。
フィルも「ぼくも……お姉ちゃんを巻き込んだサグレス王子のことを許せない」とつぶやき、レオンもうなずいた。
望むと望まざるとに関わらず、わたしたちは王太子アルフォンソ派と見られる。
「無力な僕のせいで、すまない」
とアルフォンソ様がつぶやく。わたしは首を横に振った。
アルフォンソ様のせいじゃない。
ただ……サグレス王子との決着はいずれつけないと、また、わたしたちの誰かが狙われて、大変なことになるかもしれない。
レオンが口をはさむ。
「俺からもお嬢様にお知らせがありまして。お嬢様宛にお茶会のお誘いがあるんです」
「わたしに?」
差し出された白い手紙には、可愛らしい小さな文字が踊っていた。
セレナさんの字だ。
そっか。今回の人生でも、セレナさんは、わたしをお茶会に誘ってくれるんだ。
可愛い後輩の誘いだし、断るつもりはない。
アルフォンソ様も、セレナさんと仲良くして良いと言っているんだから、なおさらだ。
フィルと一緒に行こっと。
楽しみだなあ、と思っていると、レオンが一言付け加えた。
「そのお茶会、サグレス殿下も参加するんですよ」
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