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次頁【ネクストページ】の代理人  作者: けものさん
第四冊『暗殺者の才能を生かして悪者を倒してたら私が暗殺される側になったので返り討ちにする事にしました』
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第五十三筆『殺されるなら剣に限る』

男を引きずりながら、一歩ずつこちら近づいてくる少女は不思議そうにリアを見つめたまま嗤っている。

「殺されましたよね、私」

「殺したな……、俺が」

 二人がボソボソと呟きながらこちらに近づいてくる。

 おそらくは痛みに耐える事が出来たとしても人間としての身体の消耗には耐えられないのだろう。

さっきまで狂ったような力を見せつけていた男はもう既に息も絶え絶えになっている。

身体に力も入っていないだろうから、少女の力では引きずる事も出来ないだろうに、いとも容易いように少女は男を引きずっていた。

「もらいますね」

 少女は男の身体を貫いているアルが放った矢を引き抜いて、右手に持つ。

男の身体がドっと倒れると同時に、動かなくなった。


少女の片手には骨、もう一方には矢。

だが、その年端も行かぬ少女の敵意と殺意は、膨大な物だった。

「ズルいなあ、私結構命がけだったんですよ? というかまあ、実際に命賭けちゃったんですけど、なのに生きてるなんて……、ズルい」

 抑揚は少ないが、その口調はまるでリアだ。

そんな言い方をする少女の目には俺やアル等見えてはいないようだった。

だからこそ反応が遅れた。

俺が炎を放つ間も無く、そしてかろうじてアルがその手を撃ち抜き手に持った矢をを落とさせて尚、少女は真っ直ぐにその骨を手にリアの胸元目掛けて飛び込む。

その素早さは少女の軽さ故か、それとも彼女が『リア』を名乗るからなのか。

それは分からない、だが今のリアを狙われるのはまずい事くらい、俺もアルも分かっていた。

「リア! しっかりしろ!」

 俺が黒炎を少女に放ちながらリアに声をかけると、彼女はギリギリの所で少女の攻撃をいなしていた。

リアが少女の二撃目を剣で受け止めた所で、俺の黒炎が少女の足元へとたどり着く。

その瞬間逆流してくる記憶に映るのは、紛れもないリアの姿だった。

黒炎に足を取られた少女は、敗北を認めるようにその場で立ち止まる。

「あー、この感じ……。

 余計な事されてますね……」

 剣を止めたリアの前で、少女は溜息を付きながらリアの顔を見上げる。

「抜かれるのはやなんで、口封じしますね。

 でも、弱くなっちゃっいましたね、本物の私さん」

 そう言って、少女は手に持ったその骨を思い切り自分の胸に突き立てた。

「面白く、無いですよね……。分かりますよ?

