XIII 図書室では静かにしてください、お嬢様!
「ということでね。フィルとセレナさんを仲良くさせる作戦に、協力してほしいの!」
わたしたちが身を乗り出して頼むと、レオンはぎょっとした様子だった。
ここは図書室。学園の東棟の隅にある場所だ。
レオンは受付カウンターにいて、わたしはその目の前に腰掛けている。レオンは図書委員だった。
そして、わたしはレオンに、フィルの友達を作ろう作戦への協力を頼んでいるのだ。
相手は、セレナ・マロート伯爵令嬢。フィルのクラスメイトだ。
前回の人生ではセレナさん(さんを付けることにした。だって、フィルの友達になる予定なのだから!)は、フィルに好意を持っていたし、今回もきっと上手くいくはず。
そのためには、下級生の数少ない知り合いであり、フィルの味方のレオンの協力が必要だ。
レオンはわたしには冷たいけど、フィルのことは気に入っているようだし、フィルのためだったら、動いてくれるはず。
でも、レオンの反応は鈍かった。
「まずですね、クレアお嬢様。ここは図書室なんですから静かにしてくださいよ」
「……ご、ごめんなさい」
レオンに注意されて、はっと周りに気づく。
みんなクスクスと笑っている。は、恥ずかしい……。
「まったく、お嬢様はフィル様のこととなると見境がないんですから。姉バカもほどほどにしておいてくださいよ」
とレオンに言われてわたしはカチンとくる。
そんな冷たい言い方ないじゃない!
「そういうレオンが、図書委員だなんて、意外ね」
「似合わない、と思っているでしょう?」
「ええ」
わたしがそう言うと、レオンはじっとわたしを睨み、そしてぷいっと顔を背けた。
「それで協力してくれるの、してくれないの?」
「しますよ。お嬢様は俺の主人なんですから」
「それはそうだけど、フィルのためになにかしてあげようとは思わないの?」
「まあ、フィル様も俺の主人ですし、お嬢様よりずっと良い方ですから、お力になりたいですけど……」
レオンはちょっと顔を赤くする。素直にフィルのことを心配しているというのが恥ずかしいのだ。
シア&アリスの言葉から、レオンがフィルのことを心配しているのは確認済みだった。
「本当はフィルのこと、大事に思っているくせに。友達でしょう?」
「ふぃ、フィル様は、次の公爵様ですし……友達なんて恐れ多いですから!」
「でも、フィルもレオンも、今は学園の一生徒でしょ?」
「そうは言っても、身分差というのは覆せませんよ。お嬢様は、公爵令嬢だからわからないかもしれませんが」
たしかにわたしは公爵令嬢にして、王太子の婚約者だ。わたしより身分の高い生徒なんて、ほとんどいない。
でも、カリナみたいに身分を気にせず付き合ってくれる友人もいるのだけれど。
一方、レオンは男爵の跡取りだし、それほど身分が高い方じゃない。
だから、いろいろわだかまりはあるのかもしれない。
ま、わたしみたいな気に食わない主人に頭を下げないといけないわけで、それだけでも不機嫌になって当然かもね。
まあ、でも、レオンはフィルのために力を貸してくれれば、それでいい。
「でも、俺たちがセレナさんをフィル様に近づけるのって、ホントにフィル様のためになるんですかね?」
「どういう意味?」
セレナさんはフィルの友達になってくれる可能性が高い。フィルが孤立している状況を変えられる、重要人物だ。
そのセレナさんとフィルの友情を取り持つことに、悪いことがあるはずない。
レオンはちょっと浮かない顔をして、そして、「まあ協力しますよ」と行ってくれた。
「問題はセレナさんですが……本当にフィル様と仲良くなりたいと思っているんでしょうか?」
レオンのもっともな疑問に、わたしは言葉に詰まる。
セレナさんがフィルに関心があることは間違いない。
だって、わたしには前回の人生の記憶があるから、わかるのだ。
でも、レオンにそれを言うわけにはいかない。
「せ、セレナさんはじっとフィルのことを熱い視線で見ていたの!」
「それだけ?」
「あとは勘……そう勘よ!」
わたしは手を上に突き出して叫ぶ。
レオンがびくっと震える。
「お、お嬢様……お願いですから静かにしてください」
「す、すみません……」
「お嬢様って頭がいいはずなのに、どうしてこう……」
「あら、褒めてくれているの?」
「お嬢様より優秀な生徒なんてそうそういないでしょう。褒めているというより単なる事実ですよ」
とレオンはそっけなく言ったけど、意外にも、レオンのなかのわたしの評価は高いみたいだった。
「ふうん」
「なんでにやにやしているんですか?」
ちょうどいい。
レオンとも仲良くなりたかったところだ。
今回のフィルとセレナさんを友達にしよう大作戦では、わたしとレオンも仲良くなることとしよう!
そんな目標を胸に、わたしは立ち上がった。
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