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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ムカデの夢

作者: アブナイ羊

日本の、ある民家でゴキブリや蜘蛛を食べて生きているムカデがいました。そのムカデは真っ黒な身体で暗闇に溶け込み、たくさんの足で体重を分散して足音を殺して、誰にも見つからずに移動することができました。


ある日、そのムカデは大きな人間の叫び声を聞いて、好奇心につられて隠れていたイスの下からこっそりと覗いてみました。すると、いつも食べているゴキブリがこちらに走ってくるのが見えました。


「ちょうどお腹がすいていた。ここで食べてしまおう」


ムカデはそう思いましたが、ふと、ゴキブリのその後ろに目をやると、丸めた新聞紙の棒をもってゴキブリを追いかけている人間の姿があったのです。


「これはまずい。一旦隠れよう」


しかし、イスの裏に空いた穴のなかに隠れたムカデは、布きれ一枚挟んで自分の下にいるゴキブリが食べたくて仕方がありませんでした。そこでムカデは人間がみていない隙にすばやく食べてしまおうと考えました。


「今だ!」


身体の半分だけをイスの穴からだしてゴキブリを捕まえ、イスのなかに引きずり込みました。

しばらくして、すっかり大人しくなったゴキブリを食べていると、ゆっくりと地面が傾いていくのがわかりました。人間がイスを持ち上げて、イスの下に逃げ込んだはずのゴキブリを探しているのです。

ムカデのおかげでゴキブリがイスの下から居なくなったことで、人間はこう言いました。


「ああ、よかった。誰かがゴキブリをどこかへやってくれたんだね、きっと。ありがとう」


「ありがとう」なんて、ムカデは生まれて初めて言われました。例えその誰かが、ムカデだと知っていたならば絶対に言われなかった言葉であろうとも、ムカデはその言葉に感動していました。




その夜、ムカデは夢を見ました。


食べ終わったゴキブリの死骸をもって人間の前に出ていくと、人間はこう言うのです。


「あなたがゴキブリを退治してくれたのですね。ありがとう。お礼にこのバナナをあげます。食べてくださいね」


お礼を言ったムカデは、イスの中にバナナを持ち帰りました。そのバナナはとってもとっても美味しかったので、大事に大事に食べました。

やがてバナナを食べ尽くした頃、ムカデは幸せな夢から覚めたのです。


「あぁ、なんだ、夢だったのか」


食べ終わったゴキブリの死骸を抱き枕に寝ていたからこんな夢を見たのだろう。そう思いましたが、同時にこれを人間に持っていったら、夢の中と同じようにバナナがもらえるんじゃないか。そうも思いました。


しばらく待ち、人間が近くに来た。ムカデはこの時を待っていました。昨日食べたゴキブリの死骸を持って、夢の中と同じように人間に見せました。

お礼を言われ、バナナを渡される。そう思っていたムカデは、そんなことは起こり得ないということを身体が2つに別れる感触と共に理解しました。


「キャアアアアア!!!ム、ムカデ!しかもゴキブリも咥えてる!イヤアアアアアッ!!!」


バンバン、とそばにあったリモコンで身体を何度も叩かれ、意識が朦朧としてきました。そして、薄れゆく意識の中でムカデはこう思いました。


「あぁ、神様はせっかく、誰にも見つからないようにとこの身体を作ってくれたのに。わざわざ自分から姿をさらした僕が馬鹿だった。」


と。

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