 でも、そういう話にされたんだから、仕方、無いでしょ……」

 自ら胸に致命傷を付けても話せるあたり、やはり狂っている。

リアはその少女が息絶えるまで、青ざめた顔でその光景を見つめていた。

「リア……」

 足元まで流れている血を避けるように俺が彼女の肩にそっと触ると、彼女は驚いて数歩後ろへと下がった。

「ごめんなさい……、私……」

 何を謝っているのかの見当は付いたが、俺もアルも何も言わなかった。

というよりも、何も言えなかった。

「酷だろうが、状況を見極めろ。

 無関係だなんて事は、無いのであろう?」

 カークの言葉に、アルが小さく頷く。

殴り飛ばされた男だけはどうやら気絶しているようで、俺達はその男が目覚めるのを待ちながら状況を整理し始める。

「明らかに、自分をリアだと思いこんでいたよな?」

 リアはコクリと頷く。

「それに、もう一人は兄の人格を宿している様に見えました。

 けれど、こんな状況に覚えなんて……」

「それがおかしいんだよ。

 リアがこの物語の状況を確認したのはそんな前の事じゃ無いよな?」

 俺とリアが出会ったその日にリアはこの話の状況を確認している。

それ故に俺もリアも油断していた。

本にロクに目も通さず物語へ入ってしまっていたのだ。

俺は懐からこの長いタイトルが付けられた本を取り出し、机を持ってきてそこに広げる。

「え……っ、書き足されてる……?」

リアが驚いたように声を上げる。

本の最後の頁には走り書きのような文字で、いくつか設定が書き込まれていた。

だがそのどれもが要領を得ない。

「記憶の共有化、目標の消滅、色々あるが、断片的だな。

 まるで物語に毒だけ与えて後は任せたかのように見える」

 そもそも、物語は書き手が投げ出したからあの場所にあったのだ。

なのに今になってわざわざこんな、まるで俺達を苦しめる為のような状況が出来ているのだろうか。

「私達の死体がそのままの状態で保存されていた事とも関係していそうですね……。

 目標の消滅というのもそのとおりです、ものあの人が言っていた国取りの話が本当だとすると……」

「リアが本来すべきだった国家間の戦争の集結はゴールにはならない、か」

 書き足されているということは、作者が急に筆を取ったという事だ。

だが現在進行で書かれているわけではなく、あくまで設定を殴り書いただけに見える。

それならば、それを覆す事が俺達の目的、言わばゴールになるわけだが、あまりにも情報が少なく、状況が悪い。

今はリアも落ち着いた風に話をしてくれているが、その心中を考えると胸が痛い。

「そろそろ……、人が来るかも……」

 俺とリアの話を聞いていたアルからそう言われ、思えば随分長い時間この空間にとどまっている事に気付いた。

敵対していない人間と戦うのはなるべく避けたいが、さっきの男の豹変のような事が何度も起こっても困る。

頭を悩ませていると、壁に殴りつけられて気を失っていた男が小さく呻き声を上げた。

リアはすぐにその男に駆け寄り、焦った風に話しかける。

「大丈夫ですか……?!」

「大丈夫も何も、ないね……。

 でも、キミらが生きてるんだな、つまりアイツラは……?」

 リアは首を横に振ると、男はハハッと声を出して笑う。

「まあ、そりゃそうだよな……。

 牢屋の中のも退けたか……。これは、思った以上だ。

 しかしまぁ、生き残ったのが俺か。

 貧乏くじはギリギリ引かずに済んだってわけだね」

「その話、詳しく聞かせて欲しいんです。

 私はその、国取りには本当に関わっていません。

 だから……、どうか教えてください」

 リアが男に深々と頭を下げると、男の表情も少しだけ和らいだ。

どうやら黙していたこの男が一番温和な性格をしていたようだ。

年齢も亡くなった他の二人より随分と上のように見える、その身なりも整っている事から、貴族か何かだろうと思った。

「あぁ……、途中まではアイツが話してたっけな」

 男は倒れている男を見ながら、ゆっくりと話し始めた。

「アルファとベータ、お互いに随分とやりあったもんさ。

 それに関わってたのは、キミだろう?」

 リアが申し訳無さそうに頷くと、男も小さく頷いた。

「まぁ、それについては戦争だからな。

 俺もアルファの人間を殺した。一番殺した、殺させたさ。だから人の事は言えない。

 今思えば不思議だった、急にしばらくの膠着状態が続いたんだ。

 それから、キミ達を名乗る奴らが国取りを宣言したのが少し前の話だ。

 それからは散々だね、ありゃどんな魔法なんだろうな、人格が次から次に乗っ取られていく。

 乗っ取られた人は終わりだ。女はキミに、男はキミの兄を名乗るようになって、国を中からも外からも壊した。

