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次頁【ネクストページ】の代理人  作者: けものさん
第四冊『暗殺者の才能を生かして悪者を倒してたら私が暗殺される側になったので返り討ちにする事にしました』
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第四十八筆『私、主人公でーす……』

 物語は生きている。

誰かに産み落とされ、物語は命を持つ。

そんな世迷い言のような事実を信じられた事だけが、俺のしがない作家人生の果ての幸せなのだと思った。

リア・ミューゼスという天使のような、よく笑って、少しとぼけて、それでもやっぱり真面目で、何よりも物語を愛している女性に出会った事は、幸せを飛び越えて奇跡と呼んでも良い。

だから、俺がもしこの世界で力を手に入れたら、最初に行くべきはそこだと決めていた。

例え、それがどんな困難であっても―――


「もう一度言ってもらって良いか?」

 休憩も程々に、というよりも俺のあの告白じみたリアの世界を救いに行こうという宣言の後、俺達は毎日食を共にしながらも、少しだけそわそわとしながら、カークやアルに一つの簡単な問題を与えるかのようにお互いの出方を伺っていた。

「これはこれで面白くはあるのだが……」というカークの解答を封殺するかのように俺とリアは手にしたお茶をテーブルに置き、小さく頷いた。

そうして、俺達は本棚の所まで来て、リアが生まれた物語のタイトルを俺は聞き返す。

「だから『暗殺者の才能を生かして悪者を倒してたら私が暗殺される側になったので返り討ちにする事にしました』です」

 至極真面目な顔で読み上げたそのやや長いタイトルの本をリアから渡された俺は登場人物欄を見て目を疑った。

「これは、あり得る話なのか……?」

「えーっと……、あり得るんだと思います。だからこそ私が戻らなきゃいけないんでしょうし……」


――主人公:リア・ミューゼス


「じゃ、じゃーん……! 私、主人公でーす……」

 何とも言えないリアのリアクションにアルは純粋にパチパチと手を叩く、俺は困惑したまま顔を手で覆い、カークは無言を貫いていた。

「でも此処に居るという事は……」

「すごーーーく、理不尽なんですよ! 聞いてくれます?!」

 そこからリアの身の上話が始まった。

ティーカップを用意したいくらいの長話だったが、流石にカークも笑いを溢す程度には理不尽極まりなかった。


「要は、私の家はゴニョゴニョな問題を秘密裏に執り行うお仕事をしていてですね……」


 そこからは、はっきり言えばよく聞いた話だった。

その才能故に一族から嫉妬、及び危険だと判断されたリアは理不尽に見捨てられる。

一緒に修行を受けた兄妹にも仕方なくかは分からないものの見放され、野に放たれたリアは、途方も無いままに才能を使い生き延びていく。

そうしてリアが彷徨く周辺を統治していた王国に呼び出されたと思えば、隣国の要人の暗殺を依頼される。

要は戦争の道具としてその力を買われた訳だが、付いた国が悪かった。

隣国の要人の暗殺は容易い物だったが、それでも尚隣国の方が国力があった、武力があった。

 というのは、リアの一家は隣国に味方したのだ。

それ故に両国は拮抗状態、いやむしろ自国の方が不利ですらあった。

 やっと力を認めてもらったと思えばそんな不幸、しかも仕事はちゃんとこなしたにも関わらず自国の要人はリアが悪いなんて言い出したもんだから彼女はたまらない。

そして自分を捨てた一家は隣国に付いたなんて噂が広がり、リアの素性が明らかになってしまえば、両国に狙われる暗殺者の出来上がりというわけであった。


「ほんっとーに酷いですよね?!」

 憤慨で済ませているのが恐ろしいくらいの、仕組まれた理不尽。

この作者はリアをどうしたかったのか理解出来ない。

聞きにくかった最期もリアはその憤慨と共にぽろりと教えてくれた。

「最期は家族と刺し違えましたよ。タイトル詐欺です、返り討ちにすら出来てないんです。

 この命を持って疑り合いの馬鹿らしさを教えつけてやったわけです。

 見せ場なんて何にも無かったですよ、ただ走る暗器と金属のぶつかる音だけ、あの頃は私も物語という存在を知りませんでしたしね」

 お互いの国のお抱え暗殺者が死ぬという形で、両国はある程度拮抗した戦力となる。

死後リアの行いは讃えられるものの、それがリアの目にどう映ったかはその憤慨から分かる。

それでもリア一人で一家を殺し切るという所業は、明らかに物語に於けるチートに近い。

それだけの能力をリアに持たせておきながら、何故リアを此処で殺したのか、理解に苦しんだ。


「元も子も無いだろ、だって」

 その言葉にリアは少し冷めたような顔をしながら小さなため息を付いた。

「んん……、飽きたんですかね。

 この世界……、シェオンの司書になってから作者さんの事は調べました。

 名前は意味不明な文字列。だけれどこの作者さんの話で綺麗に完結した話は、一つも無い」