 少なくともこの国は終わりだよ、元々負け戦に近かったがね」


 男はふうっと大きく深呼吸して、心配そうに見つめるアルに笑いかけた。

「大丈夫だよ嬢ちゃん、そもそも此処は隔離されてる。

 人格が乗っ取られる兆候が見られた人間が放り投げられる地獄さ。

 ぼんやりとした光が見え始めたら、合図だ。

 そう遠くないうちに、それが俺の所にも来るはずだ。その時はキミ達、頼むよ」

 アルは真っ直ぐ男の目を見たまま頷いた。

彼女であれば、おそらく一思いにトドメを刺すだろう。

「あぁ、そりゃ有り難い。

 俺達としちゃ、やっぱりアルファを疑ってるよ。

 多少の膠着状態があった所で優勢なのは向こうさんだ。

 アルファお抱えの天才暗殺者リア・ミューゼスのお陰でもあったんだろうが、魔法の類もアルファの方が先を行ってたからな。俺はどうにも、魔法の類が嫌いでね。

 無骨でいて、真っ直ぐとした武を貫いたのは、失敗だったかねえ」

「いいえ、あの当時は敵国に属していたとしても、私のような搦手ばかりの人間にとって、その武の信念は羨ましく思う事もありました」

 リアが恭しく頭を下げると、男は大きく息を吸ってから声をあげて笑った。

「まさか、うちの忠臣を数え切れない程殺した相手がそんな事を思っていようとは、こんな状況で初めて笑えたよ。

 こんな状況じゃなきゃ、今すぐにでもキミを殺しただろうに。

 でも今となっては、あの頃のキミに殺されただけ我が忠臣達はマシだっただろうな。

 それに、搦手とは言ったが今のキミは剣を手に取っているじゃないか」


 その男、ベータの王はリアの剣の鞘に手を伸ばすが、その手は空を切って自らの膝の上へと落ちた。

「良い剣だ。こんな剣は我が国でもそうそう見た事が無い。

 生きていれば面白い事もあるものだな。

 そうして、死ぬ時にこそつまらない事の後悔がやってくるものでもある。

 なあ、リア・ミューゼス。キミは今もアルファの雇われかい?」

 ベータ王はリアの顔を真っ直ぐ見つめる。

リアが首を横に振ると、ベータ王は少し嬉しそうに笑った。

「では、キミを我が国で雇わせて欲しい」

「内容は……」

「アルファもベータも関係無い。諸悪の根源を、頼めるかい?

 難しいだろうか」

 リアはブンブンと首を横に振ってから「承りました」と一言呟いた。

 「それは良い、なら先に褒美を上げておかないとね」

 王は首元から薄緑色の石が嵌め込まれているペンダントを取り出して笑う。

「使えない魔法は嫌いだが、こういうのは、嫌いじゃないんだ。

 ほんの少しの魔力で使えるからね」

 王はペンダントを握りしめて、耳元に当てると、耳元で女性の声が聞こえた。

その内容は聞き取れなかったが、王は幸せそうな顔をして、そのペンダントを口元へと運ぶ。

「ベータ王の名に於いて、リア・ミューゼスの我が国への行いを全て不問とする

 不満はあるだろう、だが世界は変わった。巨悪を討ち滅ぼす可能性に、賭けようでは無いか」

 その言葉はまるで魔法のような許しの言葉だった。

それと同時に、呪いのような戦いの契約書だった。

「まあ、キミがこの言葉を盾に使う事も無いだろうが、一人の愚王の最期の言葉として、覚えておいてくれ給えよ」

 少し笑って、王は目を閉じた。

「では、最初の任務と行こうじゃないか。

 蝕む巨悪を、その剣で貫いてくれ」

 王の周りに光が集まっていく。 

リアが剣を手に一歩進んだ所で、王が少し焦ったように口を開いた。

「あぁそうだ、お嬢ちゃん、名も聞かないままに悪いね。

 キミの目も真っ直ぐで綺麗だった、キミに頼むのも悪くなかったけれど、リアに譲ってあげておくれ」

「はい……」と小さく返事をするアルに「中々強い目をするのに、不思議な子だね」と王は微笑んだ。

そうして少しずつ王の頭に光が集まり始め、それが収束する前に、リアは王の胸へと剣を突き立てる。

「やはり殺されるなら剣に限るな……、はは」

 光が霧散する中、リアの目から溢れた涙が、その剣の柄を濡らしていた。

「目的、もらっちまったな」

 リアが剣を引き抜き、その血を振るいながら、剣を鞘におさめる。

涙を拭い、彼女は牢屋の一室の前まで歩を進め、鍵がかかっていない事を確認してからそっとドアを押す。

「お話を、終わらせに行きましょう」

 その光の先がアルファの何処かだという事は、疑いようもなかった。

「それが出来るリア・ミューゼスは、一人だけだよ」

 そう言って、俺もリアの手の横に手を置き、一緒にドアを押した。

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