 リアの手が光り輝き、その衣服を撫でる。

「それでも、救いたかったんです」

「じゃあ、リアが今まで関わった物語は……」

「ほとんどが、この作者さんの作品です。

 悔しかった、適当に終わらされる物語が悔しかったんですよ。

 だから、私は司書になったんです」 


 アルが寂しそうな顔をしているのに気付いたのか、リアはアルの頭を優しく撫でた。

「大丈夫、アルちゃんの物語は違う人のお話、きっと今は上手く行ってるよ」

 リアがそう言うとアルは何も言わずに頷いた。

「それにしても、理解出来んな。

 創作というものを知らん我ですら疑問に思うぞ、話を続ける術はいくらでもあろう。

 リアがある種の支配の下にいたとして、逆らえないのは分かるが、 刺し違えるかどうかを決めるのは作者であろう。

 ならばそこでのリアの死は何の意味にもならぬ、つまらん話だ」

 カークのその言葉にリアが、大きく頷く。

「だから、知りたいんです。

 その続きが、主人公不在の物語が、どうなって、どうすれば救われるのか」

 その言葉にカークは「ああ、それでこそだな」と少し優しそうに呟く。

「ちなみに、主人公が死ぬなんて話は多いのか?」

 俺が先輩司書のリアに問うと、リアは首を横に振った。

「いいえ、主人公の最期は大体は物語の最終章に当たります。

 それに、断筆してしまう人のほとんども主人公をわざわざ殺しはしないんです。

 殺した上に物語が続くなんて、シェオンの中でも不思議な話で、大体は代理の主人公が生まれたりするけれど、私の場合は……」

「尚、リアが主人公なわけか」

 リアは小さい声で「はい……」と言いながら頷く。

「でも……、とりあえずは!」

 アルが少しだけ大きな声を出しながら顔を上げる。

「入ってみなきゃ……、ですよね?」

 彼女は彼女なりに、この話について思う所があるのだろう。

リアに懐いていた事もあるが、それ以上にある意味突貫的な彼女の生き様がその言葉を口にさせたと思った方が良いかもしれない。

けれど無駄と言っては悲しいが、思案を重ねがちな俺とリアを動かすのは、実はこの少女なのかもしれないな、と思いアルの頭を軽く撫でた。

「あぁ、そうだ。

 そうだよな」

 俺は『暗殺者の才能を生かして悪者を倒してたら私が暗殺される側になったので返り討ちにする事にしました』を手に持って、物語へ転送する例の部屋に歩を進めた。


「そういえば……」

 神妙な空気で気まずい所を、リアが俺の腕を引っ張った。

乙女じみた引っ張り方では無くグイイと引っ張られたので俺は思わず「うおお」なんて素っ頓狂な声を出しながらリアを振り返る。

丁度転送部屋はもうすぐそこだった。

「せんせの特別司書権利どうしたんです?」

 考えずにいたソレを突っ込まれて、俺は言葉に困った。

司書になった記念に一つだけ手にできる異能もとい、力は、俺には少し手にし難い物だったのだ。

「こんな時に悪いとは思う。けどまだ……」

 使い惜しみをしているというわけだった。

いつかもっと、重要な瞬間が来るのでは無いか、そんな想像に駆られて使う事が出来なかった。

「ん、それも正解だと思います。

 物語の中も言えばシェオンの一室です、使うべき時は何時だって使えるはずですから」

 その言葉に、俺は少しだけ胸を撫で下ろした。

ともすればこの特別権利は切り札にも鳴り得るという訳だ。

得られる力に付いて想像は尽きない。

だがきっとそれしか無いという瞬間があると俺は信じていた。

「なるべく、最高のタイミングで使うよ」

 リアにそう言うと、彼女は最高の笑顔を俺に返してくれた。

「そりゃそうです。そうしてください、私だって……うん、えっと、まぁそうしてください」

 彼女の特別権利の使用内容を知っている俺は苦笑しながら頷いた物の、ポケットから笑い声が漏れていた。

俺の少し赤い顔を見て、アルも少し赤い顔で気まずそうにしていた。

「とにかく!」

 俺は転送部屋の前で少し大きい声を出しながら皆を振り返る。

「話を聞く分には明らかに敵勢力が多い。だから皆、頑張ろう」

 言うと同時に、ポケットから「お主が一番危ういけれどな」と手厳しいツッコミを貰った。

けれどアルとリアの二人は頷き、お互いの獲物を小さく掲げてみせた。

その仕草に心強さを感じながら俺達は転送部屋に入り、妙に長いタイトルのリアの本を机に押しこんだ。

 リアが目を瞑っているのが印象的だった。

けれど、乗り越えなければいけないのだ。

それだけは何となく分かった。

俺もきっと、乗り越えなければいけない事があるはずなのに、未だそれに気づけ無いでいる。

この世界に転生した事、その意味を俺は今も探している。

けれど、もしかするとこの物語で見つけることが出来るかもしれないと、そんな小さな、利己的な希望を抱きながら、俺達は光に包まれていった。

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